小麦・小麦粉に係る基礎知識

小麦・小麦粉の科学

小麦粉にはどの程度の熟成が必要なの?

 米は新しいのがおいしいが、小麦や小麦粉は少し時間が経った方が使いやすくて、おいしいものをつくりやすい。なぜそうなのか、どれくらい経ったものがよいのかを考えてみたい。

小麦粉の熟成(エージング)とは
 収穫直後の新しい小麦から挽いた粉はおいしいパンやパンケーキになりにくいが、小麦を何か月か置いてから製粉すると、使いやすくて、おいしい加工品になりやすい。なぜだろうか?
 収穫直後の小麦粒の中では、細胞組織が生きており、小麦粉に含まれている成分を分解する作用がある各種の酵素の活性が強く、さらに小麦粉生地を軟らかくする還元性物質の量も多いので、不安定な状態にある。こういう状態の小麦粉でパンやケーキをつくっても、生地がだれることや、思うように膨らまないことがある。
 収穫した小麦は時間の経過と共に自然の酸化が徐々にではあるが進んで、少し安定した状態になる。こうなった小麦を原料として使い、小麦を製粉する工程で機械や装置間を空気搬送によって移動することにより小麦粉の粒子が空気と混ざり、さらにこれを倉庫にしばらく置くと、小麦粉の自然酸化が急速に進む。このようにして安定した状態になった小麦粉は、おいしいパンやケーキなどに加工しやすくなる。このような小麦や小麦粉の微妙な品質変化を「熟成(エージング)」という。

小麦段階での熟成

  小麦の熟成は収穫直後から少しずつ進んではいるが、その速度は緩慢である。日本で製粉に使う小麦の8割以上をアメリカ、カナダ、およびオーストラリアから輸入しており、輸出国での集荷や海上輸送などに時間がかかるから、通常は収穫してから数か月以上経過したものが入荷する。つまり、ある程度、自然の熟成が進んだ安定した状態のものを使っていることになる。
 ただし、その年の気象条件によって小麦中の酵素の活性が特に強かったり、還元性物質が多いことがあり、こういう状態の小麦を「新麦性が強い」といっている。こういう小麦は通常の年の小麦に比べて長い熟成期間を必用とするので、新麦性が強い状態が安定するまでねかせるが、パンなどの加工面でも技術的な配慮が必要になる。
 国内産の小麦の場合には、畑から製粉工場に届くまでの期間がもっと短いことも多いが、製粉工場のサイロの中である期間寝かせて、熟成が進むよう配慮している。また、主用途が小麦粉の熟成をあまり必要としないめん類なので、多少熟成が不十分でも加工上の問題はない。

小麦粉の熟成はどの程度必要か
 
熟成がある程度進んだ小麦を使い、空気搬送を使った製粉工程で小麦粉を製造すると、小麦粉の粒子が空気に良く触れるので、1〜2日で急速に熟成が進む。
 小麦粉の最適熟成期間がどのくらいかについては、何人かの学者が研究報告を出している。Prattによれば、小麦粉は製粉後7〜11日までの間は化学的な変化が認められるが、その変化は製パン試験の結果に現れるほど大きくはないという。Fisherは製粉直後の小麦粉の変化は酸化剤を添加した場合の変化と同じだと報告し、Bennetらは製粉後の小麦粉の変化はあまり大きくないと述べている。
 「小麦の化学と技術セミナー」(アメリカ穀物化学者協会と製粉協会共催、1979年、東京)で、カナダ国際穀物研修所技術部長のTweedは、製粉直後の24時間の変化が特に速くて大きいが、その後はそんなに大きな変化をしないと報告した。同じセミナーで、オーストラリア小麦庁品質責任者のCracknelとオーストラリア連邦科学産業研究機構小麦研究室長のSimmondsは、同国では小麦粉の熟成期間はとくに問題になっておらず、製粉会社のサイロや倉庫に3〜4日置いてから出荷するのが普通、と述べた。原料小麦の品質や熟成条件が違うし、パンなどの加工品の種類や品質も違うので、普遍的な実験条件を設定しにくいこともあって、共通の学問的な結論は得られていない。
 筆者らの試験では、収穫してから数か月経過したカナダ産小麦を原料として使用した場合、製粉後3日くらいで実際の製パン上はほとんど問題のない程度にまで熟成が進行することを認めた。

図 製粉後の日数とパンのつくりやすさ

 熟成について充分配慮されて製造された小麦粉も、科学的には長期間にわたって少しずつ酸化が進んでいく。しかし、これまで得られた知見と経験を総合すると、図のように通常の年には実用的には製造してから3日くらいで、パンをつくるのには問題がない程度にまで熟成が進むと考えてよいと思われる。現在、業務用の小麦粉は、従来からの商習慣や、品質検査、荷扱い上の都合などから、実際にはそれよりも少し長めに製粉工場の倉庫に置かれて、出荷されている。家庭用の1kgや500g詰めの小麦粉は、流通過程で充分な熟成期間が保たれているので、熟成を気にする必要がない。
  なお、長期間にわたって少しずつ酸化が進むため、長年月経過した小麦粉は枯れすぎ(過熟成)の状態になりやすく、パンなど用途によっては使いにくくなることがある。そのため、製粉協会では強力粉6ヶ月、薄力粉1年を賞味期限の目安にしている。かすてら、天ぷらなどの老舗では、小麦粉を枯れすぎくらいの状態にしてから使う場合もある。


(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)




デュラム小麦はパン小麦とどこが違うの?

 前回までの「小麦・小麦粉の商品知識」シリーズでは、小麦・小麦粉について商品としての一般的な知識を整理した。今回からの「小麦・小麦粉を科学する」シリーズでは、小麦・小麦粉を少し突っ込んで考察してみたい。
 デュラム小麦は粒が硬いし、グルテンの性質も他の小麦とはかなり異なる。パン小麦と比べて何が、どう違い、パスタ以外にどんな用途があるのだろうか。

デュラム小麦は3800万トン生産されている
 世界のデュラム小麦生産量は増加傾向にある。2004年産は3800万トンと予測され、全小麦生産量(5億9920万トン)の6.3%に相当する。ヨーロッパとアフリカの地中海沿岸諸国、北アメリカ、インド、カザフスタンなどが主産地である。アルゼンチン、オーストラリアでも作られている。中でも、カナダ、イタリア、トルコ、アメリカの生産量が多い。
(デュラム小麦)

染色体の数が違う
 小麦の体細胞には多数の遺伝子があり、それらが7本の染色体(この1組を「ゲノム」と呼ぶ)に分かれて座乗している。ゲノムにあるすべての遺伝子が働くことによって、個々の遺伝子が機能を発揮でき、生命活動を営むことができる。
 小麦の体細胞の染色体数は14、28または42である。つまり、7本の染色体からなるゲノムを2つ、4つまたは6つ持つので、2倍体、4倍体または6倍体である。2倍体を「一粒系」、4倍体を「二粒系」、6倍体を「普通系」と呼んでいる。
 小麦はイネ科のコムギ族のコムギ属(Triticum)に属しており、その中にいろいろな種がある。最も多く栽培されている種は普通系(6倍体)の「パン小麦」(「普通小麦」ともいう)(Triticum vulgare)である。アメリカ産のウエスタン・ホワイト小麦に混ぜられているホワイト・クラブ小麦や、オーストラリア産のソフト小麦は「クラブ小麦」(Triticum compactum)という種で、これも普通系である。ところが、「デュラム小麦」(「マカロニ小麦」と呼ぶこともある)(Triticum durum)は二粒系(4倍体)で、染色体がパン小麦やクラブ小麦の42に対して28しかない。

コムギ属の代表的な栽培種

  ゲノム式 染色体数 種名 普通名
一粒系 AA 14 T.monococcum ヒトツブ小麦
(2倍体)        
二粒系     T.dicoccum エンマー小麦
(4倍体) AABB 28 T.durum デュラム小麦
      T.polonicum ポーランド小麦
      T.turgidum イギリス小麦(リベット小麦)
普通系     T.aestivum パン小麦(普通小麦)
(6倍体) AABBDD 42 (T.vulgare)  
      T.compactum クラブ小麦
      T.spelta スペルト小麦
(T.=Triticum)

粒が硬くて、独特のグルテンを形成
 デュラム小麦の品種は、乾燥した土地での栽培に適したものが多い。粒は大きくて、硬く、胚乳は半透明のガラス質である。「デュラム」という名称は、ラテン語の「硬い」を意味するdurに由来する。普通は粒が硬いと製粉しにくいが、デュラム小麦用に特別に設計された製粉工程を使い、ていねいに粉砕、ふるい分け、および純化を行うことによって、でんぷんやたんぱく質の組織を破壊しないように「セモリナ」(小麦胚乳の粗粒)として採取する。セモリナに混ざったふすま片は純化工程で除去しやすいので、小さなふすま片の混入を特に嫌うパスタの原料として好適である。
 小麦粒はこはく色のものが多い。胚乳には「キサントフィル」というカロテノイド系の黄色色素が多く含まれており、明るい黄色のパスタの製造に好都合である。
 たんぱく質の量が多い。結合力が強く、適度の伸展性があるグルテンを形成できる。生地中でグルテンが均一な網目状になりやすい。しかも、グルテンは可塑性があり、弱い力でも変形しやすい。そのため、生地を作りやすく、ダイスからの押出しも容易である。茹でると生地中に分布したグルテンが熱変性を起こし、歯応えのある食感を作り出す。
 アミノ酸組成とたんぱく質構成比はパン小麦と大きな差がない。しかし、たんぱく質を細かく見ると、6倍体小麦にはあるアルブミンのうちの2つの画分(13Aと13B)とグリアジンのうちの電気泳動での移動度が低い画分がないことが分かっている。また、顕微鏡的には、パン小麦のグルテニンはまとまった一方向の繊維状だが、デュラム小麦のグルテニンはランダム方向のリボン状であるという特徴が認められている。
 でんぷんのアミロース含量はパン小麦よりやや高い。でんぷん粒の構造密度がやや低いためか、糊化開始温度がやや低い。でんぷんの水結合力は高めである。
 デュラム小麦の中では、たんぱく質中にγ-グリアジンバンド45を持つ品種、グルテニン/グリアジン比が高い品種、および不溶性たんぱく質を多く含む品種は、食感が良いパスタを作りやすいことが示されており、育種に活用されている。逆に、γ-グリアジンバンド42を持つ品種はグルテンの弾力回復が劣るので、良い食感のパスタを作りにくい。

パスタ以外にも使われている
 デュラムセモリナの主な用途は、スパゲティ、マカロニなどのパスタ類であり、その需要は伸びている。中東、北アフリカ、およびヨーロッパでは、パスタ以外にも使われている。北アフリカの伝統的な食品である「クスクス」(couscous)はデュラムセモリナを加工したものである。セモリナを食塩水と混ぜ、塊形成、成形、蒸し、ほぐし、乾燥、冷却の工程を経て、大きさで粗、中、および細クスクスに分ける。クスクスは、アルジェリア、リビア、モロッコ、チュニジアなどでは主食であり、週に2〜3回食べられる。couscousi 、 couscouso、またはaeshとも呼ばれる。蒸したセモリナで作ったシチューをクスクスと呼んでいるところもある。
 アルジェリアのMatlowaのように小麦粉と混ぜて生地を作って焼く平焼きパンもあり、最近、中東や北アフリカではパンへの消費量が増えている。ケーキや菓子パン類の製造にも使われる。日本でもパスタ以外の用途が考えられる。


(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)


硬質小麦と軟質小麦ではどこが違うの?

粒が硬い小麦を硬質小麦、軟らかいのを軟質小麦と呼び、それぞれ異なる用途に使われている。そのような小麦粒の硬さの差はどうして生ずるのだろうか。

 

<硬質小麦>  <軟質小麦> <中間質小麦>

    
硬質小麦と軟質小麦がある
 小麦は粒の硬さで「硬質(ハード)小麦」と「軟質(ソフト)小麦」に大別される。一般的には、普通小麦(パン小麦)の中で粒が硬いものを硬質小麦、軟らかいものを軟質小麦と呼んでいる。普通小麦以外では、デュラム小麦は粒が硬いので硬質小麦であり、クラブ小麦の多くは粒が軟らかいので軟質小麦として扱われている。
 ただし、硬質とか軟質というのは相対的なもので、その国の歴史的な小麦事情や用途によって、解釈に微妙な差がある。他の地域と異なるのは西ヨーロッパで、菓子用には粒が軟らかい小麦が向いていることは認識されているものの、デュラム小麦を硬質小麦と考え、それ以外の普通小麦やクラブ小麦などをすべて軟質小麦と呼んでいる。東ヨーロッパでは、普通小麦を硬質小麦と軟質小麦に分けているが、区分けの基本はパン用としての適性であり、パンに向かない品質の小麦を軟質小麦としている国が多い。
 硬質小麦は軟質小麦に比べてたんぱく質が多くなる傾向にあるが、硬質小麦の中でもたんぱく質が少なめの小麦を「準硬質小麦」と呼ぶことがある。日本の小麦を「中間質小麦」として分類することがあるが、その大部分は基本的には軟質小麦である。

細かい粒になりやすいかどうか
 軟質小麦を粉砕すると粒度が比較的細かい粉になりやすいが、同じ条件では硬質小麦は粗めの粉になる。硬質小麦の胚乳に粉砕のストレスを加えると、主として細胞壁に沿って破砕が起こり、細胞内部まで粉砕が及びにくいが、軟質小麦に同じ処理をすると、細胞内部まで粉砕が及ぶ。写真のように、硬質小麦の粉ではでんぷん粒が露出していないブロック状の粒子が多いが、軟質小麦の粉には単粒化されたでんぷん粒が多くみられる。
 このような破砕性の違いは小麦粒の内部構造の差に由来し、二つの考え方で説明されている。そのうち主流になっているのは、硬質小麦は軟質小麦に比べて、でんぷん粒表面に結合しているたんぱく質が多く、それらがしっかりと付着しているという考え方である。また、でんぷん結合たんぱく質の大部分を占める水溶性たんぱく質の分子量分布に差があり、軟質小麦には分子量が15,000程度の低分子量のたんぱく質が存在するが、硬質小麦には低分子量のたんぱく質はわずかか、まったく存在しない。もう一つの考え方は、軟質小麦ではたんぱくマトリックスが不連続なので粒がもろく、硬質小麦ではそれが連続しているので粒が硬いというものである。いずれにしても、軟質小麦ではでんぷん粒とたんぱくマトリックスの分離が容易なので、遊離のでんぷん粒を比較的多く含む粉になる。

粒の硬さは遺伝的なもの
 小麦粉の硬さは染色体に由来する遺伝的なものである。たんぱく質の量の影響は小さい。気象および土壌条件の影響も少し受けるが、遺伝的特性が変わるほどではない。
 硬質小麦は硝子質粒に、軟質小麦は粉状質粒になりやすい。しかし、硝子質になりやすさには、光、温度、雨量などの環境要因や、たんぱく質の量も影響する。例えば、硬質小麦でも生育後期に雨が多いと、たんぱく質は多くならず、硝子質粒にもなりにくい。
 硬質小麦の多くは軟質小麦に比べて、温度や乾燥などの環境変化への耐性が大きい。軟質小麦は春播性、秋播性共に、降雨が適量か充分ある温暖な気候に適応性があり、そのような条件下では、収量が高く、たんぱく質が少ないか中ぐらいで、粉状質の粒になる。

生産量の比率は
 硬質小麦と軟質小麦に分けた生産量のデータはない。1981年にAACC(アメリカ穀物化学者協会)が出版した「Soft Wheat」では、世界で生産される小麦のうち約25%が軟質小麦で、残りは硬質小麦だと推定した。当時、フランス、イギリス、イタリアなどヨーロッパ主要国の小麦は軟質小麦が多く、ヨーロッパ全体でも半分くらい軟質小麦だったが、その後、パン用適性向上を目的とした品種改良が進み、硬質小麦の割合が増えた。
 アメリカ小麦の約70%は硬質小麦で、残りは軟質小麦である。オーストラリア小麦は半分くらい、中国小麦は1/3くらいが軟質小麦である。

特性を活かした使い方がされている
 硬質小麦は一般にたんぱく質が多く、生地の力が強いので、主用途はパンである。粉の吸水力も大きい。硬質小麦の中でも、たんぱく質が多い小麦は食パンのような型焼きパンに、たんぱく質が少ない小麦はフランスパンのように大きな膨らみを必要としない直焼きパンや、中華めんタイプのめん、即席めん、マントウなどに加工される。ほとんどが硬質のインド小麦はたんぱく質が多くないので、膨らみやグルテンのソフトさをあまり必要としないチャパティやナンなどの平焼きパンにして食べられている。
 軟質小麦は一般にたんぱく質が少なく、その質が軟らかいので、ケーキ、ビスケット、クッキーなどの菓子類の製造や天ぷら作りに適している。軟質小麦品種にたんぱく質の量があまり多くない硬質小麦品種を配合したオーストラリア・スタンダード・ホワイト小麦や、軟質小麦だがたんぱく質がやや多い日本の小麦の多くは、ある程度の弾力とソフトさのバランスを求められる日本めんに使われる。フランスでは軟質小麦も製パンに使う。

(硬質小麦の粉) (軟質小麦の粉)
走査型電子顕微鏡写真
(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)




低アミロ小麦とは何か?


「低アミロ小麦」という略語が、関係者の間では当たり前のように使われている。低アミロ小麦とは何か?小麦粉の二次加工性にどんな悪影響があり、低アミロ小麦の発生や流通をどうしたら防げるのかを考えてみたい。

 図1.スポンジケーキの品質に及ぼす発芽粒混入の影響

    健全粒のみの場合   発芽粒が混ざっている場合

1968年のことだった
1968年の秋、収穫したばかりのウエスタン・ホワイト小麦を満載したパールマーチャント号が神戸港に到着した。たんぱく質含量は多くなく、その質もソフトだったので、二次加工で使いやすい薄力粉が出来たはずだった。ところが、その小麦で挽いた粉が出荷され始めて1〜2日後には、たこ焼き屋さん、天ぷら屋さん、ケーキ屋さんなどから、「粉を水で溶いてもさらさらで、品物がよくできない。」というクレームが製粉工場に殺到した。
よく調べるとアミログラフで測定した粘度がほぼゼロに近かった。それまでも粘度が低めの小麦はあったが、こんなにひどいのは初めてだった。すぐ輸入が中止され、3ヶ月ほどをかけて日米間で原因の究明と今後の対策を練る作業が行われた。
小麦が収穫直前に雨害を受けて発芽したことが原因だった。アメリカの製粉会社は雨害を受けた小麦を買わない。また、軽度の雨害だと、クッキーとクラッカーでは影響が見え難く、ハイレシオ(粉以外の材料の配合が多い)で多量の塩素をかけた粉を使うケーキでも影響が出にくいから、アメリカの関係者には発芽小麦が二次加工で大きな問題を引き起こすという認識がなかった。天ぷら、たこ焼き、今川焼き、ケーキなど幅広い用途に使う日本の技術的な主張を理解してもらうのに時間がかかった。
この事件がきっかけとなって、発芽小麦が二次加工性に悪影響を及ぼすことが世界的に認識され、穀物の学会などでも採り上げられるようになった。

低アミロ小麦とは
小麦が、畑で収穫直前に雨や湿度が高い気象条件にさらされたり、収穫後に雨に濡れたり水分が多い状態に長く置かれると、発芽粒が生じやすい。胚芽から芽が出たものは発芽の程度が相当に進んでいて、でんぷんを分解するα−アミラーゼの活性が特に高いほか、たんぱく質分解酵素の活性も高い。芽が出ていなくても酵素活性が高い小麦があるから、発芽粒の検査だけでは不十分である。また、そういう小麦粒が少量混ざっただけでも全体の品質を低下するから、厄介である。
 このような小麦から挽いた粉についてフォーリング・ナンバーやアミログラフ試験を行うと、測定値が極端に低い。健全な小麦と発芽粒混入小麦の粉のアミログラフ粘度曲線を図2に示した。縦軸は粘度(単位はB.U.=Brabender Unit)を、横軸は時間経過に伴う温度上昇(25℃から出発して1分間に1.5℃ずつ上昇)を示している。粘度が一番高いところが「アミログラム最高粘度」で、「アミロ粘度」と略称することが多い。
 日本では、小麦をビューラー社製のテストミルで挽砕して得た60%歩留りの粉(60%粉)について行ったアミログラフ試験の最高粘度値を標準の測定値としている。このアミロ粘度が400B.U.以上であればこの点では健全な小麦である。300B.U.以上ならほぼ正常と考えてよい。それ未満は問題を抱えている確率が高い。特に、100B.U.以下のものはα−アミラーゼ活性が強いので、健全な小麦に少量配合して使うことすら難しい。フォーリング・ナンバーやラピッド・ビスコ・アナライザーなどの簡易測定法による結果は、目安である。

 図2.健全な小麦と発芽粒混入小麦のアミログラフ粘度曲線


二次加工性への悪影響
低アミロ小麦の影響が最も大きいのは、小麦粉に水、その他の液体を多めに加えてどろどろの状態(バッター)にして使う用途である。バッターは水分が多いからα−アミラーゼが活発に働き、でんぷんを分解しやすい。ケーキの場合、オーブンでは気泡が膨らむが、それを包むでんぷん糊の膜が弱いから、冷えるとケーキの形を保てなくて図1のように中央が陥没する。口の中で軽く溶けるような食感ではなく、くちゃくちゃでおいしくない。
 天ぷらにはきれいに衣がつかない。たこ焼きや今川焼きなどはきれいな形の製品に仕上がらない。ビスケットやクッキーは薄くて横に広がり過ぎた形になり、包装容器に納まらない。生地が軟らか過ぎて作業がしづらいこともある。
 めんを茹でると、表面から煮崩れが起こって滑らかさとコシがなくなる。乾めんの乾燥では、竿から落ちやすい。製パンでは、生地が軟らかくてべたつくので、吸水量を減らさなければならないし、工程で機械的なトラブルが起こることもある。パンは側面が凹み、弾力が乏しく、すだちも好ましくないので、おいしくない。

★ 発生を防ぐための努力
フォーリング・ナンバー値やアミログラム最高粘度が低い小麦は製粉用として不適当なので、そういう小麦が食用に流通しないように各方面で努力がされている。雨でも発芽しにくい品種の開発も試みられ、カナダの品種の中にはそういう傾向の特性を備えたものもある。収穫期の天候が悪い年には、晴れ間を利用しての適期の刈り入れが欠かせない。
日本への輸出国であるアメリカ合衆国、カナダ、オーストラリアはもちろんのこと、日本でも、農家やカントリー・エレベーターでの低アミロ小麦への認識度が高くなった。フォーリング・ナンバーやラピッド・ビスコ・アナライザーによる自主的な検査や買い入れ条件への導入も行われている。不幸にして低アミロ小麦が発生しても、流通の初期段階での仕分けが徹底するようになったので、極端に悪いものは日本の製粉工場に入らなくなった。しかし、油断は禁物であり、引き続いての努力と注意が必要である。

(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)




パンはどうして膨らむの

 小麦粉にイーストを加えて水と捏ねた生地は、イーストの発酵力によって大きく膨らみ、おいしいパンに仕上がってゆく。パン生地の中で、何が、どのように膨らんでゆくのか、なぜ、グルテンの質が良い強力粉を使うと良いパンになるのかを考えてみたい

イーストが発生する炭酸ガスを逃がさないように

化学膨剤で膨らませるパン、蒸しパン、平焼きパンなど、パンの仲間は数多くあるが、ここでは、小麦粉を主原料にし、イースト(酵母)の力を利用して発酵させ、焙焼する一般的なパンを取り上げることにする。このようなパンをつくるための必須原材料は小麦粉、食塩、水、およびイーストであり、砂糖、油脂などは必要に応じて加える。
  パン生地の膨張は、これらの原材料を混ぜて生地にする混捏工程から始まる。空気中で混捏すると、生地全体の容積の1割弱に相当する空気が練り込まれ、生地の中に無数の小さな気泡ができる。この気泡が、後にイーストから発生する炭酸ガスの核になる。
  混捏から第一発酵や中種発酵までの工程で、イーストが小麦粉中に少量含まれている糖類に作用して発酵し、炭酸ガスとアルコールを発生する。砂糖が配合されている生地では、次に、イーストが砂糖をブドウ糖と果糖に分解してから利用する。また、でんぷんの一部も酵素によって分解されて、イーストの発酵のための栄養源になる。パンづくりの基本は、このようにして発生する炭酸ガスを逃がさないように、どう上手に包み込んで受け止め、パンの膨張につなげていくかである。

小さな気泡を数多くつくる
  混捏によって、生地の中にある空気や炭酸ガスの周りには膜が形成される。膜の表面には薄いグルテンの層が張り付き、でんぷんは膜の内側に引き入れられた状態になって、空気や炭酸ガスを保護する。膜の中に包み込まれていた空気や第一発酵や中種発酵によって発生した炭酸ガスが膨れていくにつれて、生地中のグルテンとでんぷんが絡み合った系から必要なグルテンが順次引き出されて、膜が破れないように表面をカバーする。
  発酵後に生地を分割、丸め、整形する過程でガス抜きが行われると、生地は混捏直後の状態に近い大きさまで収縮する。ガス抜きを行う目的は、大きいガス泡を壊して小さな数多くのガス泡に分散させることで、その各々の小さな泡を核にして再びガス泡が成長することを狙っている。生地に圧力がかかることによって、炭酸ガスの一部は生地の中の水に溶解する。

図  パンが膨らむしくみ

膨張はホイロと焼成でバランス良く
  整形した生地は、ホイロでしばらく時間が経ってから急速に膨れ始め、膨れ続けて、やがて限界に達する。限界に達した後は、イーストがさらに炭酸ガスを発生させても漏れてしまい、それ以上生地を膨らますことはできないから、限界に達する少し手前にホイロでの膨張の最適点があるといえる。
  ホイロで最適状態に膨らんだ生地を高温になっているオーブンに入れると、生地の温度が上昇していく。生地温度がイーストの死滅温度の60℃近くに達するまでの数分間に、かなりの炭酸ガスが発生し、膨張が急速に進む。これが「オーブンスプリング」と呼ばれる現象である。分割、丸めなどの操作で生地に圧力をかけたことによって生地中の水に溶解した炭酸ガスは、オーブン中での生地温度の上昇とともに気化して、パンをさらに膨張させる一因にもなる。イーストの発酵で発生したアルコールは、生地の伸びとパンの風味や香りに関与する。
 オーブンでさらに生地の温度が上昇すると、生地中のグルテンの膜が熱によって変性して固化するとともに、でんぷんが糊化し、表皮がカラメル化してパンに焼きあがる。ホイロで膨らみすぎた生地では、オーブンに入ると気泡が壊れて落ち込む、いわゆる「窯落ち」という現象が起こる。ホイロとオーブンでの膨張の比率が8:2くらいのときが、良いパンになりやすい。このくらいの比率だと、生地内部にできたガス泡の膜が適度な気密を保ちながら次第に伸びてゆくことができるので、伸びる途中で膜が伸展の限界に達して切れてガス泡が合体してしまうということが少ない。

良いパンは質が良い強力粉から
  生地の中にガス泡が数多くでき、それらが互いに合一しないように膨張すると、膜が薄くて伸びた良いパンになる。ガス泡の膜が弱く、しかも伸展性がない場合には、ホイロやオーブンで時間の経過とともに泡が崩れ、互いに合一してしまうので、膜が厚くて目が粗いパンになる。薄いガス泡の膜ができ、それが良く伸展するように、小麦粉と製パン条件を選ぶ必要がある。
  グルテンはガス泡膜を形成している連続相の中心的な成分なので、それが多いか少ないか、伸展性が良いか悪いかによってガス泡膜の気密性に大きな差が 出る。良質のたんぱく質を多く含む強力粉は、オーブンスプリングが大きい。パン用粉の主原料としてNo1カナダ・ウエスタン・レッド・スプリング小麦が使われているのは、この小麦から挽いた粉のグルテンの量が多くて伸展性が良いからである。たんぱく質の量が多くても、グルテンの質が硬くて伸展性が悪い小麦からは、良質のパン用粉をつくりにくい

(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)




ケーキ作りではでんぷんが主役

 小麦粉菓子の種類は多い。中でもスポンジケーキには小麦粉の品質が反映されやすいので、それを作ってみると、小麦粉の菓子類全般への適性を推測できる。スポンジケーキ作りで小麦粉成分がどんな働きをするかを考察する。

スポンジケーキの第一歩は配合
 良いスポンジケーキ作りには配合が重要である。全卵を100とした場合に、砂糖を70〜80、小麦粉を50〜70配合するのが一般的で、それらのほかに、牛乳、牛乳と水、牛乳と油脂、または牛乳と油脂と水を加える。 砂糖と卵の量を増やすと、よく膨らみ、ソフトで口溶けが良い食感になるが、安定した品質の製品を作るのには技術が要求される。また、冷却後にケーキの中央が陥没しやすい。

生地作りがポイント
  卵に砂糖または砂糖と水を加え、泡立てて「種」を作る。これに小麦粉を加えて混ぜる「粉合せ」を行い、さらに牛乳を合せて「生地」にする。小麦粉を加えて軽く混ぜるだけだと粉合せが不十分になり、生地の比重が低くなる。このような生地中では小麦粉が均一に分散されていないので、卵と砂糖で出来た気泡を小麦粉が包むのではなくて、気泡の表面に部分的に付着する程度である。そのため、種より比重が重い小麦粉がケーキの下方に沈み、軽い気泡が上方に浮くので、よく膨らむが、内相が不均一ですだちが粗くなり、ざらつく食感のケーキになる。
  逆に、粉合せで必要以上に混ぜ過ぎると、種の気泡が壊されるので、膨らみが悪くなり、体積が小さくて、どっしりと重いケーキになる。種の気泡を壊さないように小麦粉を均一に分散させる必要がある。そのため、種、粉合せ後の生地、および牛乳合せ後の生地の比重を測定し、それらの変化で、粉合せの程度を管理する方法が勧められている。

小麦粉成分の役割
  生地に抱き込まれた気泡の一つ一つを小麦粉とその他の原材料が混ざったペースト状のものが包んでいる。熱が加わると気泡は膨張して良く膨らみ、同時に、小麦粉のでんぷんも糊化して伸びやすくなるので、気泡はオーブンの中で大きくなる。気泡は、細かいのが多くあるほどよい。
 加熱初期にでんぷんが水を吸って膨潤する速度は、生地の粘度と安定性に影響する。焼成が進むと、生地は気泡を抱き込んだ懸濁液状から、隙間がたくさんある固形に変わる。この過程でのでんぷんの吸水状態がケーキの性状を支配する。小麦粉のでんぷんは、卵、牛乳、小麦粉のたんぱく質、砂糖などと水を奪い合う。砂糖と小麦粉の関係では、砂糖を溶液状にするのに十分な液体がないと、小麦でんぷんの糊化に必要な水を奪うことになる。でんぷんが必要な水を吸収できないと、良い構造のケーキにならない。
  ジャガイモ、サツマイモ、米のでんぷんでは、大きな体積が出ないし、食感もねちゃついたり、ぱさつく。トウモロコシでんぷんは、ある程度の大きさのケーキになるが、ぱさつく食感で、乾きが速い。小麦粉のでんぷんの形、大きさ、吸水力、糊化性状などが、他のでんぷんよりもケーキ製造に適しており、たんぱく質も重要な役割を果たしている。
  糊化したでんぷんが気泡を外側から包み込んで保護するセメントの役割を果たしているが、それだけでは潰れやすい。たんぱく質は糊化したでんぷん粒子の間にあって、熱によって変性して硬化し、鉄筋のように気泡を守っている。
  ただし、粉合せで必要以上にこね過ぎるとグルテンがしっかり形成され、鉄筋が強すぎて、気泡の十分な膨張が妨げられ、体積が小さい、重い感じのケーキになる。小麦粉中のたんぱく質の量が多過ぎる場合にも、同じことが起こる。逆に、たんぱく質の量が少な過ぎたり、その性質が極端に弱いと、鉄筋が必要な強さにならないで、気泡が膨張し過ぎ、オーブンから出た後にケーキが収縮する恐れがある。
  小麦粉に少量含まれる脂質は、種に小麦粉が均一に分散するのを助け、小麦粉が気泡を均一に取り囲めるように作用する。また、ケーキにしっとり感を与える。


良質の薄力粉から

 ケーキの好ましくない性状と考えられる原因を表にまとめた。ケーキ作りには良質の薄力粉が欠かせない。オーブンでよく膨らみ、冷却後も極端に収縮しないで体積が大きく、内相のキメが細かくてソフトな食感のケーキができる小麦粉が求められる。
  そのためには、たんぱく質の量が少なくて質がソフトで、でんぷんの糊化性状がケーキ作りに適しており、でんぷん分解酵素のα-アミラーゼの活性が強過ぎない小麦が必要で、アメリカ産のウエスタン・ホワイト小麦は概ねそのような特性を備えている。粉の粒度も細かくて揃っているのがよい。
  小麦粉の使用量も重要で、少ないと浮きが良く、ソフトになるが、少な過ぎると焼成後の冷却によるケーキの陥没が生じやすく、時には、オーブン内で落ちることもある。使用量が多いと、浮きが悪く、膜が厚い、重くしまった硬いケーキになる。

 表 ケーキの好ましくない性状と考えられる原因

(おおまかな分類なので、必ずしも当てはまらない場合もある)


(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)






製粉性が良い小麦とは?

  食用の小麦は、製粉され、小麦粉が有効に利用されてはじめて、その価値を生ずる。従って、製粉性(良質の小麦粉がいかに多く、容易に、安定して得られるか)、および二次加工性(おいしい小麦粉加工品がいかに歩留り良く、容易に安定してつくれるか)が重要である。製粉性を決定するのは、(1)混入している製粉不適物の種類と量、(2)製粉用として好ましくない小麦粒の種類と量、および(3)小麦粒の物理的性状と水分含量である。

小麦粒以外のものは要らない
 小麦は製粉に適する物理、化学特性を備えた健全粒100%であってほしいが、現実にはそれは無理のようである。でも、健全な小麦粒以外のものはできるだけ少ないことが望ましく、商品としての小麦生産と流通過程ではそれを最小にする努力が求められる。
  きょう雑物、異物、および著しい被害を受けた小麦粒は、製粉不適物である。「きょう雑物」は、雑草種子とその茎、小麦のもみがらや茎、砂、泥、および石、石炭、鉱物、コンクリート破片、金属破片などの固形物、小麦以外の穀物などのうち大きさが小麦粒とかなり違い一般的な精選機で容易に分離できるものである。これらは不要なものであり、量が多いと精選効率が低下し、余分なエネルギーや労力が必要で、分離したきょう雑物の処分の問題もある。従って、きょう雑物はできるだけ少ないのがよい。一般的な精選設備では分離、除去しにくく、特殊な設備や高度な技術によって分離が可能か、ほとんど分離が不可能な不純物と、著しい病気に罹った小麦粒が「異物」である。異物は分離しにくく、分離が可能な場合でも多量に混ざっていると除去能率が大幅に低下する。従って、異物は可能な限り少ないことが望まれる。


著しい被害を受けた小麦粒も困る
 麦角粒と黒穂病粒は食用にならない。除去しにくい上に、黒穂病粒は粉の色を悪くし、悪臭がつく。重熱損粒は粉の色と二次加工性を劣化し、上級粉採取率を低下する。発芽粒はでんぷんを分解するαアミラーゼの活性が高いので、正常な品質の小麦粉にならない。
  収穫後に高水分のままにしておくと、むれて腐敗臭を生じやすい。表面の異臭は飛散するので健全そうに見えるが、内部に臭いが残るので、粉は食べられない。小麦にかびが発生すると、褐変や変色、発熱とかび臭の発生、成分の生化学的変化、毒素の生産、重量減などが起こり、製粉用として不適である。虫害粒は中身がないので、製粉には使えない。除草剤や殺虫剤に汚染されたり、農薬の残留がある小麦は食用として不適当である。

製粉用として好ましくないもの
 契約や取引の対象外の小麦(他銘柄粒)が多いと、目的の加工性を持つ小麦粉を作りにくく、均一な粉砕もしにくい。萎縮粒は胚乳が少ないから粉採取率が低く、皮から胚乳を分離しにくいので製粉効率を低下させる。粉は灰分が多くて色がくすむ。

 未熟粒は水分が多くて容積重が低い。粉歩留りが低く、粉の灰分が高くて、色が劣る。

  砕粒は胚乳の一部が露出しているから調質しにくく、良質な小麦粉を収率良く採取しにくい。軽度の熱損粒、発芽粒、かび粒などの被害粒も製粉性に悪い影響を与える。
 

皮離れが良くて、大きくて重い粒が良い
 皮の厚さは粉採取率に直接影響し、胚乳からの皮の離れ易さも粉の色、灰分、および上級粉採取率を左右する。国内産小麦の多くが製粉しにくいのは、皮離れが悪いためである。製粉性から見ると、皮は可能な限り薄くて皮離れが良く、粒溝は浅いのが良い。粉溝が深いと、皮を除去しにくいので上級粉採取率が低下する。

 小粒は皮の割合が多いので、粉採取率が悪い。大きさと重さを総合した指標の容積重は、77kg/hl以上であることが良質な小麦粉を高収率で得るために必須である。容積重は高いほど製粉性は良いが、77kg/hl以上では容積重の数値が高くなるほど粉採取率の上昇率は緩慢になる。77kg/hl未満の小麦は製粉性が劣り、特に73kg/hl以下では粉採取率が急激に低下する。国内産小麦の検査に使うブラウエル計は値が高く出るので要注意である。

  粉砕前に少量の水を表面に散布し、24〜36時間ねかせて、皮や胚乳に水分を浸透させる調質を行う。硬い小麦には多めの加水をし、長くねかして挽砕に適する硬さにするが、極端に硬いとこの処理が有効に作用しにくい。粒が硬いままだと無理に砕かれるのででんぷんが必要以上に機械的損傷を受け、小麦粉の加工にマイナスである。軟らか過ぎても胚乳がふわふわの篩抜けが悪い状態になって、製粉効率が落ち、粉採取率も低下する。
 胚乳はきれいな冴えた色が良く、くすんだ灰色は上級粉採取率を低下させる。粉の採り分けは主として灰分量と色で行うので、胚乳の灰分量が多いと粉採取率が低下する。


水分は少ない方がよい
 水分含量も製粉成績に大きく影響する。小麦粉の乾物量(水分量)が一定になるように製粉するので、小麦粒も乾物量(水分量)が重要である。小麦の水分量が多いと、一定量の小麦粉を作るのに多くの小麦を必要とするから、製粉歩留りが悪くなる。また、製粉をしやすくするための調質工程でも、水分が多い小麦には必要な量の加水をできないので、製粉しにくくなり、歩留りが低下する。水分が多いと小麦の保存性も悪くなる。


(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)



小麦の品質変化はどういう場合に起るの?


 小麦は収穫直後より、少し時間が経った方が使いやすい。小麦粒の状態が良く貯蔵条件が理想的なら、かなりの期間貯蔵可能な備蓄に適した穀物である。しかし、小麦粒の水分が高い場合や、サイロ内外の温度差から生ずる結露や雨漏れなどで小麦粒が濡れると、比較的短期間で小麦が熱を持ち、変質が急速に進むケースもある。貯蔵中の小麦に品質変化が起きていないかを定期的に調べ、変化があったらすぐ適切な処置をする必要がある

収穫直後の小麦は使いにくい
 新米はおいしいが、古米や古々米になると味が落ちるという。小麦の場合は逆で、収穫して間もない「新麦」は使いにくいことが多い。収穫したばかりの小麦粒内では、細胞組織が活発に呼吸作用をしており、酵素類の活性も高い。小麦粉の生地をだれさせる還元性物質の量も多くて、不安定な状態にある。
 このような小麦を原料にして挽いた小麦粉でパンをつくっても、生地がべとついたり、膨らみが不充分だったりして、良いパンになりにくい。収穫後数か月経つと、安定した状態になり、使いやすくなる。このような変化を「小麦の熟成(エージング)」という。

水分が少なくて条件が良ければ長期間貯蔵できる
 小麦はこのような品質が安定した状態をかなり長期間保つことができる。小麦粒の水分が12%以下で、風雨に耐えられる倉庫に入っており、虫やねずみの被害を受けず、外部からの水の浸入もなくて、高湿度にならなければ、大抵の場所で長年月の貯蔵が可能である。
 しかし、小麦は呼吸しているので、貯蔵中に微妙な変化が起こる。アメリカで行われた実験では、20年間で呼吸のために重量が1%減少した。また、19〜33年間貯蔵した実験では、外皮がもろくなり、製粉の際に皮片が小麦粉の中に入り込む率が高くなった。でんぷん糖化酵素や脂肪酸の量も増加した。大きさはそう変わらなかったが、内相がやや劣るパンだった。このような長年月の貯蔵は普通では考えられないが、小麦といえども長い年月の間には、若干の劣化傾向が現れることを示している。

高水分が貯蔵の大敵
 貯蔵に直接影響をおよぼす要因は次の4点である。

(1) 水分:小麦の水分はかびの増殖と直接関係があるので非常に重要である。貯蔵期間が比較的短くても水分は13.5%以下であることが必要であり、ある期間貯蔵しておくためには12%以下であることが望ましい。
 一方、小麦水分は空気中の相対湿度の変化と共に少し変動する。夏の終わりや秋口の比較的高温の時期にサイロに投入された小麦の表面は、気温が下がると空気中の湿気を吸ったり、上から落ちる露を吸って高水分になる傾向があるので、注意が必要である。
(2) 気温:小麦粒の水分と共に、気温は貯蔵期間を決定する重要な要素である。10℃以下ではかびはほとんど増殖しないが、30℃近くでは小麦の水分が高めだとかびが増殖して大きな被害を与える。
  小麦は熱を伝えにくいので、それ自身の温度変化も緩慢である。例えば、コンクリート・サイロで空気循環をしなければ、冬にサイロに入れた冷たい小麦は、夏の間中低温を保っている。逆に、温度が高い小麦を入れると、冷えないで高温に保たれているため、品質を損なうことがある。農家の貯蔵タンクのような小さい容器の場合には、少し時間がずれて外気温の変化を追う。
  温度が高い小麦が入っているサイロに冷たい小麦を入れると、水分が冷たい小麦の方へ移動し、温かい小麦が入っているサイロ・ビンの隣のビンに冷たい小麦を入れると、温かい小麦が入っているビンの壁に結露現象が起こる。また、冷たい小麦を温かい外気にさらすと、水分が増える。
(3) かび:貯蔵中の小麦にかびが発生すると品質低下を招き、重量も減少する恐れがある。小麦の生育中に発生したかびも影響することがあるが、貯蔵中の品質変化に関係するのは主として貯蔵開始後に付着するかびである。
 貯蔵中に発生するかびも種類が多くて、水分に対する適応性が異なり、13.5%以上だと発生するものもある。水分が多いと増殖速度は増すが、温度との関係も密接である。
(4) 虫:虫やねずみは穀物貯蔵の大敵である。穀物害虫は温度に非常に敏感で、15.5℃以下ではほとんど増殖しないか、増殖してもその速度は緩慢であり、41.7℃以上では死滅してしまう。最適温度は29℃で、この条件ではライフ・サイクルが30日である。小麦には虫が付きやすく、例えば、21℃で80日間貯蔵すると、虫の兆候が現れる。
 このように、温度と水分が、小麦を安全に貯蔵できる期間を決定すると言っても過言ではないが、かびに侵されている程度、以前に貯蔵していた時の状態、小麦の精選度と健全度、虫やねずみの害の程度、収穫してからの年数、貯蔵倉庫の種類や状態も関係する。

貯蔵条件と保存可能期間

 小麦の貯蔵可能期間についての研究は1950〜80年に多く行われた。それらの中からCargill社のBailey氏が示した穀物の貯蔵条件と安全貯蔵可能期間の関係を表に引用した。
 穀物の水分が特に問題になる14%以上の場合について、穀物と水分によって安全貯蔵可能日数がどう変わるかを示している。
例えば、水分が14%もある小麦でも、10℃の低温が保たれるなら256日間貯蔵可能だが、37.8℃になると8日しか貯蔵できない。また、水分が17%に増えると、10℃の低温でも2か月しか貯蔵できないことも示している。


(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)
 


うどんのおいしさの秘密は?


  淡いクリーム色でつやがあり、軟らかいけれど適度の弾力があるうどんは、日本独特の食べものと言える。軟らかさと弾力のバランスへの好みは長い間に微妙に変化してはいるが、好まれる食感の本質は変わっていない。おいしいうどん作りの舞台裏を覗いてみよう。

うどんに適した小麦を求めて
 
うどんは、太さによって大きく分類される日本めん(細い方から、そうめん、ひやむぎ、うどん、ひらめん)の中の代表的な存在である。かつては、国内産小麦の粉でうどんを作るのが当たりまえだったが、国内での小麦の生産量が激減した1960年代の終りごろから代替品の検討が急ピッチで進められ、その結果、ウエスタン・オーストラリア州で生産されていたF.A.Q.小麦(1974年に現在のオーストラリア・スタンダード・ホワイト(A.S.W.)小麦に改名)がうどん用の原料として使われるようになった。
  その後、研究が進み、F.A.Q.小麦を構成する品種の中でGamenyaが特に優れたうどん適性を持っていることが分かった。ウエスタン・オーストラリア州では「めん用小麦生産者組合」を設立してGamenyaとそれに似た品質特性を持つEraduを増産し、日本向けのA.S.W.小麦に一定量配合するために、「ヌードル小麦」として仕分けを始めた。やがて、これらの後継品種としてCadoux、Arrino、およびCalingiriが開発された。1995年にはオーストラリア・プレミアム・ホワイト小麦という銘柄が新設され、それ以降、日本向けにはこれを40%とヌードル小麦を60%混ぜた「A.S.W.(ヌードル・ブレンド)小麦」が輸出されている。
  日本でも、十数年前から、A.S.W.小麦の特性を目標にしためん用の小麦品種開発が始まり、成果が上がりつつある。

モチモチした食感の主役はでんぷん
生の小麦でんぷん 糊化した小麦でんぷん

 うどん適性(特に、食感)が優れた小麦を使うようになり、また、製めん技術の進歩もあって、以前にも増して、食欲をそそる外観で、おいしい食感のうどんを食べることができるようになった。今のうどんは新しい時代にマッチした現代の食べものになったと言うことができよう。
  淡いクリーム色でつやがある外観が好まれ、モチモチ性とも言われる軟らかいが弾力がある食感のうどんが、おいしいと評価されるようになった。そのようなうどんを作るのに使う原料の小麦には、(1)中庸の質のグルテンを持つ軟質小麦であること、(2)小麦のたんぱく質含量が10〜11%であること、(3)胚乳の色が冴えた明るい色であること、(4)めんに向く性質のでんぷんを持つことが要求される。
 特に、でんぷんの糊化特性が重要である。日本やオーストラリアでの研究で、どういう糊化特性のでんぷんを持つ小麦粉がおいしいうどんを作りやすいかが分かってきた。水がある状態ででんぷんが加熱されると、水を吸収して膨潤し、やがて写真のようにでんぷん粒が崩れて糊状になるが、このような膨潤や崩れが早いでんぷんがうどんに向いている。つまり、低めの温度で糊化するでんぷんがよい。糊化した糊を冷却した時の粘度変化も食感に関係があるとされている。
  でんぷんはアミロースとアミロペクチンで構成されているが、その比率が糊化特性に微妙な影響を持っている。通常の小麦のでんぷんではアミロースが23〜28%で、残りはアミロペクチンだが、それよりもややアミロースの比率が低い方がモチモチした食感になりやすい。アミロペクチンの構造も糊化特性に影響するという研究報告もある。でんぷん粒の大きさはうどんの食感にはほとんど影響がないようである。
  オーストラリアでは、このようなうどんに適したでんぷんの特性を簡単に調べる方法として、「Flour Swelling Volume(粉膨潤体積)試験法」を開発し、ヌードル小麦育種のかなり初期の段階での選抜に用いている。この試験法で得られる結果は、でんぷん糊の最高粘度、ゆで歩留り、およびめんの食感との相関が高いという。アミログラフの迅速試験法の一つであるラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)も活用されている。
  製粉工程で小麦のでんぷんが受ける機械的な損傷は少ない方がよい。また、小麦のアミラーゼ活性も低い方がよい。でんぷんの損傷が大きかったり、アミラーゼ活性が高いと、でんぷんが分解されやすくなり、生地がべたついたり、うどんの煮崩れが起きやすい。

製めんでもおいしさを創り出す工夫が
 製めん技術や製めん機械も進歩した。真空ミキサーなど新しいミキシング理論に基づくミキサーの出現によって、小麦粉に対して多めの加水をし、十分にミキシングして手打ちに似た性状の生地に調製することも可能になった。
機械化された製めん工程でも、生地やめん帯をねかすことによって、食感の向上を図ることが多くなった。また、おいしい釜揚げの食感をいつ、どこででも楽しめるように、ゆでた直後のおいしい状態のめんを瞬時に冷凍して保存しておき、必要な時に短時間で解凍して食べられる「冷凍めん」が開発され、普及するようになった。おいしいうどんがより一層身近な存在になっている。


(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)



小麦の生産量はどうして毎年変動するの?


  地球温暖化の影響か、これまで比較的安定した小麦生産が可能だった地域でも、異常気象による生産量の大幅減少や品質低下が頻発するようになった。主要な生産国や輸出国での小麦の作柄の良否は需給や価格に与える影響が大きく、多量の小麦を輸入して使用する日本の製粉業界にとって重大関心事である。小麦の生産に関係する要因をまとめてみよう。

生産量の予測は難しい
 
穀物関係者にとって、次年度の小麦の作柄がどうで、生産量がいくらになり、どんな品質のものが収穫できるかは、最大関心事である。小麦の生産国では、生産農家の作付意向を把握できる頃から、収穫が完了するまでの長期間にわたって、政府や民間の情報機関がある一定の間隔で生産量を予測しているが、気象条件の変化などで予測値は変わっていく。公表される予測値の他にも、ちょっとした気象条件の変化などがマーケットに心理的な影響を与えて、価格が変動する。そのような生産量の予測値を参考にし、各種の情報を活用することによって、小麦について独自の生産量および品質予測技術を構築しておき、それを買付に活かせるようにしておくことは重要だと思われる。

作付面積
 小麦の生産量は、作付面積と単位面積あたりの収量(単収)によって決まる。[図1]は過去10年における世界全体の生産量、作付面積、および単収をプロットしたものである。世界全体で見ると、作付面積は年による変化が小さいが、収量は大きく変化し、それが生産量の変動の原因になっている。

  [図2]に小麦の生産に関係する要因をまとめた。小麦生産農家にとって、その年にどれだけの面積の畑に小麦を播種するかは重要な決断であり、それが全体の生産量を大きく左右する。農家の決断では、前年や現在の小麦や競合作物の価格や市場動向、生産コスト、播種期の土壌水分の状態、およびその土地に適した優良品種の種子を入手できるかどうかを考慮に入れる。その国の中央及び地方政府の政策や補助金の有無と金額も作付面積の決定に影響があり、特に、政策で作付制限を行っている場合には、個々の生産者への作付面積の割当ても重要な決定因子になる。

環境条件と生産技術
 [表1]は最近3年間における世界の地域別の単収をまとめたものだが、地域によって差が非常に大きいことがわかる。単収が高いか低いかは、環境条件と生産技術面の配慮で決まる。環境条件としては、土壌の肥沃度、播種前に土壌が貯えている水分の状態、および播種から収穫までの全生育期間中における天候、特に降雨量と気温が大きく影響する。小麦生産は乾燥した土地で行われることが多いので、必要な時期に適量の水分を確保できるかどうかが、生産量を大きく左右する。オーストラリアの単収が低いのは、水分がぎりぎりの条件下で生産が行われているからである。
  生産技術面では、土壌水分の状態を考慮した播種時期の選択、その土地に合った種子(品種)の選択、土壌の肥沃度を考慮した適切な施肥、適期の病虫害の予防と除草、降雨を避けた適期の刈り取り、およびその他の収量向上につながる農業技術が単収と品質の両面に影響する。ヨーロッパの単収がかなり高いのに、それに隣接したCIS諸国の単収が低いのは、土壌や気象などの環境条件の差もあるが、その土地に合った種子があるかどうかを含めて農業技術面での遅れが大きな原因になっている。
  気象条件変化の影響は広域に及ぶことが多く、その地域全体の収量に影響する。しかし、生産技術面の配慮と実行によって、好条件をより高い収量や高品質に結び付けたり、悪条件でも被害を最小限に食い止めることが可能である。収穫時期に降雨があっても、上手に刈り取ったり、収穫後の適切な処理で、収量と品質両面での影響を少なくしている実例も多い。
(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)



小麦粒の構造とそれが製粉でどう活かされているか?


  小麦粒は小さいが、縦方向に溝がある。皮を取り除くために粒を外から削っても、この溝がいつまでも残るので、内部だけにすることは難しい。そのため、内部が粉末になりやすく、皮が細かくなりにくい性質を利用して、少しずつ段階的に砕きながら、ふるいを使って皮と粉を分ける製粉法が行われている

小麦粒の構造
 小麦粒の構造を模式化した(図1)。粒溝が深く入り込んでおり、胚乳、外皮および胚芽で構成される。外皮は6層から成り、重量比率で粒全体の約6〜8%である。外側から外表皮、中間組織、横細胞、内表皮(管状細胞)の順で、この4層を果皮といい、厚さが45〜50μmで、小麦粒の約4%を占める。その内側には種皮と珠心層があり、この2層で小麦粒の2〜4%である。

(図1)小麦粒の断面摸式図 (図2)粒溝部分のアリューロン層の細胞(中央が粒溝)

 珠心層の内側にはアリューロン層(糊粉層)があり、外皮と胚乳を隔てている。図2の電子顕微鏡写真は粒溝部分のアリューロン層の細胞で、特殊な形をしており、厚さは65〜70μmである。通常は写真のように1層だが、2〜3層のところもある。細胞内にはでんぷんは蓄積せず、蛋白質、脂質、灰分を多く含む特殊な層で、小麦粒の6〜7%を占める。胚乳とは性状が違うので、外皮と共にふすまになり、飼料用として利用される。

 アリューロン層の内側の胚乳は小麦粒の81〜85%を占め、その大部分が小麦粉として利用される。主成分は、糖質(主として、でんぷん)、蛋白質、および水分であるが、中心部と周辺部では、次のように成分が傾斜している。

  周辺部   中心部
蛋白質の量 多い 少ない
蛋白質の質   良い
灰分の量 多い 少ない
  良い

胚芽は粒全体の約2%である。形態的には、盤状体、杯軸、幼芽鞘、葉、幼芽、種子根、根、根鞘で構成されており、これらは子葉部と杯軸部に大別される。ほとんどはふすまに混ざるが、製粉工程で胚芽を分離することも行われており、軽く焙焼して粒状や粉末状にして食べたり、油を抽出して栄養食品として利用する。

粒構造を活かした製粉

 小麦粒には深い粒溝があるので、外側から削っても、胚乳だけを取り出しにくい。そのため、胚乳が粉末になりやすく、外皮が細かくなりにくい性質を利用して、少しずつ段階的に砕きながら、外皮と粉を分ける製粉法が行われている。製粉前に小麦粒に少量の水を均一にふりかけ、タンクで24〜36時間ねかせて、小麦粒を挽きやすい硬さに調整する。水の一部が浸み込んだ胚乳は粉になりやすくなり、外皮は適量の水で引き締まって小さく砕けにくくなる。硬い小麦粒には少し多めの水を含ませ、寒さで硬くなった小麦粒も少し多めの水で軟らかくする。その小麦粒の状態に最も適した加水量とねかし時間を選ぶ。国内産小麦のように水分が多いと適量の加水ができないので、製粉しにくい。外皮をより強靭にし、小さく砕けにくくするために、粉砕の2〜3時間前に少量の加水をする。
図3に製粉の仕組みを分かりやすく示した。小麦粒は、まず、表面にぎざぎざの目立てがしてある1対のロールで2つか3つに割られる。そして、表面の状態と役割が異なるいくつかのロール機を通るうちに、胚乳の内側から少しずつ段階的に粉が採られ、最後に主として外皮が残る。しかし、完全に胚乳と外皮を分離できず、少量の胚乳が外皮に付着して残る。国内産小麦のように皮離れが悪い小麦粒では、付着量が多い。粒溝も外皮と胚乳の完全な分離を妨げる。このため、小麦粒中の胚乳の割合よりも小麦粉の歩留りは低い。

胚乳の内側から段階的に採られた小麦粉を別々にシフター(篩機)で篩い、ピュリファイアーという機械で純化(ふすま片などを除去)する。

(図3)小麦製粉の仕組み

それらの粉は数十種類にもなるが、胚乳内部の部位による成分組成差を反映して、それぞれ品質が違い、特徴がある。1等粉と呼ばれるものは、初めの方の段階で採れた粉をいくつか混ぜたものなので、胚乳の中心に近い部位が主体で、灰分が少なく、色が良くて、良質の蛋白質を含んでいる。日本のように小麦粉の用途が多くて、いろいろな品質が要求される国では、品質に差がある粉を組合わせて1等粉、2等粉、3等粉などの品位が異なる小麦粉を同時に採取することは意味がある。末粉と呼ばれる小麦粉は、胚乳の外皮に近い部分が主体で、一部にアリューロン層や細かい外皮の破片も混入している。灰分は多く、色も良いとは言えないが、その特性を活かして、合板接着糊や飼料用に使われる。

  最近、小麦粒の外側から研磨によって外皮を除去する製粉法が発展途上国などで採用され始めている。粒溝が多少残った状態で、胚乳の塊を粉にする方法である。1等粉、2等粉などの採り分けはできず、1種類の粉になるので、灰分は高く、色もあまり良くないが、用途によってはそれで十分な場合もある。


製パン・製めんで塩はどんな役割を果たすの?

  小麦粉の主用途であるパンと日本めんの製造では塩が欠かせない。それらの製造や製品で塩がどういう働きをしているのかを、まとめてみたい。

製パンにおける塩の役割
製パンでの塩の配合量は、小麦粉に対して食パンやバゲットでは1.5〜 2.5%、菓子パン類では0.5〜1.5%、クロワッサンでは1〜2%である。糖や 油脂が少ないパンでは塩を少なめにし、糖が多いパンでは糖の量が増える 
に従って塩を減らしている。油脂や乳製品を多く配合するパンでは、それ らが増えるにしたがい塩の量も多くする。
製パン性が良い小麦粉では塩は少なめでよいが、灰分が多い小麦粉には多めがよい。長く発酵する場合には塩をやや多めにする。雑菌繁殖防止の目的で、夏期に塩の量を多めにすることもある。仕込み水が軟質の場合も硬質の水よりやや多くする。 製パンにおける塩の役割は次の4つにまとめることができる。

(1) 生地を引き締める:塩は生地中のグルテンの物理的性質を変える。適量だと、生地を引きしめ、ダレにくくする。塩がパン生地のレオロジー特性に与える影響についての藤山氏1)らの試験データを引用する。図1はファリノグラフによるもので、塩の増加に伴い吸水率が低下し、ミキシング時間が長くなり、バンド幅が拡大(弾性が増加)する。図2のエキステンソグラフでも塩が増すと吸水率が低下し、抗張力と伸展性共に増加する。 生地が引き締まると、形が整った、弾力に富み、肌触りの良いパンになりやすい。軟質の水や熟成が不十分な小麦粉を使う場合には塩の効果が大きい。塩を加えない生地は、粘着性が強くてダレやすく、締まりがなくて、焼成での窯伸びも良くない。力強さがないため、製品の内相膜が厚くなり、食感も劣る。
 
(2) パンの味を整える:穀粉、塩以外の材料の配合が多いパンでは、塩は砂糖の甘みを引き立てるなど、他の材料の味を引き立てる。それらの配合が少ない場合には、パンに自然の香りを出させる効果がある。塩を配合しないパンは、味が物足りない。
(3) 発酵を適度に調節する:浸透作用によって酵母の発酵を抑え、発酵速度を適度に調節する。Heald氏2)は塩濃度とガス発生量の関係を図3のように報告した。発酵(ガス発生量)抑制作用は小麦粉に対して食塩が1〜2%では顕著でないが、2.5%を超えると著しくガス発生を押さえ、5%以上だと発酵を阻害してパンの味を損なう。このため、酵母を用いた通常のパンでは塩を3%以上配合しない。
 
(4) 雑菌の繁殖を抑える:浸透作用によって雑菌の繁殖を抑え、酵母による発酵を助けるので、パン本来の香りが増す。長時間発酵で酸敗の危険があるときには、塩を少し多めに加えると酸敗を遅らせることができる。塩は、小麦粉中のタンパク質分解酵素の作用や少量の発酵阻害物質の効果を抑えて、正常な発酵をさせる働きもする。

製めんにおける塩の役割
 小麦粉に対する塩の使用量は、機械製めんでは2〜5%、手打ちや手延べでは4〜7%である。夏は塩の量を増やし冬は少なくして、生地の絞まり具合を調整する。日本そばに塩を使うことは少ない。塩がソバ独特の香りを消し、小麦粉の「つなぎ」効果を損なうからだが、乾めんでは、急速な乾燥を防ぐため塩を1〜2%添加することが多い。中華めんには塩を使わない。
日本めんの製造における塩の役割は次の6点に要約できる。

   
(1) グルテンを引き締め、生地の弾性と伸展性を増す:塩は生地中のグルテンの網目構造を引き締めるので、生地の弾性が増し、伸展性も少し増して、製めん操作を容易にする。手打ちうどんでは、水と塩を多くし、よく捏ねることでコシがある独特の食感を作り出すが、適度に増やした塩が生地操作を容易にする。ただし、塩の量が多すぎると、グルテンが変性して弾性が低下する。多加水製法では、加水量の増加による生地の軟化を防ぐために特殊なミキサーを使用するが、塩を多めに加えることも行われる。
(2) 酵素の活性を抑制し、生地熟成中の変化を少なくする
(3) めんのゆで時間を短くする:ゆで湯に塩水を使うと、浸透圧の作用でゆで湯とめん内部の塩の濃度を同じにしようとするため、めん内部に塩水が入りやすく、塩を入れない場合に比べて、ゆで時間が少し短縮される。小麦粉に対して塩が0%と4%の場合のゆで時間とゆで歩留りの関係についての横塚氏3)の実験データを図4に示した。塩を入れないと、めんの表面は軟らかくなるが、中心部は硬いままなので、おいしくない。
 
(4) めんの味を良くする:加えた塩の90%くらいはゆで湯の中に溶出するが、僅かな塩味はめんの味を引き立てる。
(5) 日持ちを良くする:塩は水分活性を少し下げるので、めんの日持ちが良くなる。
(6) 乾めんの急速な乾燥を防ぐ:塩が多いと乾燥工程でめんが乾きにくく、急速な乾燥を防げ、「縦割れ」や「落めん」が少ないため、乾めん製造では生・ゆでめんの場合よりも塩を多めに配合する。乾燥室の温湿度調節ができる工場では、めん表面からの水分蒸発と、めんの中心から表面に水が滲み出す速度のバランスをとりながら乾燥できるが、適量の塩が入っていると、極端な高湿度でなくてもゆっくりバランスがとれた乾燥が可能である。天日乾燥の時代には、大気の温湿度に応じた塩の添加量にすることも行われていた。

引用文献

1)藤山諭吉・宇野浩平・善本修二:神原邦子:Pain,2(6),16(1955)
2) Heald,W.L.:Cereal Chem.,9,603(1932)
3) 横塚章治:調理科学、25(1)、47(1992)

(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)


小麦のたんぱく質の量は何で決まるの?


 小麦のたんぱく質の量は、二次加工性に関係する最も重要な品質項目なので、取引で重視される。重要なのは粉になる胚乳のたんぱく質の量だが、便宜上、小麦全粒のたんぱく質の量が規格や取引条件に使われる。その量は、品種、生育中の気象条件、土壌タイプ、および施肥で決まるので、生産段階である程度の制御ができ、予測することも可能である。

品種の影響
 目標のたんぱく質の量の小麦を生産するためには、そのようなたんぱく質の量になりやすい遺伝子を持つ品種を選んで播く必要がある。
しかし、同じ品種を播いても、気象条件、土壌のタイプ、および施肥方法によってたんぱく質の量にかなりの差がでる。例えば、アメリカ北西部のワシントン州に中北部のノースダコタ州で栽培されているハード・レッド・スプリング小麦の品種を持ってきて播いても、たんぱく質の量が多くなりにくい。また、めん用小麦の産地である西オーストラリアでは地元のパン用にたんぱく質の量が多い小麦を必要とするが、そこの土壌や気象条件ではどんな品種を播いてもたんぱく質の量があまり多くならない。カナダのたんぱく質の量が多くて優れたパン用の小麦品種を北海道で播いても、カナダと同じような品質の小麦を収穫できないことはよく知られている。
このようにたんぱく質の量は本来、品種由来の特性だが、気象条件、土壌タイプ、および施肥方法にも影響されやすいのに対して、たんぱく質の性質は品種に由来するところが大きい。とはいえ、品質志向の小麦作は、その土地の土壌、気象条件に適合性が高い品種で、希望するたんぱく質の量と質になりやすい遺伝的形質を備えた品種を選んで播種することから始まる。

図 小麦の成熟過程とたんぱくの量
(カナダ穀物研究所資料から)

気象条件の影響
 気象パターンと土壌の性質から、たんぱく質の量が多い硬質小麦が出来やすいところと、たんぱく質の量が少ない軟質小麦の生産に向いているところがある。例えば、北アメリカ大陸の中部大平原地帯やCIS諸国の一部では、高温で乾燥した夏が終わると、秋には急に気温が低下して急速に成熟が進むため、たんぱく質の量が多い硬質小麦が出来やすい。一方、冬がそれほど寒くなく、その後に来る夏も湿度が高くてあまり高温にならない地域、例えば、ヨーロッパ北西部や北アメリカ大陸の東部などは、粒が大きい軟質小麦の生育に向いており、たんぱく質の量も多くなりにくい。また、地中海沿岸やアメリカの太平洋岸北西部のような温暖な気象条件の地域では、たんぱく質の量が少ない小麦が生産される。
年によって、降雨量が多すぎるか、灌漑し過ぎると、収量は上がるが、窒素が土壌から溶解し去るために、たんぱく質の量は低下する。また、土壌水分が適度な年には、小麦粒の内部にでんぷんがしっかり形成されて、豊満な粒になるが、相対的にたんぱく質の%は低めになる。逆に、干ばつぎみだと、小麦粒の発育が抑えられてでんぷんが十分に形成されにくいので、質的に好ましくないものになるが、粒中のたんぱく質の%は高くなる。
気温が高いと粒の形成から完熟までの期間が短くなり、たんぱく質の%は高くなるが、逆に、この期間が比較的低温で土壌水分が十分にあると、でんぷんが多く形成されやすく、粒張りが良くてたんぱく質の%が低い小麦になる。ノースダコタ州で生産されるハード・レッド・スプリング小麦では、7月の平均気温が21℃程度ならたんぱく質は13%以上になるが、18℃を少し越すぐらいの低温だと、たんぱく質は12%台に止まることが多い。この場合、生育期である6月の気温が低いとたんぱく質の%はさらに低くなる。
通常の天候では、成熟が進むにつれてでんぷんの形成が進み、相対的に小麦粒中のたんぱく質の%が低下していく。カナダ穀物研究所で行われた小麦の成熟の進行に伴うたんぱく質の%の変化についての試験データを図に示した。カナダ・ウエスタン・レッド・スプリング小麦の代表的な品種だったManitouとNeepawaについて、完熟前3週間の時点からのたんぱく質の%の変化を追跡しているが、たんぱく質の%は完熟前1週間の時点で最低になった後、再び上昇するようである。

土壌と施肥の影響
 
窒素、特に硝酸塩が比較的多い土壌では、たんぱく質の量が多い小麦が生産される。また、黒色の土壌の方が灰色の土壌よりも植物の生長に必要な窒素を多く含んでいるので、小麦のたんぱく質の量も多くなりやすい。
窒素肥料、特に無機の形のものを生育の後期(出穂期の頃まで)に施すと、小麦粒のたんぱく質の量が増えるのが普通である。リン酸肥料は収量を増加する効果はあるが、たんぱく質の量を減少させる。カリ肥料はたんぱく質にはほとんど影響を与えない。
休閑期を設けるか、冬小麦の場合に早めに耕して種子播きの準備をしておくと、土壌中に硝酸塩が形成されるか、すでにあるものを保つのに効果がある。その結果、収量が増すだけでなく、たんぱく質の量が増えやすい。
カナダでは窒素施肥量の低減傾向が続いており、気象条件との絡みでNo.1等級でたんぱく質区分が13.5%以上の小麦を輸出に十分な量を確保しにくい年もある。輸入国として、パン用原料小麦でのたんぱく質の量の重要性を訴え続ける必要がある。
日本めん用の原料としての小麦に望まれるたんぱく質含有率は10〜11%である。たんぱく質の量に影響する要因は多いが、実需が望む品種を播き、窒素施肥の量や時期を望ましいたんぱく質の量になるように適切に選ぶことによって、この範囲に入る小麦を作っていただきたいものである。 

 

(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)
 


小麦粉の品質を知るにはどうしたらいいの?


 いろいろな品質の小麦粉が市販されており、さまざまな使い方がされている。小麦粉は用途によって要求される品質特性が異なるから、目的に合った品質の調べ方をしたい。

使用目的に合う小麦粉かどうかを大まかに知るには
 家庭用小麦粉は、袋に書かれている用途から使用目的に合う小麦粉かどうかを知ることができる。業務用の25キログラム詰め小麦粉の場合には、袋に銘柄が記されているだけなので、その銘柄の小麦粉がどういう用途に向くのか分からない場合には、製粉会社やその特約店に聞くか、パンフレットで確かめる必要がある。
簡単に品質を調べる方法としては、次のようなものがある。

(1)

ペッカー試験・・・・・・ガラスかプラスチック板の上に少量の小麦粉を置き、平らな
へらか板状のもので上から圧して表面を平らにすると、色合いの程度を見ることが
できる。板ごと静かに水に浸して引き上げ、数分置いてから見るとより分かりやすい 。比較したい小麦粉がある場合には、それらを並べて置くとよい。

 
(2)

粒度・・・・・・小麦粉を指先でつまんで軽く揉んだ時の粒子の細かさ(感じ)によって、その粉が強力粉か、中力粉か、薄力粉かをおおまかに判定できる。

 
(3) グルテンの量・・・・・・10〜25グラムの小麦粉を正確に量ってボウルに入れ、粉に対して重量で約60〜70%の水を加えて、先が丸い木の棒か小さいヘラ状のものの先でよく捏ねる。丸めて水中に数分間置いた後、指先でもみほぐし、水を何回も変えながら液が白く濁らなくなるまででんぷんを充分に洗い流すと、粘弾性があるグルテンが残る。てのひらの間で圧して搾り出すようにして水を切り、その目方を量る。元の小麦粉の重量に対する割合(%)がウエットグルテン(湿麩)である。ウエットグルテン量の目安は強力粉が40%前後、中力粉が25%前後、薄力粉が20%前後だが、捏ね方、でんぷんの洗い出し方、水の切り方などで測定値にかなり差が出るので、正確を期すためには、化学分析などによってたんぱく質含有量を測定する。
(4) グルテンの質・・・・・・採取したウエットグルテンを手で引っ張ったり、圧したりして、それが伸びやすいか、すぐちぎれるか、弾力があるかなどを調べると、グルテンの質を推定できる。グルテンの質を数値で表現するためには、専門的測定が必要である。
(5) 加工品をつくる・・・・・・パン、めん、菓子などをつくってみれば、その小麦粉が適しているかどうかがはっきりする。


グルテンや生地の性状を詳しく調べるには

(1)

沈降価……小麦粉を乳酸アルコール液に懸濁、振とう後に、メスシリンダー中で静置して、沈降した容積を測定する。良質のたんぱく質はよく膨潤するので、沈降価は大きい。粒度の影響を受けやすいので、要注意である。

(2)

スウェリングパワー……ウエットグルテン1グラムを30片くらいにちぎり、27℃の希乳酸液100ミリリットルに入れ、2.5時間後のグルテンの膨潤による増容(スウェリング)の程度を測定し、液の濁り具合と合わせて、グルテンの質を判定する。液が澄み、増容が大きいものが良質でグルテンの量と照合して製パン性を推測する。

(3) ファリノグラフ……小型ミキサーで生地をこねるときの所要動力の経時変化を測定し、図形に表す装置である。吸水率、生地生成時間、生地のミキシング耐性(安定度)、生地弱化度などが分かるので、おおよその製パン適性を把握できる。
(4) エキステンソグラフ……ファリノグラフでできた生地を棒状に成形し、一定温度で一定時間静置してから、引張って、伸び方や伸びるときの抵抗の経時変化をグラフに記録する装置である。伸張度と伸張抵抗から生地の性質を知ることができる。
(5) アルベオグラフ……一定の水を加えてこねた生地をシート状に伸ばし、リング状の枠ではさんで、底部中央から空気を吹き出して膨らませる。膨らみ方と破裂までに吹き込む空気量から、製パン性(特に、フランスパン適性)を推測できる。
   


でんぷんの性状やでんぷん分解酵素について詳しく調べるには

(1)

糖化力測定……小麦粉の懸濁液を30℃に1時間保ち、その間にでんぷん分解酵素が作用して生じたブドウ糖量を測定する。

(2)

アミログラフ……小麦粉の一定濃度の水懸濁液をつくり、攪拌しながら一定速度で温度を上昇したときの粘度変化をグラフ化する装置である。でんぷんの性状を知ることができ、でんぷん分解酵素の活性が正常かどうかが分かる。

(3) フォーリングナンバー……加熱して一定濃度の小麦粉糊をつくり、その中を抵抗小円板が落下する時間(秒)を測定する装置である。でんぷんの性状とでんぷん 分解酵素の活性が正常かどうかをおおよそ知ることができる。


変質していないことを確かめるには

(1)

水分……小麦粉が吸湿するか、濡れると変質が早まる。粉を握ると水分が異常に多いかどうかの見当をつけられるが、理化学的な方法で水分を測定する。

(2)

におい……正常な小麦粉は、僅かに特有の香気があり、やや甘い。古くなると香気は消え、変質した場合にはかび臭くなり、苦味や酸味を帯びる。小麦粉を熱湯で溶いて、湯気のにおいを嗅ぐと、正常かどうかが分かる。

製粉工場で行っている品質測定
製粉工場で小麦粉の品質評価の目的で行う主な測定項目は[表]のようである。これらの中から用途に応じた項目について、適した試験法により、定められた頻度で測定を行う。

【表】製粉工場で行う小麦粉品質測定の主な項目
大分類 中分類 測定項目
 一般特性 水分
灰分
たんぱく質
粒度
 加工適性 物理・化学試験     沈降価
増容度
マルト−ス価
損傷でんぷん
酵素活性度
懸濁液の粘度
生地の物理特性
生地の発酵特性
加工試験  製パン試験
製めん試験
製菓試験
 健全度と安全性   異物
微生物
酸度
酸性度
各種化学分析

(一般財団法人製粉振興会 参与,農学博士 長尾 精一)