小麦・小麦粉に係る基礎知識

小麦粉特有のたんぱく質グルテン

 

 小麦・小麦粉の世界は広く、奥が深い。これはなぜ、どうしてだろうと疑問をお持ちになられたことはないだろうか。また、一般の方からの素朴な質問を受けて、調べ直したご経験をお持ちではないだろうか。皆様がお持ちの知識を整理していただくお手伝いができればと願いつつ、小麦と小麦粉についていろいろな角度から分かりやすくまとめてみることにした。


グルテンとは
 小麦粉中には蛋白質が6〜15%含まれている。いろいろな特性を持つ蛋白質が混在しているが、その約85%はグリアジンとグルテニン(両者はほぼ同量)である。小麦粉に水を加えて捏ねると、このグリアジンとグルテニンが絡み合ってグルテンができる。
 写真のように、グルテニンは弾力に富むが伸びにくい性質の蛋白質であり、逆に、グリアジンは弾力は弱いが粘着力が強くて伸びやすい性質を持っている。この性質が異なる2つの蛋白質が結びつくと、両方の性質(粘着性と弾性)を適度に兼ね備えたグルテンになる。小麦を粉砕して利用するのは、グルテンを形成しやすくするためである。


量と粘弾性のバランスに差があるグルテン
 原料小麦の種類や品質、加える水の量、副材料や添加物の種類や量、および捏ね方によって、できるグルテンの量と粘弾性のバランスが微妙に異なる。硬質小麦は軟質小麦より蛋白質を多く含むから、形成されるグルテンの量が多い。グルテニンとグリアジンの比率や分子構造によって、グルテンは粘着力が強かったり、弾力が強かったりする。
 その小麦粉に適した量の水を加えてよく捏ねると、グルテンがしっかり形成されるが、水が足りない場合や捏ねが不十分だと、もろくて弱いグルテンしか得られない。


グリアジン

グルテニン

グルテン


加える水の量で小麦粉はさまざまな状態に変化
 小麦粉に加える水の量によって、パンづくりに使うような弾力があって軟らかめの生地、うどん用のまとまっていないそぼろ状の生地、てんぷらやケーキに使うどろどろしたバッター、薄い糊状など、小麦粉はさまざまな状態に変化する。これもグルテンが形成される性質があるからで、このために小麦粉の用途は広い。小麦が穀物の中の王者と言われる所以はここにあり、それぞれの地域の人たちの嗜好に合う食べ方を可能にしている。


パンの骨組みはグルテンが作る
 パンをつくる場合、小麦粉にイースト、油脂、砂糖、食塩などの材料と水(他の材料の種類や量によっても変わるが粉100に対して60〜70)を加えて捏ねると、軟らかいのに弾力がある生地になる。生地中に形成されたグルテンは、よく捏ねると薄い膜になり、小麦粉中のでん粉粒や抱き込まれた気泡を包み込みながら、網目で細い繊維状になる。
 生地中のイーストが働いて発酵が進むと、炭酸ガスとアルコールを発生する。炭酸ガスはたくさんの小さな気泡になって生地組織中に入り込み、全体を押し広げ、大きな体積ときめが細かいすだちを作っていく。アルコールは生地を伸びやすくし、風味や香り付けに役立つ。
 発酵の終りころまでに炭酸ガスを蓄えて伸びた生地は、オーブンで熱が加わると最後のガスを発生し、膨張して体積がさらに大きくなって、よく伸びたパンに仕上がっていく。生地の中心温度が95〜97℃に上がるので、グルテンの網目状組織は熱で変性して固くなり、パン中にしっかりした骨組みができて、冷えてもその形を保てる。建物の鉄筋コンクリートに例えると、でんぷんがコンクリート、グルテンが鉄筋の役割を果たしている。
 製パンでは、蛋白質の量が多くて、その質が良い小麦粉を使う。従って、パン用粉の原料小麦には、蛋白質の量が多くて、粘弾性のバランスが良いグルテンを形成できる特性を持つことが要求される。同じアメリカ産の硬質小麦でも、ハ−ド・レッド・スプリング小麦の方がハード・レッド・ウィンター小麦よりパン用として優れているのは、グルテンの粘弾性のバランスがパンに向いているからである。アルゼンチン産小麦が蛋白質の量は多いのに日本のパンに向かないのも、グルテンが硬くて伸びにくいからである。最近の研究で、グルテニンの分子構造の違いによってこのような製パン性に差が生ずることが明らかになっている。


うどんのコシもグルテンから
 軟らかいが適度のコシがあるうどんを作れるのも、グルテンが形成されるからである。うどんには、蛋白質の量が中程度の小麦粉を使う。そういう小麦粉100に対して水を30〜33加えてめん用ミキサーで混ぜると、そぼろ状の生地になり、これを2本のロールに挟んで圧しながら伸ばすと、グルテンが形成される。グルテンの量が多くないし、水の量や混ぜ方が充分ではないので、パン生地のような弾力があるグルテンにはならない。グルテンの量が多くて弾力があり過ぎたら、硬いうどんになってしまう。
 手打ちうどんはコシがある。ロールで伸ばした生地ではグルテンが一定方向に行儀よく伸びているが、手打ちではよく捏ねられるので、複雑に絡まりあった網目状のグルテンになり、適度の弾力(コシ)が出る。技術の進歩で、小麦粉に多めの水を加えて特殊なミキサーで捏ねることによって、機械でも手打ちに似た食感のうどんを作れるようになった。


◎グルテンができ過ぎないようにするのもコツ

 ケーキがふっくら膨らむのも、花が咲いたようなてんぷらができるのも、小麦粉の主成分のでんぷんと量が少なくて力が弱いグルテンの共同作用の結果である。蛋白質の量が少なく、その質が軟らかい小麦粉を使い、グルテンができ過ぎないように軽く混ぜるのがコツである。グルテンができ過ぎてボトボトの生地になると、おいしいものができない。
(一般財団法人製粉振興会 参与 農学博士 長尾 精一)