●活動前の状況
1.
地域性と食生活
青森県の中でも私達の住む南部地方には、やませという風の影響で昔から米が育ちにくく、冷害に強い小麦やそばを使った郷土料理が多いことがわかりました。
⒉
高校生の実態調査
小麦という課題をいただいた私たちは郷土料理に着目して研究を進めようと本校の3年生132名に「食習慣、小麦、郷土料理について」アンケート調査を実施しました。
(1).
小麦粉について 好きな小麦粉料理にはラーメン、パン、うどん等主食となる料理が多く、私たちの食生活に小麦粉はかくこともできないものになっています。しかし、作ることのできる小麦粉料理には「クッキーやホットケーキ」があげられました。注目すべき点は「ない」の回答が37.7%、「うどんやラーメン(カップめんを含む)をゆでるだけ」が15%と、半数以上の生徒は料理することはないのです。高校生の調理技術の低い現状がわかりました。
(2).
郷土料理について
「伝承すべき」だと94%の人が答えているものの、自分自身が「伝承できる」と答えたのは9%という結果となり伝承の危機を感じました。
⒊
問題点の把握
郷土料理の伝承の危機を感じた私たちは郷土料理の伝承を目的とし、人と人とのふれあいを大切に、高校生の私たちだからこそできる食生活改善活動をしていこうと話し合いました。
●研究活動
⒈ 聞き取り調査
①青森県上北地域県民局の方 ②青森県農林総合研究センター ③十和田道の駅相坂会 ④十和田郷土館 ⑤三本木農業高等学校志岳寮栄養士の方から私たちの住む地域の食生活のこと、郷土料理のことを教えていただきました。ここでも郷土料理の若い人への伝承が難しい事がわかりました。印象に残った言葉は「十和田の歴史・時代の流れを知り、食文化を再確認してほしい」
と言われたことです。
⒉ 100人アンケート
①老人福祉施設・ハートランド ②グループホーム・はなは ③道の駅7ヵ所 ④地域の直売所 ⑤家族 ⑥学校の先生などに直接聞き取りで調査をしました。代表的な郷土料理には「せんべいじる」「ひっつみ」「かっけ」等があげられます。どれも小麦を使った料理で、地域によって同じ料理でも呼び方や作り方が違っていたり、私たちが知らない郷土の料理も知ることができました。何よりもお年寄りの方が楽しそうでよかったです。
⒊
郷土料理の再現 早速、料理の再現に取り組みました。私たちは直接おばあちゃんに教わることにこだわりました。串もち・きんかもち・せんべい汁・かっけ・ひっつみなど、おばあさん達から聞くことで郷土の背景や思い、作るときのコツをつかむことができました。何度も作ることが大切です。
⒋
匠を目指す
まず、自分たちが伝承する人になろうと、全員が郷土料理を作れるようになり、その上で一人一品は匠を目指しました。菜々子さんはべごもち・香澄さんはきんかもち・美紀さんは串もち・
友美さんは彼岸団子・有里さんはせんべい汁・紫野さんはかっけ・有希子さんはひっつみ。県が主催の「田舎のスウィーツコンテスト」で新しい創作スウィーツが並ぶ中で私たちが作った串もちが入賞しました。又、紫野さんが作る「かっけ」はおばあちゃんにも褒められ、普及員の方にも「こし」と薄さ、作る早さを絶賛されました。
⒌
もち性小麦もち姫の商品開発 青森県農林総合研究センターにお話を伺いに行ったときに高校生の視点から商品を考えてほしいと世界初「もち性小麦」の粉を頂きました。その小麦を使って様々な料理を作りました。そして、汁物の中で特性が生かされる事がわかり、三農発ひっつみ粉の開発に取り組みました。市販のひっつみ粉と食べ比べてもらうと8割の方に「三農発ひっつみ粉」を支持して頂き好評でした。商品化に向けて手ごたえを感じました。青森県「もち小麦」商品開発プロジェクトメンバーにも選ばれ、今後も活動予定です。
⒍
小麦を育てる
先人の思いや苦労を知るため、青森県農林総合研究センターから頂いたネバリゴシを栽培しました。小麦の観察を続け、初めて小麦の花を見た時は感動しました。収穫近くの「穂発芽」の心配をしたり、鳥害にあい収穫量が減ってしまう等大変な事もありましたが、小麦を見に行くことが楽しみになり、収穫への感謝や喜び等も味わうことができました。
 |
●普及、伝承活動
★考察1・・・「ななめの関係」を生かす ななめの関係とは、親や教師の関係が縦の関係、友達の関係を横の関係とするならば、地域のお姉さんやお兄さんはななめの関係といえます。ななめの関係にはコミュニケーションの最大の効果があるそうです。お年寄りから伝承するときに「ななめの関係」にいる私たち高校生が大きな役割をすると考えました。私たちに出来る事はこのななめの関係を生かす事だと話し合いました。
⒈
公開講座・・・一般の方へ
「我が家のひっつみ」をテーマにし、その家独自のひっつみを作ってもらいました。私たちよりも生地を上手にこねていて見習いたいとこがたくさんありました。
⒉ 親子郷土料理講習会
クイズ形式の紙芝居をし、子ども達に郷土料理について分かりやすく説明をしました。その後、子どもは楽しそうに作っていました。自分で作ったものは残さず食べ、このような活動が食育につながると実感しました。
⒊ 十和田道の駅での試食会
試食会では、130食、用意しましたが、1時間足らずでなくなりました。「三農発ひっつみ粉」で作ったひっつみは大好評で、試食だったにもかかわらず、売ってほしいと言う人も多く、活動の手応えを感じました。
⒋ 小学生や幼稚園児へ
三農に農業体験に来る小学生や幼稚園児に食べてもらいました。「美味しかった」「また、食べたい」と言ってくれました。体をを動かした後、外でみんなと食べるとおいしさも倍増です。野菜も残さず食べていました。ひっつみにはたくさんの野菜の具が入っているので野菜嫌いの子どももひっつみで克服してほしいなと思いました。
⒌ 中学生体験入学
きんかもちを一緒に作りました。きんかもちを知らない人がほとんどでした。きんかもちには黒砂糖が入っています。黒砂糖が金貨のように価値があったことからこのように呼ばれたそうです。このような事を知ることで郷土料理を身近に感じてほしいと思い伝承しました。
★考察2・・・「高校生を中心に普及活動」 これまでの活動に手応えを感じていましたが、周りの友達は相変わらず郷土料理を作ることが出来ず、広がりを感じることが出来ませんでした。そこでもう1度話し合い、「作ることが出来る」事が「伝承できる」事に繋がると分かりました。そして、高校生に普及することで、後で斜めの関係が太くなると考え、高校生を中心に「作る」という体験を重視して普及活動を続けることに決めました。
⒈
校内郷土料理講習会 本校の8割の生徒は作ったことがありませんでした。ごぼうのささがきが苦手な子も多く、中には包丁を持つ事が始めての人もいて頑張っていました。しかし、作る体験を重ねると、生徒は自信を持ち始め作ることができると答えています。体験は伝承につながったのです。
⒉
全校田植えでひっつみ 三農には寮があることから、県内の様々な地域から集まって来ます。ここで、普及するということは県内に普及することにつながると考え、「体験と共に…郷土の味を」と題し、各科の代表生徒に作ってもらい、みんなで食べました。田植えの後、みんなで食べた味は思い出とともに忘れられない味になりました。
⒊
出張郷土料理講習会 隣の高校である三本木高校・三沢高校で開催しました。「三農が作ったのが一番おいしい」と言ってもらえ、おばあちゃんから褒められた匠としての自信が深まりました。講習会を聞いた、他の学校から依頼が来るなど交流の輪が広がって来ています。
⒋
高校生による高校生のための公開講座 上北三地区5校の生徒が参加してくれました。アドバイザーで来ていただいた普及員の方から「今必要としている活動だと思う、普及員の私たちではない、高校生がやることで効果が大きい。高校生同士というのがいい」と評価を頂き、私たちの活動の趣旨を絶賛いただきました。
⒌
レシピ作り レシピ集があるとどんな郷土料理でも作る事ができます。実際に作りやすい、わかりやすいなどの声がたくさん聞くことが出来ました。
まとめ
活動前に「伝承できますか」の質問に対して、「伝承できる」が9%だった状況から71%まで増加し、確実に伝承されてきています。「若いときに覚えたことは忘れない」とおばあちゃんは言ってました。私たちの活動の原点は交流でした。これまで、お世話になったいろいろな世代の地域の方に感謝をしています。その感謝の気持ちを胸にこれからも伝承し続けます。
本稿は、(社)栄養改善普及会が実施した平成21年度・第47回高校生による食生活改善研究活動「I &
You食生活」発表会において、農林水産大臣賞を受賞した青森県立三本木農業高等学校の研究成果を同会の了承を得て掲載したものである。
|
|
|
|