子供たちの小麦・小麦粉コーナー

みんなの小麦粉研究室

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小麦粉学U



国産小麦の代表・中力粉
 「饂飩は馬子が食うもんだ」。名作『吾輩は猫である』(夏目漱石)のなかで、こうのたまわったのはホラ話をよくする迷亭君。うどんの方が好きという主人の前で、ざるそばをツルツルやる。頬張りすぎてノドにつかえ、胸を二、三度たたき、目に涙を浮かべる。その情景がおもしろい。主人ならずとも、全国にうどん好きは多い。
 日本人と小麦粉の付き合いは古い。奈良時代、遣唐使らは中国から小麦粉製の「唐菓子」を持ち帰る。これがうどん、そうめんなどへと進化し、やがて各地に「うどん文化」の花を開いていく。
 小麦は南極以外どの大陸でも育ち、日本では北海道から沖縄までとれる小麦は国民食である。ただし気候や地味から、国産種は中力粉(たんぱく質約9%)になる中間質小麦が主だ。パンやラーメン向きの強力粉(たんぱく質約12%)の原料になる硬質小麦や、ケーキにあう薄力粉(たんぱく質約8%)の軟質小麦はきわめて少ない。
 では、問題をひとつ。強力粉と薄力粉をミックスすると、中力粉になるか。なるようで、ならない―これが答だ。
 三つの粉は、どれもミクロン単位の微粒子である。粉の種類によって量や質は異なるが、粘弾性をもつグルテンを形成するたんぱく質のほか、小麦粒の主成分である胚乳の約7割を占める糖質(でんぷん)、脂質、灰分などを含む。グルテン量だけなら、強力粉と薄力粉を混ぜれば中力粉なみのパワーは出る。しかし、中力粉製うどんの食感とは微妙に違う。
 というのは、小麦粉のでんぷんは、水で練り、加熱する(ゆでる)と糊になるが、その性質が小麦によって違うからである。うどんに適したでんぷんをもつ小麦からの粉でなければならない。小麦粉というのは、実に繊細な食品なのだ。
 そのむかし、讃岐のうどん職人は「土三寒六常五杯」を口伝にした。茶わん1杯の塩に、水の量は「土」(夏の土用)は3杯、「寒」の冬には6杯、春秋の「常」は5杯と加減し、粘度を調えた。いまは正確なハカリで目分量は不要になっている。
 粉食は手間だ。ゆえに日本では、うどんなどは「ハレ」の日の食べものとされたと民俗学者の柳田国男(1875〜1962)はいう。中国では赤ちゃんが生まれると、長寿を祈ってめんをふるまう風習があった。めんには民族の深い歴史が刻まれている。  (次回は薄力粉)

  
ミニ製粉史2
 必要は発明の母。製粉技術は約2000年前の古代ギリシャで、てこの原理を応用した「レバーミル」を生み出す。上臼に長い棒を取り付け、人が押して下臼上を弧状に滑らせ、小麦をひく。石臼に線刻目立てをし、前回紹介したサドルカーン(エジプト)と同じく往復運動ながら、効率アップしたろう。当時パン焼きはまだ女性の仕事で、紀元前5世紀のアテネの歴史家ツキジデスは「4人の兵士を養うのに女性1人」(『歴史』)と記している。


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