小麦・小麦粉に係る話題

話題のバスケット

 小麦粉は人類の長い歴史の中で人々の生活と共にさまざまな発展をし、今ではなくてはならない食品材料となりました。この欄では、原料の小麦から加工品になって消費者の方々に食べていただくまでの幅広い小麦粉の世界をいろいろな角度から取り上げ、楽しく、ご参考になる話題として皆様にお届けします。

ポンペイのパン
 イタリアのナポリの近くにあるポンペイの町がベスビオ火山の噴火で埋まってしまったのは,紀元79年8月24日のことでした。17世紀になってその遺跡が発掘され,その中から往時のパンを中心にした食生活をしのばせるものがいくつも出土しました。
 切り込みがあるローマ時代のパン,製粉所,製パン所,パン焼き用のオーブンなどから,当時のパン作りがかなりのレベルだったことが分かりました。そのどれもが精巧に出来ていて関係者を驚かせましたが,特にオーブンは現在のものと比べても遜色のない機能を備えていました。



健康と小麦粉

 紀元前から,パンは人類の命の糧でした。ここ50年ほどで日本人の体位が向上し,寿命が伸びたのも,パンやめんが組み込まれた食生活と関係が深いといえます。
 小麦粉の成分の70%以上が炭水化物で,その大部分は糖質(でんぷん)ですから,エネルギー源として重要な役割を果たしています。平成13年度の日本人の全食料を熱量に換算しますと,1人当たり平均で2,619 kcalですが,P(たんぱく質):F(脂質):C(糖質(炭水化物))の熱量比は13.2:28.8:58.0でした。13:27:60くらいが望ましいとされていますので,脂質が多めで,糖質(炭水化物)が少し不足気味ということになります。糖質はその大部分を穀類から摂取するのが望ましいと考えられますので,小麦粉をもう少し多く食べたいところです。
 アメリカなどで,最近,「パンやパスタを食べると太る」と思っている人が多いようですが,これはパンやパスタといっしょに脂質を多く含む食品もたくさん食べてしまうからです。つまり,食べ過ぎです。アメリカでは,パンやパスタのような小麦粉食品をしっかり食べて,脂質が多い食べ物を減らすことが勧められています。
 また,小麦粉にはたんぱく質が7〜13%含まれています(強力粉は多く,薄力粉は少ない)ので,立派な植物性のたんぱく質源でもあります。ただし,他の穀類と同じように,小麦粉のたんぱく質は,それを構成するアミノ酸のうち,必須アミノ酸の1つであるリジンが少なめです。リジンを多く含む動物性たんぱく質や大豆製品などとパンやめんを食べると,補い合って栄養価を高めることができます。
 小麦粉中の脂質,無機質(ミネラル),ビタミン類は多いとはいえません。しかし,これらを多量に含む食品はたくさんありますから,それらと組み合せて食べればよいのです。
 食物繊維は不溶性のものが1.3〜1.6%,コレステロールの状態を改善する効果があるとされる水溶性のものが1.2%含まれています。私たちは平均で1日に90グラムくらいの小麦粉を食べますので,小麦粉だけからでも2.4グラムくらいの食物繊維(そのうち水溶性のものは1グラムくらい)を摂っていることになります。
 パンやめんなどの小麦粉食品はそれだけ食べてもおいしいのですが,いろいろなおかずと組み合せて食べることが多いようです。ハンバーガー,サンドイッチ,ホットドック,調理パン,五目ラーメン,チャパティなど,おかずを口に運ぶための巧みな器です。フランス料理のパンは,料理をおいしく食べるための良きパートナーです。このように小麦粉食品は私たちの体に必要なたんぱく質,脂質,ミネラル,ビタミンなどの栄養素を豊富に含む食品類を,楽しみながら口に持っていく,大事な運び屋の役目もしています。


(一般財団法人製粉振興会参与 農学博士 長尾精一)

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