小麦・小麦粉に係る話題

話題のバスケット

 小麦粉は人類の長い歴史の中で人々の生活と共にさまざまな発展をし、今ではなくてはならない食品材料となりました。この欄では、原料の小麦から加工品になって消費者の方々に食べていただくまでの幅広い小麦粉の世界をいろいろな角度から取り上げ、楽しく、ご参考になる話題として皆様にお届けします。

スペルト小麦って何?
 イギリスやドイツでは、最近のレトロブームと健康志向から、スペルト小麦の全粒粉で作ったパンが売られています。
 スペルト小麦は、現在、食用に使われている小麦の大部分であるパン小麦(普通小麦)と同じように、42の染色体を持つ6倍種の普通系小麦ですが、パン小麦と異なり、脱穀がやや面倒な野生種に近いものです。今から9000年以上も前にヨーロッパで栽培されていたことが証明されており、紀元前2000〜500年頃にはドイツ、スイス、およびイギリスで栽培されていたそうです。
 英語はSpelt wheatですが、ドイツではDinkel、スイスではSpelzと言います。学名はTriticum speltaです。現代になっても、スペイン中部やフランス南部などのヨーロッパの一部で少量作られていて、主に菓子や飼料の原料として細々と使われてきました。スペルト小麦は肥料、農薬などがなくてもある程度の生育が可能なため、有機栽培による生産が注目されています。
 パン用としてはたんぱく質の量が多くなく、その性質もあまり良くありませんし、皮が離れにくいですから普通の製粉には向かない小麦です。しかし、スペルト小麦を全粒分にして利用することはできますし、全粒分にしますと食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの栄養的に重要な成分が多く含まれることになります。そのため、有機栽培で生産したスペルト小麦の全粒粉からつくったパンが、自然志向や健康志向の人たちに食べられています。スペルト小麦の健康への効果を研究している学者もいます。


ポケットにおかずを入れて食べるピタパン
 中東や北アフリカの人たちが数千年にわたって日常食べてきたパンの一つに、ピタパンがあります。球形または卵形をした中が空洞のパンで、アラブパンとも呼ばれます。パンの分類では平焼きパンの一つですが、チャパティやナンのような一層ではなく、二層に焼き上げるのが特徴です。
  本場のものは、小麦粉、イースト(0.5〜1.0%)、塩(0.75〜1.5%)、および水で作られます。これらの原料をこねて、やや硬めの生地にし、1時間程度発酵します。生地を適当な大きさに分割し、丸めてから、10〜15分間ねかせます。ローラーで1.5〜2.5mmの厚さの平らな生地にし、丸か卵形に成形します。これをホイロ工程で空気にさらし、最後の発酵をします。その後の焼成は高温、短時間で行い、400℃、90秒というのが一つの例です。
  ホイロで形成された生地シートの薄い表面がオーブン中で青白いクラスト(外皮)に変化します。一方で、生地中心部の温度は約99℃に上昇して、蒸気が発生します。その蒸気圧と発酵で発生する炭酸ガスの圧力の複合作用によって、上部と底部の層が離れてポケットができます。このようなポケットの形成は焼成の最初の1/3くらいで起こります。
  日本では、このような本場の伝統的な原材料配合や製法をアレンジして、日本人が食べやすいピタパンが作られることが多いようです。こうして焼いたピタパンを半分に切り、肉、野菜、豆などから作った好みの料理を具として詰めて食べることが出来ます。


(一般財団法人製粉振興会参与 農学博士 長尾精一)

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