小麦・小麦粉に係る話題

話題のバスケット

 小麦粉は人類の長い歴史の中で人々の生活と共にさまざまな発展をし、今ではなくてはならない食品材料となりました。この欄では、原料の小麦から加工品になって消費者の方々に食べていただくまでの幅広い小麦粉の世界をいろいろな角度から取り上げ、楽しく、ご参考になる話題として皆様にお届けします。

大麦から小麦へ
 1万年ほど前の西アジアの山岳地帯の草原には、野生の小麦や大麦が他の雑草に混ざって生えていました。乾燥した暑い夏の終わりに、わずかですが実がつきます。原始人たちは、それらが地面に落ちる前に茎からもいだか、落ちたのを拾い集め、野生の果物、木の実、種子、草などと共に食べていたようです。雑草の中では、大麦と小麦が比較的多く、粒が少し大きめで集めやすかったようです。たくさん食べてもおなかに安心で、無毒だったことも、選ばれた理由だと思われます。
 それらが栽培しやすかったことも、原始人にとっては幸せなことでした。1万〜8500年前の先土器新石器時代には、野生と栽培した麦の両方を、小麦と大麦の区別なく、豆や雑穀と混ざったままで石と石の間にはさんで粗く砕き、焼いて食べていたようです。こうして「麦の文化」が始まりました。
 土器が使われ始めた紀元前6500年ごろには、小麦でなく、大麦が選ばれて栽培されるようになりました。その理由は、乾燥していて肥沃でない土地には、大麦が向いており、収量が多かったことと、小麦より収穫が1〜2週間早いので、雨が降らないうちに食糧を確保できたことが考えられます。
 大麦を臼でついて粗挽きし、土器で煮て「おかゆ」として食べました。小麦のおかゆはグルテンが固まってボタボタの感じですので、大麦の方がさらっとしたおいしいおかゆになりました。中国でも先秦(しん)時代までは、主に大麦のおかゆが食べられていました。「麦」という字は、漢の時代に大麦と小麦に分けられたようです。穂の大きさではなく、主なものを「大」、そうでないものを「小」と区別したと言われています。大麦は中国でも大事な麦だったことが分かります。
 紀元前3000年ころの古代エジプト時代に、「サドルカーン」と呼ばれる粉挽き専用の石が作られました。その上に人がひざをついて座り、全体の3分の2くらいのところに小麦をのせて、細長い棒状の別の石を両手で握って体重をかけながら前後運動を繰り返します。手前にすり残しが、向こうに挽いた粉がたまります。麦に少し水を加えて湿り気を持たせ、サドルカーンですりつぶしますと、麦の外皮は比較的粗いまま取れ、内部は細かい粉になります。ふるい分けや風選によって、外皮を大まかに分けていたと思われます。
 その粉に水を加えて捏ねると弾力と粘りのある塊になり、オーブンで焼くと、比較的軟らかくて、おいしいものが出来ました。おかゆと共に食べていた大麦の粉で焼いた硬いパンとは、大違いでした。石臼が改良され、比較的きれいな粉が出来るようになりますと、小麦の粉の方がいつもおいしいパンになり、その他にもいろいろな食べ方ができることも分かりました。エジプト、インド、中国などで、ある時期から大麦でなく小麦を食べるようになります。おいしさを求めて、大麦と小麦の位置が逆転していきました。
 ある時、小麦の粉を水で捏ねた生地を放っておいたところ、大きく膨らみ、表面から泡が吹き出して腐ったようになりました。いたずら心にこれをオーブンで焼きますと、それまでよりも香ばしく、軟らかくておいしいパンになりました。これが「発酵パン」の始まりです。発酵してパンをつくるようになりますと、小麦の粉のよく膨らむ性質が生かされますので、小麦がだんぜん有利になって、大麦との主役の交代は決定的になりました。この時から現在まで、「小麦の時代」が続いています。パンを発酵でつくるようになってから興ったギリシャ、ローマ、西ヨーロッパなどの文明には大麦の時代はなく、いきなり小麦を食べるところから始まりました。


やわらかいポテトロール
  北海道やアメリカ北部の西海岸に近いアイダホ州では、おいしいジャガイモが生産されています。これら国内産や輸入のジャガイモを加工して作ったポテトフラワーを上手に使いますと、「ポテトロール」をつくることができます。
 いろいろな原材料配合が考えられますが、強力小麦粉を主体にした小麦粉100に対して、ポテトフラワーを70〜90くらい混ぜます。卵、砂糖、ショートニングをそれぞれ10〜20くらいずつ配合した比較的リッチな配合にしますと、やわらかい食感のパンに焼き上がります。
 チェコのボヘミア地方には、美しい中世風のお城がところどころにあって、歴史の重みを感じさせてくれます。その地方で食べられている「カルトフェル・ブロート」は、渋みや味にくせがないジャガイモを煮つぶしたものを混ぜてつくります。いかにも伝統的なポテトロールらしい独特の風味を持つパンです。


(一般財団法人製粉振興会参与 農学博士 長尾精一)

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