小麦・小麦粉に係る話題

話題のバスケット

 小麦粉は人類の長い歴史の中で人々の生活と共にさまざまな発展をし、今ではなくてはならない食品材料となりました。この欄では、原料の小麦から加工品になって消費者の方々に食べていただくまでの幅広い小麦粉の世界をいろいろな角度から取り上げ、楽しく、ご参考になる話題として皆様にお届けします。


スウェーデンの成功物語
 かなり昔からパンをたくさん食べてきたスウェーデンの人々ですが、1950年代からパンを食べる量が年ごとに減りました。そして、1975年には、1人1日平均で4〜5枚しか食べなくなりました。パンを食べると「太る」と思われていたのが最大の原因のようで、パンを食べる量が減った分だけ、動物性の食品を食べる量が増えたようです。

 このままでは国民の健康にとって大きな問題だということで、対策をめぐって真剣な議論が交わされました。そして、製粉や製パン業界が中心になり、関係官庁も加わって、「1日に6〜8枚のパンを食べよう!」という一大キャンペーンが5年もの長い間、辛抱強く展開されたのです。女性や体が小さい人は6枚、普通以上の体格の男性は8枚が目安だということでした。

 「1日6〜8枚のパンを食べ続けると、丸い人(ラウンダー)にならず健康な人(サウンダー)になる!」と、語呂合わせでPRし続けたそうです。最初はなかなか受け入れてもらえなかったようですが、関係者たちの粘り強い努力と協力活動によって、パンの良さが次第に認識されるようになり、1日に6〜8枚食べるようになったそうです。

1986年4月にドイツのハンブルグで開催された国際穀物科学技術協会の大会で、スウェーデンのエクルンド博士は誇らしげにこの成果を発表しました。「パンの消費が増えた分、何を食べる量が減ったのですか?」、「関係者の協力体制作りのポイントは?」、「資金はどこから出たのですか?」など、質問が続出しました。PR資金は主に製パン会社が出し合ったそうです。スーダンの元気の良い女性が立って、「私の国では事情が違いすぎて、とてもそんなことは考えられない」と発言し、先進国中心に進められていた「パンの消費を増やすにはどうすればよいか」という議論にちょっと水を差しました。


「蒸しパン」は東洋独特
 ここ20年くらい、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの小麦粉研究者の間で「チャイニーズ・スティームド・ブレッド(中国風蒸しパン)」のつくり方やそれに使う小麦粉についての研究が盛んに行われてきました。これらの国に中国からの留学生が増えたことと、小麦輸出国として中国市場に注目したことが背景にあったようです。
  ここでいう「蒸しパン」とは、私たちが「肉まん」や「あんまん」などと呼んでいる「中華まんじゅう」のことです。日本で売られているものも、その名前のとおり、つくり方は中国から来たものです。
 本場の中国では、地方によってつくり方や食感がかなり違うようです。中国では、こういう蒸しまんじゅうを総称して「饅頭(マントウ)」と言っています。饅頭にも、中に何も入れないものと、肉あんやあずきあんを入れた「包子(パオズ)」と呼ばれるものがあり、華北などでは主食として食べられています。
  小麦粉に中国独特の麹(こうじ)、砂糖、少量のラード、水を加えて、よくこねて生地にし、発酵してから、小さく切って蒸すのが中に具を入れないものの伝統的なつくり方の一例ですが、現在ではイーストやベーキングパウダーを使ってつくることも行われています。
  饅頭の由来に関する物語はいろいろありますが、どれが本当かはっきりしません。三国時代の蜀(ショク)の武将だった諸葛亮孔明(ショカツリョウコウメイ)が雲南の蛮王を討ちに出かけ、川を渡ろうとしましたが、波が高くて渡れませんでした。小麦粉生地で羊やブタの肉を包み、人間の頭の大きさにして、人間の頭の代わりに祭壇に供えて波を鎮めたという有名な話があります。この供え物のことを「蛮頭(マントウ)」、変じて「饅頭(マントウ)」と呼んだとも言われています。
  「蒸す」という方法で小麦粉生地を熱加工することは、西洋ではあまりなく、東洋で多く使われている方法です。日本でもいろいろなタイプの「蒸しパン」が売られています。「チーズ蒸しパン」は「チーズ」と「蒸しパン」という西洋と東洋の食品の組合せで作り出されたユニークなパンです。


(一般財団法人製粉振興会参与 農学博士 長尾精一)

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