小麦・小麦粉に係る話題

話題のバスケット

 小麦粉は人類の長い歴史の中で人々の生活と共にさまざまな発展をし、今ではなくてはならない食品材料となりました。この欄では、原料の小麦から加工品になって消費者の方々に食べていただくまでの幅広い小麦粉の世界をいろいろな角度から取り上げ、楽しく、ご参考になる話題として皆様にお届けします。


日本人が作り出した食パン
 スライスしたものをトーストして食べる「食パン」は日本の代表的なパンで、糖分が10%以下の箱型で焼くパンの総称です。最近、いろいろなパンが食べられていますが、いぜんとして日本のパンのほぼ半分は食パンです。
  太平洋戦争以前、パンは特別な食べものでしたが、戦後の食料不足時代に、アメリカからの援助物資の小麦粉で作ったコッペパンや食パンを食べ、その味と食べ方を覚えました。しかし、パン食の習慣がなかった国民なので、食糧事情が落着くと、おいしいと思って食べ続けてもらうためには工夫が必要で、原材料を吟味し、製造方法を改良する製パン業界の人たちの努力が積み重ねられました。その成果が、今食べている「食パン」だと言えます。先祖代々食べてきたご飯の食感に近いものが、食パンには巧みに取り込まれています。しっとりしていて、軟らかいが適度の弾力があり、表皮は比較的薄く、内部は絹のような感触で、きめの細かい芸術品のようなパンです。西洋からのパンという形に、日本の伝統的な食感を組み合わせて作り出された新しい食品で、洋の東西の融和の産物といえます。
  いろいろな場面で食べやすく、折からの生活の洋風化、多様化ともよくマッチした食パンは、第二の主食の地位を築きあげ、今では、なくてはならない食品です。製造工程の進歩や機械化によって、品質の良いパンを効率良く大量生産できるようになり、買い求めやすい価格で供給されたことと、トースターの普及も、食パンの需要の伸びに貢献したと思われます。
  食パンにもいろいろなものがありますが、強力1等粉100に対して、イーストを2、食塩を2、砂糖を6、油脂を5、脱脂粉乳を2、水を65と、イーストフードを少々加えるのが、一般的な食パンです。中種生地法が多く用いられています。
  焼き色が平均にこんがりとつき、きれいな直方体に焼き上がっているのが良い食パンで、側面が弓なりに窪んでいるのはあまり良くありません。手のひらに載せたとき、軽くてソフトな感じがするのが良いパンです。スライスした面の気泡が薄く、細かくてムラがなく、だ円または縦長の形で、一定の方向性を持っているのが良いと考えられています。スライス面を中指を中心にした3本の指先で軽く押したときの感触が、ソフトで絹のように滑らかで、適度の弾力があり、指の窪みが直ぐ消えるのが良い食パンです。日本の食パンの多くは、箱型に生地を入れ、ふたをして焼いたものです。ふたをしますから、オーブンの中で生地が上に向かって思い切り伸びることができませんので、内部の組織は比較的密になります。
  1870年代の、まだ開拓時代の名残があって鉄道がよく使われていたころのアメリカで、寝台車を連結した列車に、食堂車が初めて登場しました。そこで出したパンが、当時としては珍しい四角い形でしたので、新しいもの好きのアメリカ人の間で話題になりました。この食堂車は、それを製造した会社の名前をとって「プルマンカー」という愛称で親しまれましたので、そのパンも「プルマン」と呼ばれるようになりました。現在のアメリカでは、焼き山が一つの丸屋根型のパンが主流で、長方形の箱型に生地を入れ、ふたをしないで焼きます。この形のパンは、「ワンローフ」と呼ばれ、「ワン」は一つ、「ローフ」は一塊のパンという意味です。内部の組織が比較的粗くて、軽い食感ですので、日本の食パンとは大違いです。
 日本の食パンはしっとりしていてソフトですが、少し前に、もっと軟らかい食パンが登場しました。製造工程で技術的な工夫をし、ふたをしないで焼いた「ソフトタイプの食パン」は、ふわふわしています。一斤を6枚切りにして1枚を少し厚くしましたので、オーブン・トースターでトーストしても、しっとりしたソフトさを保てます。折からのソフトブームに乗って、この新製品は大ヒットしました。それまで似たようなものが多かった食パンの中に新しい食感のパンが誕生して、市民権を得たことになります。その後、オーブン・ートースターでトーストすると表面が比較的カリッとし、内部がしっとりした感じに焼き上がる食パンが発売されて、また人気商品になりました。発酵時間を充分にとって、パンらしいおいしいフレーバーを売り物にした食パンも生まれました。
 イギリスでは小麦粉を原料にした白いパンが主流です。「ティン」と呼ばれる焼き型に生地を入れて、ふたをしないで焼きますから。上に向かって自由に膨らみ、山形になります。ふたをして焼く角形の食パンよりも火通りが良いという特徴があります。本来のイギリスパンは、スライスして内部を指で触りますと、少し乾いた感じがし、目も粗めで食感もやや乾いており、口当たりもソフトです。日本では、この特徴を活かし、日本人に合うようにアレンジした山形食パンが売られています。トーストしてサンドイッチにするには、どちらかというとイギリスパンの方が向いています。トーストすると内部が締まりますから、目が少し粗めのパンの方がおいしいサンドイッチに仕上がります。

(一般財団法人製粉振興会参与 農学博士 長尾精一)

*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。