小麦・小麦粉に係る話題

第2回 小麦粉のある風景

「ブリヌイ」と「クレープ」

ひらの あさか

ロシアに春を告げる”マースレニツァ
 キリスト教の四旬節前の「謝肉祭」週にあたるマースレニツァは、長い冬を見送って、春を歓迎するお祭りです。 このお祭りに欠かせないのが、クレープを小さくしたような「ブリヌイ」です。 ブリヌイの丸い形は太陽を表し、それを食べることによって春を享受するというわけです。 また、7週間にもおよぶ四旬節の厳しい精進の日が続く前の楽しみなひとときなのです。
 ブリヌイの作り方は、小麦粉はふるって、温めた牛乳、ドライイーストを加え少しおいて、そこへ卵黄を加え溶いて、ふるった小麦粉を徐々に混ぜてから発酵させて、先ほどの卵白部分をメレンゲ状に泡立てて、生地と合わせる。 生地ができたら、フライパンにバターを溶かして、生地をなるべく薄くのばし、焦げ目がつかないように両面を焼く。 本国ロシアでは、小麦粉に温めた牛乳とイーストをこねて一晩ねかせ、そこへそば粉、卵黄、砂糖、溶かしたバターを加えて発酵させ、卵白を合わせてから焼く。 前日からの仕込みとは少々手間のかかるものではありますが、その素朴な味わいの薄焼きパンには、シンプルにサワークリームをぬって食べたり、スモークサーモン、イクラ、にしんの酢漬け、チーズ、果てはキャビアと多種多様な食べ物をのせていただく。 もちろん、デザート感覚のサワークリーム、ジャムの組み合わせもあります。



オランダの薄焼きパン
 ナポレオン占領時頃にフランスから伝えられたとされるのが「パネクックン」。 クレープより少しだけ厚めの生地にお好みのおかずをのせて食べる。 作り方は、小麦粉に卵、牛乳、塩少々を加えてかき混ぜる。 フライパンにバターを溶かして、やわらかい生地を薄くのばして流し、両面をキツネ色になるように焼いていく。 チーズをのせたり、シロップ、ハチミツ、ジャムなどをかけて食べる。 専門店では、数種類のパネクックンを数人で頼んでシェアしていろいろな味を楽しむ。



パンケーキあれこれ
 「パン」とはすなわちフライパンのことで、平たくいうと「フライパンで焼いたケーキ」という意味になる。 アメリカ式は、小麦粉にベーキングパウダー、砂糖、塩、卵、牛乳、バターを混ぜ合わせた生地を、フライパンに油またはバターをひいて、直径10pくらいの丸形に薄く生地をのばし、両面をキツネ色に焼く。 これを何枚か重ねてお皿にのせ、バター、メープルシロップをたっぷりかけていただく。 生地に果物を混ぜたり、生クリームやサワークリーム、ジャムをぬって食べたりする。 ドイツでは、パンケーキをプファンクーヘン。 フランスでは、パヌケー。 そして、イギリスでは、四旬節前の懺悔の火曜日にパンケーキを食べる習慣があります。 フライパンにパンケーキを入れ空高く上げ、教会までの道を走る競争まであるそうです。


クレープとガレット
 絹のような滑らかさをもち、かつ生地の表面がちぢみ状、つまり「ちりめん」状になるところから「クレープ」と呼ばれるようになった。 クレープの語源は、ラテン語の「クリスプス(波打つ)」からきているそうです。 歴史は古く、イエス・キリストが誕生してから40日目にあたる2月2日、聖母マリアのお清めの日、キリストの奉献の日にあたるこの日は聖燭祭と呼ばれ、家庭ではクレープを焼いて供えたという。 クレープの丸い形は、光と太陽を表している。 一年の豊かなみのりを願って、くるみの木をクレープでたたいたり、めんどりにあたえたり、はたまたクレープで運だめし、片手にフライパン、もうひとつの手にはコインをもって、片手で上手にクレープをひっくり返すことができたら、この年は健康で幸運に恵まれるということです。
 いっぽう「ガレット」は、小石を意味するガレが語源で、小麦粉がまだ深く流通していない頃、そば粉でつくったそば粥が、あたためていた石の上に落ち、それがそば粉でつくったクレープ「ガレット」になった。といわれている。 ガレットは、このほかにも「ガレット・デ・ロア」1月6日に、東方の三王の前にキリストが現れたところから「公現祭」と呼ばれている日に供えるお菓子で、平たい焼菓子の中に、ソラマメ、またはキリスト教にちなんだ小さな陶製の人形を一つだけ忍ばせて、このお菓子に幸運にも当たった人は、この日一日は、王様、王女様になるという習慣がありました。 地域によっては、パイ生地であったり、スポンジケーキであったり、ビスケット状のものもあります。



ハンガリーの「パラチンタ」
 ハンガリーのクレープは、その名をパラチンタという。 小麦粉に卵、牛乳、砂糖、塩少々を加え、とろりとした生地をつくる。 フライパンを温めてサラダ油をひき、生地を薄く流して両面を焼く。 焼き上ったら、あんずジャムをぬって、筒状に巻いてゆき、好みでシナモンシュガーをふる。 チョコレートシロップを筒状に巻いたパラチンタにかけ、粉砂糖をふって、オーブンで軽く焼くチョコレート味のパラチンタもあります。 またレストランでの一品は、焼いたクレープ生地にヨーグルト、サワークリームを合わせたものをのせ、玉ねぎと骨つき鶏肉を炒めたあと、パプリカを加え、水を入れて煮込み、マジョラム、塩、コショウで味を整えてさらに煮込んだものを、鶏肉は骨からはずして細かく刻んでからのせ、生地を四つ折りに包み込んでから、さらにヨーグルト、サワークリームを合わせたソースを上にかけてからオーブンで温めてから、お皿にとりわけ、パセリのみじん切り、パプリカをふって仕上げます。


イスラエルの「ブリンツェス」

 モーゼが神から十戒を授かったことを記念して行われた「シャブオート」と呼ばれるお祭りがあります。 この祭りの日に食べられる料理が「ブリンツェス」。 小麦粉に卵、砂糖、塩少々を加えた生地をクレープ状に丸く両面を焼き、中にチーズを入れて包み、さらに溶かしたバターで焼いてから食べるというものです。

(食文家)


参考文献
「名前が語るお菓子の歴史」ニナ・バルビエ
エマニュエル・ペレ/北代美和子訳・白水社
「世界の料理・ロシア料理」タイム・ライフ
「世界の食べもの」第5巻朝日新聞社


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。