小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景


「とんかつ」から「串カツ」まで

ひらの あさか

とんかつの来た道

 古来、日本では人の役に立つ家畜の牛、馬、羊、豚、鶏、犬などを食べることは、ご禁制にふれることだった。牛馬は、農耕に欠かせないもの。犬は番犬として働き、鶏は時を知らせてくれるというように理由があった。それ以外の肉は「薬食い(くすりぐい)」と示して秘かに食べられていたようである。
 明治初年、天皇の獣肉解禁により肉食は大衆化してくる。火ぶたを切ったのは「牛鍋」で、肉の臭味をとるために、味噌やしょうゆ、砂糖やみりんを用いた日本独自な味つけの工夫がみられた。
 さて、とんかつが出現するのは、明治28年、銀座の洋食店で売り出された「ポークカツレツ」までまたなくてはならない。これ以前にも「カツレツ」の文字はみられ、その語源としては、フランス語のコートレット、つまり仔牛をはじめとする骨つきの肩肉のことで、英語読みでは、カットレットになる。料理法は、骨付き肉に塩、コショウし、小麦粉をふり、卵黄にくぐらせたあと、パン粉をまぶしてから、フライパンにたっぷりバターを入れ両面を焼いたもので、揚げるというより炒ったようなものである。英語読みのカットレットが縮まって、カツレツ。牛肉や鶏肉を用いたビーフカツ、チキンカツもあらわれるが、牛鍋・すきやきほどに大衆受けしなかった。ポークカツレツは、その後、明治の終わり頃に流行し、現在の形になったのは、昭和初期の上野で売出されたロースカツである。豚(とん)とカットレット、とんカツから日本で生まれた洋食の代名詞はこうして生まれたのである。


とんかつの仲間たち
 フランスには「エスカロップ」という料理がある。薄切りにした肉や魚を用い、小麦粉、卵、パン粉をつけて、バターで焼いたもので、この手法に近い、兄弟分にオーストリアの名物「ウインナー・シュニッツェル」。イタリア北部にみられる「コートレッタ・アッ・ラ・ミラネーゼ」がある。「ウインナー・シュニッツェル」は、仔牛肉を用い、薄くたたいてのばしてから、塩、コショウし、小麦粉をまぶして、溶いた卵にくぐらせ、パン粉をつけ、バターで炒め焼きし、レモンを添える。「コートレッタ・アッ・ラ・ミラネーゼ」は平たくいえば、ミラノ風カツレツ。材料は、仔牛肉を使い、前者と同じで肉をたたいて薄くのばしたあと、オリーブオイルで揚げ、レモンを絞る。パルメザンチーズを使うこともある。下味につける塩味でじゅうぶんにおいしい。この上に生野菜やルーコラをのせて食べるのもサラダ感覚でよい。いっぽう日本のビアホールの名物は「紙カツ」。その名の由来は、紙のように薄く肉をたたいてのばしたもので、ウインナー・シュニッツェルやミラノ風カツレツに通じるところがある。関東では豚肉を使うことが多いが、まれに牛肉も用いられる。肉に小麦粉をまぶして、溶き卵、パン粉をつけてからサラダ油で揚げる。お皿に細切りのキャベツをたっぷりとしいて、アツアツの紙カツは食べやすい大きさに切ってから、ウスターソースをじゃばじゃばとかけていただく。惣菜的な紙カツには、揚げたての紙カツにマリネした生野菜、赤・黄色のピーマン、人参を細切りしたものに、たまねぎスライス、などを上からかけて食べる「紙カツマリネ」。揚げたて紙カツに大根おろし、カイワレ菜をのせ、ぽんずをかけていただく「紙カツおろしあえ」は、お箸で食べるさっぱりとしたカツです。


とんかつ三段活用
 ところかわれば、カツも違う。名古屋には「味噌カツ」。豚のヒレ肉、ロース肉を用いて揚げたとんかつに、八丁味噌ベースの味噌だれをかけて食べる。関西といえば肉といえば牛肉ですが、やはり大阪名物は「ビフカツ」。前記紙カツの如く薄く大きいものもあれば、ヘレ肉を使ったビーフカツレツまで幅広い。岡山では何んと、とんかつにドミグラスソースをかける。味つけは基本的には、小麦粉をラードで炒めてから、トマトピューレー、たまねぎみじん切り、ウスターソースにみりんを加え、スープでのばすカツは豚肉を使う。


街の味「レバカツ」「串カツ」
 東京月島名物といえば「レバーフライ」。またの名をレバカツ。レバーは豚レバーを用い、向こうが透けてみえるくらいの薄さに切ってから、小麦粉をまぶし、溶き卵にくぐらせ、細かいパン粉をつけ、高温の油でさっと揚げる。ウスターソースに和辛子を添える。肉屋のレバーフライは、揚げたてにウスターソースをくぐらせて売っていた。じっくり染み込んだソースの効いたレバーフライは、さめてもおいしい。
 東にレバーフライがあれば西には「串カツ」。もちろん串カツは各地にみられるが、何といっても王者は大阪の串カツ。一口大に切った豚肉とたまねぎを交互に串に刺して、小麦粉、溶き卵、パン粉の順に衣をつけて油で揚げる。さて、これからが肝心。バット(いわゆる油切り用の網つき皿)にキャベツをちぎってしいて、その上に揚げたての串カツをのせ、お店共用のソースの器にたっぷりと入ったソースをくぐらせて食べる。「二度付け御免」とあるように、ソースは共用なので、一度でうまくソースをつけて食べるのが肝要です。


「カツサンド」「ハムカツ」
 カツサンドというと、やはり豚ヒレ肉を使った「ヒレカツサンド」がおいしい。揚げたてのヒレカツにソースをたっぷり含ませて、細切りキャベツ、カツと同じくらいに厚くきったパンに、キャベツ、カツをはさんで辛子を好みでつけていただく。むかしの味「ハムカツサンド」ハムは安ければ安いほどいい。そのむかしは、ふちがオレンジ色をしたプレスハムを薄く切って、これまた薄い衣をつけた揚げたハムカツにウスターソースをたっぷりとつけ、サンドウィッチ用薄切り食パンにはさんで食べる。コッペパンにはさむこともある。
(食文家)
参考文献
「とんかつの誕生」岡田哲・講談社選書メチエ
「たべもの史話」鈴木晋一・小学館
「ベストオブ丼」文春文庫ビジュアル版


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