小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

クリスマスにまつわるお菓子

ひらの あさか

待降節から公現日まで

 わが国においては、とかく騒がしいのが12月24日のクリスマスイブと25日クリスマス。本家キリスト教では、12月から4週間前にさかのぼった日曜日から、24日のイブまでを待降節(アドヴェント)と呼び、協会はもちろん、家庭でも4本のろうそくを立てて、日曜ごとに1本ずつ灯をともしてクリスマスを待ちます。こうして、1週ごとに灯がふえ4本に灯がともる週には、クリスマスを迎えるのです。
 12月6日、サンタクロースの由来となった聖ニコラウス司教の祝日には、ヒトの形をしたパンが焼かれ、「サンタのパン」と呼ばれパン屋さんの店頭を飾る。いよいよクリスマスが近づいてくると、各家庭ではクリスマスに向けてケーキやクッキーづくりに余念がない。ドイツの代表的なお菓子「シュトレン」保存が効くがっしりとしたケーキは、それこそ冬の間中もつ。強力粉の生地に砂糖、バター、牛乳、ナツメグ、カルダモンなどのスパイスと、レーズン、アーモンド、レモンピール、ラム酒などをふんだんに入れてこねて焼き上げ、白い粉砂糖をかけて仕上げる。また、小麦粉にスパイシーな香辛料を加え、はちみつを入れて練り上げ、さまざまな形の押し型、抜き型を使って細かい模様や文字をほどこす「レープクーヘン」は彫刻のように芸術的なものからハートをあしらって、愛のメッセージを伝えるものまで幅が広い。また、グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」に出てくるお菓子の家をこのレープクーヘンの生地でつくり、チョコレートや飴を使って飾りつけ、粉砂糖をふりかけ工夫をこらした「魔女の家」も、クリスマスには欠かせないデコレーションのひとつです。
 そして、12月24日は家族揃っての墓参り。11月2日の万霊節もそうですが(亡き人の平安を祈る、日本でいえばお彼岸のような行事)1年でいちばん楽しいクリスマスのよろこびを祖先とともに分かち合うという意味がある。祖先を大切に思うのは、東洋も西洋もかわらない。日本ではクリスマスのディナーというと、24日のイブの夕食と思われがちだが、西欧ではこの日の食事はつつましいもので、25日の午後からは文字通り大祭日。おいしいごちそう七面鳥やあひる、豚の焼いたもの、ローストビーフなどを食べるのはクリスマスの日なのです。
 1月6日公現日。公現とは、キリストが救い主としてこの世に現れることを意味している。もともとはこの日がキリストの降誕日、洗礼を受けた日とされ、同じ日に東方から三人の学者たちがキリストを拝みにやってきた。彼らはそれぞれにキリストは黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。黄金は、王者への献げもの。乳香は、粉状の焚いてお香にする香りのよい樹脂。没薬は、カンランの木から取れる樹脂で、高貴な香油であり、防腐剤でもある。皮肉なことに、後に十字架にかかったイエスが埋葬された時に添えられたのが没薬であった。この日を境に、クリスマスツリーのオーナメント(飾り)がはずされ、箱にしまわれて、クリスマスは終わりを告げる。

各国のクリスマスお菓子
 冬至の習慣として受け継がれているものとして、北欧では、森の丸太を持ち帰って火をつけるという儀式があった。この名残りをとどめているのが、フランスの「ブッシュ・ド・ノエル」。クリスマスの薪を意味する。ロールケーキにチョコレートなどを混ぜ合わせてつくったバタークリームを塗って、丸太の形に飾りつけ、きのこ、木の葉を添えて粉砂糖の雪をあしらう。
 「王様のお菓子」を意味するポルトガルのお菓子「ボーロ・レイ」。まるで王冠のようなこのケーキは、小麦粉に水で溶いたイーストを加え、まとめてから発酵させ、別立てで小麦粉にバター、砂糖、卵、塩、牛乳を加え、発酵させた生地と合わせ、さらに発酵させてから、アーモンド、くるみ、松の実などの洋酒漬けを混ぜる。最後にその中へ乾燥したそら豆、小さいお人形をしのばせ、リング状に形をととのえ、オレンジピール、レモンピール、レーズン、チェリーなどを飾ってオーブンで焼いて、仕上げにところどころに粉砂糖をふる。中に入っているそら豆、お人形が出てきたら、その人が一日王様になれるといいます。また、ケーキ屋で買ってそら豆が入っていたら、もう一つボーロ・レイを買わなくてはならないという風習もあるようで、豆を飲み込んでしまう人もいるとか。
 フィンランドの風車形ペストリー「ヨウルトルテュ」は、パイ生地を風車の形にととのえ、ブルーベリー、黒スグリ、ラズベリーなどの酸味のあるものをのせて焼くパンです。
 ふるさとはイギリスと言われている「フルーツケーキ」は1月ほどねかせてから食べるのがおいしいケーキで、まずはドライフルーツとアーモンド、へーゼルナッツ、くるみなどをラム酒に漬け込む。バターに砂糖を加え卵を入れてから、小麦粉と合わせ、ドライフルーツとナッツを加えて型にバターを塗って生地を入れ、オーブンで焼き上げる。仕上げにラム酒を表面にたっぷりと塗る。保存して繰り返しラム酒を塗って熟成の時を待つ。
 イタリアの「パネトーネ」は、トニーのパンという意味で、トーネとはトニーというお菓子屋の職人のことで、年頃の娘を大切にしていた。その娘と結婚したいという青年が現われた。しかし、貧乏な菓子屋の娘では彼の家族が結婚を認めてくれないので、クリスマスの前に青年は自分が猟に使っていた鷹を売って、そのお金で菓子屋のトニーに最上の小麦粉、卵、バター、その頃はあまり使われていなかった干しぶどうとレモンを買い、クリスマスケーキをつくらせたら、これが爆発的に売れてトニーはたくさんの資金が溜まった。お金に目のない青年の家族は、難なく娘を迎え入れたというめでたい結末となった。イーストを加えた小麦粉生地はじっくり発酵させ、バター、卵黄をたっぷり加え、干しぶどう白黒、レモンピールを加え、オーブンで焼いて仕上げる。

(食文家)
参考文献
1「誰も知らないクリスマス」 舟田詠子
 朝日新聞社
2「光の祝祭」ヨーロッパのクリスマス
 小塩節 / 日本基督教団出版局
3「世界の料理・イタリア料理」
 タイム・ライフ


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