小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「そば」のはなし

ひらの あさか

      

「二八蕎麦」に「時そば」

 諸説ありますが「二八蕎麦」は、まずは原料比率説。そば粉「八」に対し、小麦粉「二」を配合してつくったというもの。いまひとつの説は、そばの価格説。一杯のそばの値段が十六文。二×八=十六というワケです。
 御存知、落語の「時そば」は、そば屋が男にまんまと勘定をごまかされるというものですが、そばを食べ終った男が、勘定をする段になって、「ひい、ふう、みい…」と数を数えながら、おもむろにそば屋に「いま、何刻だい?」と問いただす。そば屋が「九刻」と答えると、九文を飛ばして十文から数える男。ここで、まんまと一文をごまかされてしまうというのがオチですが、たたみかけるような勘定の仕方が舌妙です。


そばのいろいろ
 そばの実は、かど張っている。そばの語源にあたるのが、この「とがったかど」。わかりやすくいうと、耳を「そば立てる」は、耳を「とがらせて立てる」の意味になる。
 また、そのむかし宮中の女房たちが使っていた言葉を意味する「女房詞(にょうぼうことば)」で、そばのことを「葵」と呼んでいた。なぜ「葵」かというと、そばの実の三稜は「みかど」。つまり「三角」=「帝」に通じるということで、御所では忌み言葉とされていた。これにかわる呼び名「葵」は、そばの葉とちょうど似ていた葵の葉からつけられた。
 どちらにしても恐れ多い名であります。
 ある手打ちそば同好会での話。同好会の名を決めようと考えあぐねた時「葵般若党」が浮かんだ。「般若湯」とは「酒」の隠語。僧たちの間では大っぴらに酒とは言えないところからこの名がある。「そばと御酒を楽しむ会」としたかったのですが、あえなく却下。毎月末に会を催すことからつけた「晦日会」に落ちついてしまったのでありました。


「晦日そば」には「朔日そば」
 江戸川柳の俳風柳多留(三十二篇二十八丁)に「みそかそば残ったかけはのびるなり」とあります。残ったそばと代金を「かけ」たもので、代金まで掛けで来年までのびてしまうという何ともやりきれない話です。
大晦日にそばを食べる理由には、そのかたちから「細く長く」。そばは、細く長くのびるので、商いが永く続くように、家運、寿命がのびるようにとの願いをこめて食べられたという。
 一転して、そばは切れやすいことから、1年分の苦労や厄災などを切るという意味もあることから「縁切りそば」とも呼ばれている。また、薬味にねぎを使うのは、ねぎは神官を意味する「禰宜(ねぎ)」に通じ、これを食すことにより、体を清め、祓い、新年をむかえるというような説もあります。
 除夜の鐘を聞いてから食べるそばを「元日そば」「朔日そば」という。元日に若水を汲んで、雑煮ではなく、そばやうどんで祝う旧家が現在でもあるという。


「そば」と縁起担ぎ

 大入り袋は聞いたことがありますが、耳なれないのが「大入りそば」。芝居の世界などでは、むかしから行われていた習慣だったようで、興行が当たり、札止めになった時に関係者にそばが振るまわれた。今日でいう「大入り袋」の前身で、明治の頃からは、現金が入ったポチ袋が渡されるようになった。
 「引越しそば」現在では、「隣は何する人ぞ」という感じで、こういう風習も少なくなりましたが、「おそばに永く」という意味をこめて、向こう三軒両隣の家に引越しそばを配った。また「そばに末長く」という縁起を担いだのが「結納そば」。嫁方から婚家へそばを届けるというものです。しかし、そばは切れやすいので、結婚式や祝儀には避けられる傾向がある。代わりに幸運を招く「うんどん」=うどんを食べる地域があるという。
 今年も正月から「忠臣蔵」の放送があったが、討入りの「お約束ごと」のようにあるのが「討入りそば」。討入り前夜にそば屋の二階に一同揃って、縁起を担いでそばを食べたという。真相は定かではありませんが、この正月の放送でも、そば屋で集合の場面はありました。堀部弥兵衛宅での饗応のあと、浪士の数名が酒宴というのが、一同揃ってそば屋へ集結となった?事実はともかく、この討入りの日に、ゆかりの赤穂、泉岳寺で行われる義士祭には、そばが振るまわれるそうな。


今日的蕎麦料理

 「そばサラダ」干そばは、かためにゆでて冷水で洗う。水気をよく切ってオリーブオイルをからめておく。鶏ひき肉は、市販のめんつゆをかけて火を通してほぐして、汁気がなくなるまで煮てそぼろ状にする。干椎茸はもどして、もどし汁、酒、しょうゆを加えて煮てから細切りにする。生食用のわかめは、食べやすい大きさに切る。大葉は細切りにする。材料をすべて合わせてから、オリーブオイルとぽんずをかけ、好みでパルメザンチーズをすってかける。ぽんずしょうゆのかわりに、めんつゆを用いてもいい。
 「そばいなり」油揚げは、いなり用に袋が開きやすいものをえらび、まな板で菜箸をあててころがして、2つに切る。鍋にたっぷりの湯を入れ、油揚げを入れて下ゆでして油抜きをする。これをおこたると油揚げに味がしみない。粗熱をとってから水気をしぼる。水、砂糖、本みりん、しょうゆ、酒を合わせた調味料で油揚げを押しぶたをして煮る。干そばは、かためにゆでて、めんつゆに和からし、酢を加えたものを用意して、そばは食べやすい大きさに切って、つゆをまんべんなくかけてかきまぜ、煮た油揚げの中につめ、いり白ゴマと小口切りにした万能ねぎをふったらできあがり。
「揚げそば」かりんとうの辛口のようなものです。そばは、4~5cmに切って揚げる。油気を切ったら、抹茶と塩を合わせた抹茶塩をまぶす。おつまみに最適です。

(食文家)

参考文献    
コムギ粉料理探究事典 岡田哲 東京堂出版
ヨーロッパお菓子紀行 相原恭子 NHK出版
ホットケーキの本II 森永製菓株式会社


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