小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「餃子」のようなもの その2

ひらの あさか

点在する「餃子」
 前回は、ロシア、中央アジアの一部ウズベク、トルクメンにある餃子の仲間を紹介したが、発掘してみると調理法、使われる調味料は異なるものの、各地に餃子のような形をしたものがみられる。
 カザフの「マンティ」は、その名前は中国の「饅頭(マントウ)」からきているのではないかと思われるほどだ。小麦粉に水を加えてこね、塩を加え練り、薄くのばして10cmくらいの大きさに切った皮へ、羊や牛の肉、玉ねぎを粗く切ったものを合わせ、塩、コショウを加え混ぜ合わせ、包み込み、蒸す。蒸しあがったら、器に盛り、粉末の赤唐辛子をかける。
 ウズベクの「マンティ」は、練った小麦粉の皮に、ひき肉と野菜を細かく切って混ぜて入れ、蒸したもので、これにサワークリームをかけて食べる。
 モンゴルの「ボーズ」。その名は、中国の「包子(パオズ)」と似ている。それもそのはず。パオズの原点は、北方民族の常食で、中央アジアを遊牧しながら移動するテントの形に似ているところからその名があるようです。つくり方は、小麦粉に水を加えよくこねて、円形に皮をつくり、羊や牛、時には馬やラクダの肉を使う。肉と玉ねぎは、みじん切りにして、塩を加え、皮に包み、餃子と同じ形にしたり、パオズのようにてっぺんをつまんで口を閉じる。形が整ったら、セイロで蒸しあげる。このほかに、モンゴルではボーズと同じ具材を用いた揚げ餃子の「ホーショール」。ボーズよりは小ぶりな蒸し餃子の「バンシ」。モンゴルのお茶にミルクを加え、小さい餃子を煮込んだ「バンシタイツァイ」などがある。
 韓国の李朝時代の料理書にしるされている「水餃衣(スギョイ)」。小麦粉の生地を薄くのばして、型抜きをし丸型とし、あんを入れて口を閉じ、ゆでて油をまぶし、酢醤油で食べるとある。また、小麦粉生地を使った皮に、細切りにした瓜、豚・牛・鶏などの肉に油、醤油、薬味を混ぜ合わせたあんを包んで蒸し、酢醤油をつけて食べる蒸し餃子も同じ水餃衣と呼ばれたとある。
 ネパールの「モモ」は、小麦粉を水で練ってのばした皮に、水牛の肉に野菜を加え刻み包み込む。油で炒めたトマトにクミンなど香りの強いスパイスを加えたトマトソースをつくり、器にソースをひいて、蒸しあげたモモをソースの上にのせる。形はパオズに近い。
 ポーランドの「ピエロギ」は、ゆで餃子。餃子と同じに肉入りのものもあるが、香りの高い地元のキノコを乾燥させたものを、水で戻して細く切り、酢キャベツを刻んだものと合わせ、小麦粉を水で練って、少し厚めの皮に包んで、熱いお湯でゆで、水気をとり、器によそい、上に豚の皮を揚げて刻み、ちらして、セロリの根など香味野菜を使ったソースをかけて食べる。


雲を呑むと書いて
 もともとは、中国北方が発祥とされるワンタンは、北京語では「ホントン」。小麦粉に水を加え、薄くのばした皮に、少量のひき肉をはさんで、豚のスープで煮たものとある。日本で広まった「雲呑(ワンタン)」は、広東から伝わったもの。そのむかし、広東から北京に留学したり、難しい官吏(今でいう公務員のような)の試験である科挙(かきょ)を受けるために北京へやってきた人たちが、雲を呑むような気合いでワンタンを食べて縁起をかついだかどうかは定かではないが、そういう人たちによって広東へとワンタンが伝わり、日本でもおなじみの「雲呑麺」へと発展していく。
 東南アジアのペナンにも似たような名前の「ワン・トン・ミー」というものがあり、小麦粉でつくった皮に少量の肉を包んだワンタンと、麺をスープに入れた広東風とは、少々異なり、小麦粉に卵を加えて練り、うどん状にした切りめんを指す。
 中国江南地方では、冬至にワンタンを食べるという風習があるようだ。ご当地ワンタンは他に、四川の胡麻だれをかけて食べる「紅油抄手(ホンイウチャオショウ)」。最近は日本でもいただけるが、胡麻の甘さのあとに強い辛さがやってくる、病みつきになる味だ。「抄手(チャオショウ)」とは、四川でワンタンのこと。スープ仕立てのものもある。
 お隣り韓国で、ワンタンに近いものが「片水(ピヨンス)」。小麦粉で練った皮に豚肉、野菜などのあんをはさんで包み、鶏のスープでゆでて、酢醤油で食べるとある。


「ワンタン」の仲間
 カザフの「ベスバルマク」は、肉がメインの料理。牛や羊の肉は、骨つきのまま水からゆでていく。小麦粉に、水、塩を加え練って厚めにのばし、10cm角にそろえる。これを煮汁で煮て、器によそい、骨つき肉は薄くそいで、同じく煮汁で軽く煮た玉ねぎをのせる。上に煮汁を、塩とコショウで味付けた「ブリヨン」をかけたり、つけたりして食べる。ウズベクにも同じ名前の「ベスバルマク」がある。煮汁をたっぷりとかけ、香味野菜をのせたものだ。ブリヨンは、フランス語のブイヨンと語調が似ている。
 イスラエルの「クレプラハ」は、小麦粉に水を加えて練った皮を四角にのばして、牛ひき肉、玉ねぎをみじん切りにし包んでゆでる。スープに浮かべて食べたり、トマトソースをかけて食べる。好みで、ひき肉を鶏肉にしたり、チーズを包んで食べる。形は、あんをはさんで三角に折り、両はじをくっつける。
 ポーランドの「バルシチ」は、その名の通り、ロシアのボルシチのように、ポーランドでとれるビーツを使った赤ワインのような鮮やかな色のスープのベースは、コンソメ。小麦粉を練って薄くのばして、正方形に切った皮に、牛ひき肉を包んで、豚の耳のように小さく形づくり、コンソメスープに浮べて食べる。このワンタンは、豚の耳を意味する「ウシキ」と呼ばれている。

(食文家)

参考文献
文化麺類学・麺談 フーディアム・コミュニケーション(株)
世界の食べもの 38・41・44巻 朝日新聞社
韓国料理文化史 李盛雨 平凡社
餃子のミイラ 小菅桂子 青蛙房
中華じゃないギョーザ 読売新聞 03,10,30(夕)


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。