小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「パイ」がいっぱい

ひらの あさか

「パイ」のそのむかし
 時は古代ギリシャ、ローマ時代。肉や果物を直火ではなく、素材の持ち味を逃がさないように小麦粉と油脂を合わせた生地に包んで焼いたのがパイのはじまりといわれている。
 下って、14世紀フランスでフイユタージュ(パイ生地)が現れ、肉や魚、野菜、果物などをパイ生地に包んでオーブンで焼いたパイ料理「パテ」が作られる。
 また、17世紀にフランスの菓子職人のフイユさんがパイ生地を使った菓子をつくったことから「パイ」の名があるという説もある。英語で「かささぎ」を意味するPieは、何でもかんでも集めてくるかささぎと、何でも包み込んでしまうパイとが似ているからという面白い説もある。

物語に現れた「パイ」
 マザーグースには「Aはapple pie」ということでアップルパイが登場し、「Bはbit」そのアップルパイをかじった。「Cはcut」アップルパイを切ったという具合に、アップルパイをアルファベットを使って食べていくというパイづくしのうたがある。
 また、ピーターラビットシリーズに「パイがふたつあったおはなし」という物語がある。登場するのは、猫のリビーに犬のダッチェス。ある日、リビーがダッチェスをお茶に招待しました。リビーはお料理が大の得意。中でも彼女の得意なのは「ねずみのパイ」。これを食べたくないために、リビーが買い物にでかけている間にダッチェスは自分で作った「子牛とハムのパイ」をオーブンの上段に入れたのですが、実はリビーの作ったねずみのパイを食べるはめになってしまったというお話で、気分を悪くしたダッチェスにリビーは、お医者のカササギ先生を呼びにいく。かささぎといえば、pieではないですか。なかなかに意味が深いお話です。


イギリスの「パイ」
 パイの歴史が古いイギリスでは、大きく分けて、肉、魚、野菜を包んで焼いたパイと、フルーツやクリームをパイの器にのせて焼いた甘いパイ、器にパイ生地をかぶせて焼いたポットパイなどがある。むかしのパイは、フィリング(中身)を入れる器として用いられ、料理ができたところで捨てられたようです。というのも、現在のようなオーブン用の型や皿がなかったので、パイがその役割をしていたというわけです。いまでも、器的な役目をしているパイですが、軽く薄く仕上げ、具材とともに食べるようになっています。
 元祖イギリスの「アップルパイ」。酸味のあるりんごは、皮をむいて6等分くらいに切る。色よく仕上げるには、レモンを絞ってよくまぶしておく。鍋に砂糖と水を加え火にかけておく、ドロドロとしてきたところへ、切ったりんごを入れて火を通し、バターを加え、水気が少なくなるまで炒りつけ、シナモン、クローブのパウダーでスパイシーに仕上げる。パイ皿の上にパイ生地をのせ、炒りつけたりんごをできるだけ平らに敷いてゆき、卵黄を縁に刷毛で塗り、ふたになる部分をのせ、パイ生地の残った部分を葉っぱ状に切り取り、中央に蒸気が通るように穴をあけ、さきほどの葉っぱをあしらい、表面に卵黄を刷毛で塗ってから、オーブンで焼く。
 「きのこと鶏肉のクリームポットパイ」しいたけとしめじは石づきをとって、しいたけは細切り、しめじは小房に分けておく。鶏もも肉は、小さく切り、たまねぎ、にんにくはみじん切りにしてバターでよく炒め、次いで鶏肉を入れ炒め、火が通ってきたところでしいたけ、しめじを入れしんなりしたところで、牛乳、顆粒状ブイヨンを入れ、さらに市販のホワイトソースを加え、塩とコショウで味を整えたクリームスープを作る。耐熱容器にスープを流し込み、冷凍のパイ生地でふたをして、オーブンで表面をこんがりと焼く。お皿の上に耐熱容器をのせ、熱いうちにスプーンでパイをザクザクさして、シチューに浸して食べる。


「パイ」いろいろ
 「タルト・タタン」フランス版アップルパイの名は、りんごのタルト。フランスのオルレアネ地方の田舎町にタタンという姉妹がいました。彼女たちは小さな旅籠を営み、そこにくるハンターたちを相手に料理を作っていました。ある日、デザート用にりんごのタルトを作っていて、焼き上がったところでオーブンから出そうとした時、なぜかタルトがひっくり返ってしまいました。せっかく作ったパイなのにと、口に含んでみたら、なんと裏返しとなって、天板で焼け
た表面がうまいことカラメル状になって、なんともいえぬいい味になっていた。それ以来、このお菓子を最初からひっくり返して焼いたことから、タルト・タタン【Tarte Tatin】と呼ばれ、伝統的なフランス菓子の一つとなり、現在に受け継がれているという。
 パイ投げで思い出すのは、アメリカ。ドタバタコメディーの最後に出てくるのはパイ生地にたっぷりの生クリームをのっけて、憎い宿敵の顔をめがけてパイを投げつけるというより顔にパイを押しつけるといった光景が浮かぶ。それほどにパイとアメリカは、深い印象がある。おいしく、相性がよければ何でものせて焼いて食べる家庭の味、ママの味はダイナミックでおいしい。
 「バナナチョコレートパイ」器になるパイ生地は、空焼きしておく。そこにカスタードクリームを敷く。バナナは皮からはずして細かく切ってレモン汁をふりかけ、つぶして8分立てした生クリームと合わせてカスタードクリームの上にふんわりとのせていく、そのまた上にチョコレートソースを網状にあしらえばできあがり。

(食文家)

参考文献
ピーターラビットの絵本19
  パイがふたつあったおはなし
福音舘書店
ビアトリクス・ポター作絵/いしいももこ訳
ミセス・ギフォードのイギリスのパイとプディング
  ジェーン・ランザー・ギフォード
文化出版社
万国お菓子物語 吉田菊次郎 晶文社


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