小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「ラーメン」が食べたい

ひらの あさか

「ラーメン」のそのむかし
 古くは江戸時代。知らない人はいないであろう前(さき)の副将軍水戸光圀、そう「頭が高い」で有名なあの水戸の黄門さまです。
 その光圀がある日、尊敬する中国の儒学者朱舜水を招いて手製のうどんでもてなした。光圀の麺好きを知った舜水は、そのお返しに、自国の平打ち麺に、豚もも肉を塩漬けにした中国のハムである「火腿(フオトイ)」でスープをとった中国めん料理でもてなした。同時に舜水は、この麺にのせる薬味も紹介した。山椒、にんにくの芽、黄ニラ、白芥子、香菜などで中国風のラーメン味を伝えたという。
 下って、いまから145年ほど前の横浜港開港時期に、貿易商の通訳だった広東系中国人が唐人街を形成し、のちに横浜の中華街として発展する唐人街から伝わったのが、ワンタン、餃子、シュウマイ、饅頭などの点心。そして手延べの麺「拉麺(ラーミエン)」や延ばした生地を包丁で切る「柳麺」だった。
 その味は、しだいに地元の人びとにも知られていくようになった。
 諸説あるが、その後ラーメンの名が庶民に知られるようになったのは、明治43年(1910)浅草公園に開店した『来来軒』。大衆的な店では、当時の中華街から調理人を雇い、ラーメン、シュウマイ、ワンタンなどを看板に、安くて旨くてお腹いっぱいになるという評判の店となった。これが、東京ラーメンの元祖となる。
 そして戦後、長崎、神戸、横浜など各地の中華街で華僑から中華そばが伝わり、また台湾や中国大陸からの引揚者によって、中国の味が日本に伝えられ、安くてボリュームのあるラーメンをはじめとする中華料理は、食糧事情の悪いこの時代に当然のことながら浸透していった。


日本生まれの日本育ち
 日本そばにおけるそばつゆは「だし汁」と「かえし(つゆ)」ですが、ラーメンづくりにも、このだしとたれの方式が定着しています。これが、ラーメン店にとっては「いのちのスープ」といっても過言ではないでしょう。
 だしには果てしなく種類がありますが、豚骨、鶏ガラをはじめ、かつおぶし、昆布だし、煮干しや焼き干しに野菜という組み合わせ、それこそ各地のお国柄があらわれる雑煮のごとく、うまみたっぷりなだしが使われている。
 味つけにあたるたれもしょうゆ、味噌、塩といろいろな味が楽しめる。
 コンチネンタルな東京ラーメンは、今も町場のそば屋さんでその姿を見ることができる。しょうゆベースのスープにかんすいの入った黄色い縮れめん、ナルト、チャーシュー1枚にゆでほうれんそう、メンマ、海苔、そして小口切りにした長ねぎ、脳味噌を揺さぶる郷愁の味です。


中国のかわりめん
 中国北部の山西省は、小麦粉を使った料理とくに麺類の種類が多いことで知られています。おなじみの拉麺は、小麦粉をよくこねてうすくのばしてゆき、生地を両手いっぱいにのばして、二つ折りにして、それを繰り返して4本、8本、16本とのばして細くしていくと、それこそ糸のように細くなる。これを油で黄金色になるまで揚げたものが「龍須麺(ロンシュイミエン)」丸く固めて揚げて、小麦粉生地を薄くのばして焼いた「薄餅(パオビン)」にはさんだり、揚げたてに砂糖やサンザシのゼリーをのせる。龍須とは、龍の髭という意味。それほど細い麺なのですばやく揚げないと生地がくっついてしまう。
 「猫耳朶(マオアルドゥオ)」猫の耳のかたちをしているところからその名がある。小麦粉生地はのばして、賽の目に切ってから親指の腹で押し出し、くるんと猫の耳たぶのかたちにのばす。何となく、イタリアのニョッキのような作り方で、それこそシェル型マカロニの元祖なのかも知れない。熱湯でゆでてから、卵や鶏肉などと炒めて食べる。
 「撥魚児(ボォユイル)」まるで細い魚がスープの中ではねるような麺は、小麦粉と水を合わせ、糊状になるようになったら、ふきんをかぶせてねかせる。丼に柔らかくてもコシのある生地を入れ、熱湯を沸かし箸でこすりながら生地をはねていくと細長い魚のような麺ができる。麺はすぐに水に放ち、水気をとってから、熱い澄んだスープに薬味を加えてコショウをかける。


インスタントラーメンあらわる
 即席めんの始まりは、昭和33年(1958)それは、お湯をかけてふたをして3分間。「すぐおいしい、すごくおいしい」のキャッチフレーズでいまでもおなじみのチキンラーメンでした。その後、昭和41年(1966)お湯を注ぐだけで、いつでもどこでも食べられる『カップヌードル』があらわれ、それこそ海の家のそばにあった自販機でも、手に入ったものだった。冷えた体を温めてくれるおいしい一杯でした。もちろん、いまも人気のカップラーメン、インスタントラーメンは、その後も進化を続け、半生タイプのコシのある本格派。麺や具においても、外でいただくラーメンにひけをとらないものが増えている。
 そして発売以来から、いまにいたるまで人気のあるインスタントラーメンは、コンビニエンスストアで定番になっていて、しょうゆ、味噌、塩ラーメンがつねに顔をそろえてある。
 その昔、まだ「四川料理」の名が聞こえ始めたころに売り出された生味噌を使ったインスタントラーメンの味が懐かしい。リュウショウめんという名のものだったが。            

(食文家)

参考文献
水戸黄門の食卓 小菅桂子 中央公論社
dancyu 1991年11月号「日本ラーメン史」  
ラーメンの誕生 岡田 哲 筑摩書房
無敵のラーメン論 大崎裕史 講談社
新中国料理大全  北京料理 小学館


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。