小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「うどん」が食べたい

ひらの あさか

「うどん」の戯れ噺
 討ち入りでおなじみの「忠臣蔵」。四十七士が吉良邸にむかう前に立ち寄ったのが、そば屋という俗説がありますが、その四十七士をもじってつくられた江戸川柳に「そば切りか二十うどんが二十七」(俳風『柳多留』九15)という句がある。これは、そば派が20で、うどん派が27ということであります。思えば出身は播州赤穂。そばよりは、うどん派が多いのは、ちょっとうなずけるような気がしますね。
 「医者殿はけっくうどんで引きかぶり」ちょっとした風邪ならば、結局うどんを食べてふとんを引きかぶって寝るのが一番という治療をしている医者。医者は薬がそんなに効かないということを知っているからでしょうか。うどんは食べるとからだが温まるということを表現していますが、落語の「うどん屋」では、夜鳴きうどん屋が町を流していると、子供が寝ているから静かにしろとか、酔っ払いが寄ってきて、くどくど話したあげく、酔い覚ましの水だけを飲んで、うどんも食べずに帰ってしまう。がっくりしながら商いを続けていると、今度は大店の裏木戸が開いて、中から小声でうどん屋を呼ぶ声が。かすれた声で呼ばれたので、さては、大店で大口の注文だろうか、大きな声では店の主人に聞こえるとまずいから、小さな声で注文しているのだろうと勘違い。うどん屋も同じ調子の小声で「おいくつですか?」と聞くと「ひとつ」。とりあえず一人が食べて旨かったら大口の注文が入ると期待したが、若い衆はうまそうに熱いうどんをふうふうと平らげ、小声で「うどん屋さん」と呼ばれたので、追加注文かと思ったら「お前さんもお風邪をひきなさったの?」とからかわれてしまう。このお話は、上方落語の「風邪うどん」が東京へと移り「うどん屋」として定着しました。


うどん「うちの味」
 今は、冷凍や常温での技術も驚くほど進歩して、シコシコうどんも家庭でいただけるようになりました。むかしは、せいぜいソフトめんか、ゆでめんでしたが、うどんといえばやはり風邪の初期の時に食べるものでした。
 「かきたまうどん」だしは、かつおぶしでとって、清酒と本みりんは煮切って、だし汁と合わせて、しょうゆを加える。ここへ細切りにした長ねぎ、ゆでめんを入れて煮込み、水溶き片栗粉を入れてとろみをつけ、よく溶いた卵を菜箸に伝わせて手早く流し入れ、火を止める。
 「味噌けんちんうどん」だしは、宗田鰹とさばぶしの厚削りを用い、煮切った清酒と本みりんとだし汁を合わせる。大根、にんじんは短冊切り、ごぼうは斜め切り、里芋は乱切り、豚バラ肉は細かく切る。木綿豆腐は小さくちぎる。これら材料をだし汁で煮て、火が通ったら味噌を加える。ここへ、ゆでめんを加え、くたくたになるまで煮込む。
 「おかめうどん」つゆはかきたまうどんと同じようにつくる。麩は水で戻してよく絞る。かまぼこはうす切り、鶏肉はむね肉をひと口大のそぎ切り、別立ての鍋につゆを入れ材料を軽く煮る。ほうれん草はゆでて、水に放ち絞る。つゆにうどんを入れて煮立ててから器によそい、別立てで煮た材料を上にのせて、ほうれん草、うずらの卵を割り入れてのせ、小口切りにした長ねぎをちらす。


うどん「街の味・忘れえぬ味」
 元祖きつねうどんの大阪のさるうどん屋で食べた「細打ちうどん」は、まるで和製パーコー麺のようなスタイルで、細打ち自家製うどんに豚天、焼きどおし、刻んだねぎが入っている。これがうどんのつゆとの相性がよく、豚の天ぷらが入っているのに全然しつこくなく、クセになる味です。
 京都のうどん屋では、つゆはどちらかといえばあまくちなのに、食べ終わったあとはひりりと辛いきんぴらベースのうどんが忘れられない。うどんは細めの自家製めん、つゆをはった上には、牛肉うす切り、きんぴらごぼう、甘く煮た三角の油揚げがのっているという欲張りなうどんがある。昔は屋台だったが、今はしっかりとした店構えとなっている。
 名古屋は、なんといっても「きしめん」新幹線のホームで食べた立ち食いのきしめんが忘れられない。素うどんの上に花かつおがのっているだけのシンプルなものでした。
 三重は、大衆食堂にあった「伊勢うどん」どこで食べてもおいしいのかもしれないが、あまくちのたまりしょうゆベースのつゆにからまった伊勢うどんは、そんなにうどんはかたゆでではなく、ご存知の通りひたすら長くつながっているめんを、汁を飛ばさないように食べるのは、至難の業でした。
 東京で食べた大阪の味「うどんすき」これは登録商標にもなっていますが、うどん料理の最高峰ともいえる贅沢な素材を使ったうどんの鍋。もっとも、面食らったのが海老の踊りで、御酒で半分酔っ払った活きた海老を鍋の途中で、煮立ったところへ入れるのですがこれがあまりに勢いよくはねること、食べるのもつらくなるくらいですが、いただきました。
 うどん天国四国では、ゆであげたうどんにつゆをかけ、花かつおをのせただけの「ぶっかけ」に、ゆでたうどんを冷水でしめたあと生じょうゆをかけ、柑橘類を絞ってかけただけの「生じょうゆうどん」が印象的で、このときは生じょうゆうどんを前菜に「肉うどん」まで3品を食べてしまった。あそるべし讃岐うどんパワーを肌で感じたものでした。
 九州博多では「ごぼ天うろん」をいただく。つゆは、透明感のある澄んだつゆなのにだし味は、しっかりとした昆布といりこほかにも何かのだし味が潜んでいそうなコクのある味で、ごぼ天はありがちな薩摩揚げではなく、軽く衣をつけて揚げたごぼうの天ぷらで、店のテーブルにある山盛りの刻みねぎを遠慮なくたっぷりのせ、一味をかけて食べました。

(食文家)

参考文献
落語食譜 矢野誠一 青蛙房
落語讀本  精選三百三席 矢野誠一 文春文庫
江戸川柳飲食事典 渡辺信一郎 東京堂出版
きつねうどん口伝 宇佐美辰一 筑摩書房


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。