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 「ズッパイングレーゼ」はイタリアを代表するお菓子ですが、その意味は「イギリス風のスープ」。何でお菓子なのにスープなのか。その昔、何でも「イギリス風」をつけるのがはやりだったそうな。カスタード風味のお菓子をイタリアやフランスでは「イギリス風」と呼んでいたようです。

 「ズッパイングレーゼ」のつくり方は、スポンジ生地、カスタードクリームには少々アマレットを潜ませて、7分立てした生クリームには砕いて粒状にしたアーモンドとくるみを合わせておき、メレンゲも用意する。シロップ用のリキュール類は、アマレット、甘口のベルモット、赤い色がついたリキュールなどを用意する。いずれも濃厚なので、事前に少々の水で割って使う。スポンジ生地にシロップをたっぷりと交互にかけてしみ込ませ、生クリームをスポンジの上にのせる。ついでカスタードクリームをのせ、シロップをしみ込ませたスポンジ生地という風に重ねていき、てっぺんにメレンゲをのせ、ココアパウダーを食べる直前にふる。
 このズッパイングレーゼを初めて食べた時の印象は、かなり強烈でした。子供でも何ともなく、DNA的にお酒やリキュール類が入っているものには大いに反応しなかったものでしたが、ズッパはその期待を裏切る子供が食すには、ちょっとヘヴィなお菓子でした。馴染みのイタリアンレストランで食後にいただいた「それ」は、まるで「酔っ払い菓子」と呼ぶにふさわしいものだったのです。淡雪のようなメレンゲがとろけると同時に、たっぷりとリキュールがしみ込んでいるスポンジ生地、ナッツを香ばしく含んだ生クリームとアマレットの入ったカスタードクリームが口中を覆いつくす。何とも口福な味だったことを記憶しています。


アリババとブリヤ=サヴァラン
 時は17世紀初頭、ポーランドにスタニスラス・レクチンスキーという王様がおりました。この王様は、ブリオッシュやクグロフ(ポーランドをはじめ、アルザス、オーストリアの古いお菓子で、帽子の形をしたレーズン入りのブリオッシュの一種)が大好物でした。ある時、宮廷で出されたクグロフがかわいてパサついていたので、王様は考えた。このかわいたクグロフにラム酒をかけて食べてはどうか。このクグロフがことのほかおいしかった。これを名づけて「ババ」。その当時、王様の愛読していたのが『アラビアンナイト』。この物語の中で王様の最もお気に入りだったのが「アリババと四十人の盗賊」。主人公のアリババの名前をつけたお菓子「ババ」が誕生しました。
 その後、王様付きのシェフがクグロフにラム酒をかけて火をつけて炎を上げるフランベの方法を考案し、宮廷で大人気となりました。
 のちにポーランドの菓子職人が考案したのが「ババ・オ・ロム」。ロムとは、ラム酒のことで、その名の通り「ラム酒漬けのババ」、ババ・オ・ロムが生まれる。ババは、今でもポーランドでは、大切なお菓子として親しまれていて、復活祭前の土曜日(聖土曜日)の食卓に添えられている。
 下って19世紀、パリの菓子職人のジュリアンによってつくられたのが、世にも名高い美食家ブリヤ=サヴァランの名を冠したお菓子「サヴァラン」。生地は、ババ同様に小麦粉に砂糖、卵、バター、塩、牛乳、イーストを加え混ぜ合わせ、発酵させたものをリング型に入れて焼き、生地が熱いうちにラム酒やキルシュワッサー(チェリーブランデー)のたっぷり入ったシロップに浸しておき、リング型の中央に泡立てた生クリームを絞り、果実をちょこんとのせたものです。このサヴァランは、ババのアレンジで、つまりクグロフのラム酒がけから、ババ、そしてサヴァランと改良に改良を重ねた逸品だったというわけです。

「黒い森」という名のお菓子
 シュバルツヴェルダー・キルシュトルテ「黒い森のさくらんぼケーキ」。ドイツでケーキといえば、どちらかというとパンのようにかわいたケーキが多いなか、この「黒い森」ケーキは、その名の通り、やわらかいココア風味のスポンジ生地に、ふんだんにキルシュワッサーを含ませ、生クリームをたっぷりと使い、さくらんぼをはさんだウエットタイプのケーキなのです。
 卵、砂糖、小麦粉、ココアパウダー、バターを合わせたココアベースのスポンジ生地を丸い型に流してオーブンで焼く。生地を冷ましてから、横にナイフを入れ、二等分にしてまんべんなくキルシュワッサーをかける。生クリームは砂糖を加え七分立てにし、アメリカンチェリーは軸をとって、半分に切って種を抜く。スポンジ生地に生クリームを絞り出しその上にチェリーをのせ、生クリームを再度絞り、スポンジ生地をのせて生クリームをのせ、平らにしてからフレーク状のチョコレートをのせて、チェリーを飾る。
 フランスの「黒い森」は、フォレノワール。
 ほぼドイツの黒い森のケーキと同じ工程でココア風味のフランス流ジェノワーズ生地(スポンジ生地)をつくって、天板に流しオーブンで焼き、冷めてから2枚に切り分け、8cm幅にそろえてから、生クリームに砂糖を加えて五分立てにし、これにカスタードクリームを合わせてよく混ぜ、生地にこのクリームをのせて、半分に切ったアメリカンチェリーをはさんで生地をのせ、クリームをのせて平らにならしてから、三等分に切り分け飾り用のチョコレートをのせて、粉砂糖をふる。

(食文家)

   * アマレット= イタリア北部ミラノ周辺でつくられているリキュール。アーモンドに似た香りと味がするので、アーモンドリキュールとも呼ばれているが、実はアプリコットの核をブランデーで浸して、香草の抽出液をブレンドして熟成させシロップを加えたもの。 
 
参考文献
名前が語るお菓子の歴史 ニナ・バルビエ
エマニュエル・ペレ 訳/北城美和子
私のフランス地方菓子 大森由紀子 柴田書店
お菓子な人生 柳瀬久美子 六耀社
ドイツお菓子物語 曽我尚美 東京書籍
調理用語辞典 (社)全国調理師養成施設協会編


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