小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「餅」という名の食べ物

ひらの あさか

」と書いても、にあらず
 中国の「(ビン)」は、日本でいう(もち)とは異なり、小麦粉などを使って作る食べ物です。
 大まかにいうと、小麦粉生地を練って薄くのばして焼いたものを「焼(チャオビン)」。饅頭、包子(パオズ)、焼売など、せいろで蒸しあげたものを「蒸(ツェンパン)」。水餃子、ワンタンなど、ゆでたものを「湯(タンビン)」。小麦粉生地を油で揚げた「油(ヤウビン)」には、揚げパンのような『油條(ユウテイアオ)』があります。
 ちなみに油條は、塩と重曹に水を合わせ、小麦粉を少しずつ加えてこねて生地を作り、少しねかせてから棒状に生地をのばして、高温の油で手早く揚げたもので、ご存じのように、おかゆや豆乳にクルトンのように添えて食べるものです。
 焼の代表的なものに『薄(パオビン)』があります。日本でもよく知られている『北京ダック』を巻いて食べるのがこの薄です。
 北京では、昔から小麦粉を練って薄くのばして焼いたものに、おかずを包むように巻く食べ方がありますが、このおかずを包む皮を『荷叶(ホーイエビン)』といいます。ホーイエとは「蓮の葉」のことで、蓮の葉のように薄く円い形をしたという意味になります。
 作り方は、薄力粉をボウルに入れ、熱湯を加えて箸でよく混ぜ合わせる。少し冷めたら手を使ってこね、生地がまとまったら、小さくちぎって、ぬれぶきんをかけて冷まし、次に台に生地をまとめこねる。なめらかになったら、棒状にしてから打ち粉をして丸める。小さく丸めた生地にサラダ油を少量つけ、ほかの丸めた生地の上に重ねてのせ、ふたつを手のひらで押さえ、2枚を一緒に麺棒で円くのばし、フライパンに薄く油を引いて、強火でフライパンをあたため、2つの生地を同時に焼き、両面を焼く。熱いうちに2枚をはがすと不思議、不思議。きれいな春がきれいに2枚できあがります。


西太后の夢に出てきた『焼
 清朝末期の女傑、西太后がある夜見た夢の中で『焼』を食べるシーンがあったそうです。そして、次の日の食卓に、夢で見た『肉沫焼(ローモーシャオビン)』が出てきたではないですか。「正夢を見たとは、これは縁起がいい」とよろこんだ西太后は、料理人にご褒美のお金をたくさんあげました。これ以降『肉沫焼』は有名になったということです。
 思えば、よい夢でよかったですが、悪夢であったならば、料理人の命はきっとなかったことでしょう。
 『肉沫焼』は、豚ひき肉のそぼろを、焼に挟んで食べるものです。


春をつげる食べ物『春
 長い冬の寒さを耐え、待ちに待った春を迎える節日の行事「立春」。古くは、唐の時代から春が来たことを祝うために立春の日に贈り物として作られたのが「春盤(チュンパン)」です。
 「春盤」とは、香りが強くて辛味のあるにんにく、のびる、にら、ねぎ、香菜、よもぎ、大根などの生野菜を盛りつけた「菜盤(ツァイパン)」と、『春(チュンビン)』を焼いて盛りつけたものを合せたもので、春先に芽吹いて、勢いがいい野菜を小麦粉でこねて薄くのばして焼いた『春』で包んで食べる。巻き込むものは、野菜と合わせて、炒めた肉やエビやカニを加え炒めた卵、春雨などを加えて作った炒めものなど、具材は巻きやすいように、細かく切ったものを用いる。
 今では、もやしを炒めたもの、ほうれん草、大根、にら、細く切ったにんじん、薄焼き卵、ゆでた鶏肉などに甜麺醤(テンメンジャン)をつけて、春に包み込んで食べることが多い。
 『春』は、具材を細長く巻くので、春になって冬眠からさめて出てきた蛇をあらわしているそうです。それに近い話ですが、立春の日に春を食べることを「咬春(ヤオチュン)」といいます。読んで字のごとく、春を咬むということは、春と勢いのいい野菜をいただくことによって、人にも春の眠気をさますという効果をねらっているようです。
 また、春には必ずといっていいほど、細く切ったねぎを入れて包みますが、ねぎは風邪をひかないための手段なのだそうです。

」の仲間
 には、春のほかに『煎(チェンビン)』小麦粉を水で溶いて、平らな鍋に流し込み、薄くのばして両面を焼くクレープ状のもの。これにしょうゆベースのソースをぬって、折ったり、巻いたりして食べるおやつです。家で食べる時は、野菜の炒め物などを巻いて食べます。街では、焼いた煎に甘みそをぬって、ねぎをちらし、油條を包んで巻いたものが、朝食として食べられていたりします。
 『芝麻焼(ジーマーシャオビン)』ボウルに強力粉と薄力粉は半量ずつ合わせ、熱湯を入れ、塩水を加える。生地がまとまったら、台に移してよくこねて、なめらかになったところで、生地を円くまとめ、表面にサラダ油をぬって、30分ほどラップをしてねかせる。ねかせた生地は、小さく丸めて一つひとつ麺棒で細長い楕円形にのばし、表面にバターをぬり、さらに細長くのばし、内側に折り込みながら長方形に何度かのばして、表面に白いごまをつけ、ごまのついたところを上にしてオーブンに並べて、200℃で10分ほど焼く。
 おもいおもいの具材を入れたり、巻いたりできるは、中国の人びとの料理の工夫がいかされています。  

(食文家)

参考文献
点心の知恵・点心のこころ 中山時子・木村春子 NHK出版
新中国料理大全(一) 北京料理   小学館
中国飲食文化 王仁湘/鈴木博訳 青土社
中華料理四千年 文春新書396
東京の台所・北京の台所 ウー・ウェン 岩崎書店
中国飯菜風味 西村康彦 文藝春秋
かんたん・おいしい点心 游純雄・王志雄 池田書店


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。