小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「リッチなパン」とお菓子

ひらの あさか

「リッチなパン」とは
 「リッチなパン」といっても、お値段の張るという意味のパンではありません。小麦粉にバター、乳製品、卵、砂糖などを練り込んだパン生地を焼いたものです。いわば「コクのあるパン」といった意味になります。
  おなじみのクロワッサン、ブリオッシュをはじめ、イースト入りのパイ生地をぜいたくに使ったデニッシュ・ペストリーなどについて、ここでは紹介します。


「三日月形のクロワッサン」
 フランスのパンを代表する「クロワッサン」その元祖は、オーストリアといわれています。
 時は1683年、オーストリアのウィーンはオスマン・トルコ軍により、包囲されていました。しかし、守りの固いことに手を焼いたトルコ軍は、市内の中心部に侵入するため、密かに地下にトン ネルを掘りすすめていました。そんなある日の こと、真夜中にパン職人が、翌朝の仕込みのためにパン生地をこねていると、地面の下から物音が聞こえてきました。不審に思ったパン職人が、オーストリア軍へ通報し、トルコ軍から街を救ったのでした。このことを記念して、トルコ国旗にある三日月をかたどった形のパンを、ウイーンのパン職人たちが焼いたことがはじまりで、クロワッサンの原型だといわれています。
 そのクロワッサンが、フランスに伝わったのは1770年、オーストリアの皇女で後のフランス国王ルイ16世に嫁いだマリー・アントワネットが、オーストリアのパン職人とともに、フランスに渡り、その製法を伝えたのでした。


「ブリオッシュ」はお菓子?
  三日月のクロワッサンとともに、マリー・アントワネットつながりのパンに「ブリオッシュ」があります。
  「パンがなければお菓子を食べればいいじゃないの」とは、マリー・アントワネットのいい放ったことば。彼女がお菓子といっていたのは、実はブリオッシュのことなのです。
 ブリオッシュがなぜ菓子?それは、パンの生地に秘密があります。ブリオッシュの生地には、たくさんのバターを使用していることから、お菓子の領域にも入るようです。実際、お菓子屋でも、パン屋でも取り扱いがあったようです。マリー・アントワネットがフランスに渡った頃、お菓子として伝えられ、フランスに渡ってから改良され、現在のブリオッシュになりました。
 ところはかわって、イタリアのシチリア州では、ブリオッシュに数種のジェラートを挟んだ「ブリオッシュ・コン・ジェラート」が人気だそうです。使われるブリオッシュは、普通のものよりは、少しかためで、甘い甘~いジェラートの味をおさえてくれる噛み応えのあるデザートなのだそうです。


「デニッシュ・ペストリー」とは
 デンマークのパンを意味する「デニッシュ・ペストリー」は、フランス語では「ガトー・ダノワ」(デンマーク風の菓子)、ドイツ語では「デニッシャー・プルンダー」(デンマークのパン)と呼ばれ、デンマーク由来と思われがちですが、実はオーストリアのウィーンで発祥して、デンマークに伝えられ現在のようなパンの形になったのです。ややこしいですが、デンマークでは「ヴィエナブロー」(ウィーンのパン)と呼ばれ、オーストリアでは「コペンハーゲナー」と呼ばれています。
 デニッシュ・ペストリーは、イーストの入ったパイ生地をさまざまな形につくって、酸味のある果物やドライフルーツ、ジャム、マロンやチョコレートのペーストなどの甘口の素材から、ソーセージ、ベーコン、野菜を加えた辛口の素材を生地の上にのせたり、包んだりして焼いたものがあります。


失敗からできた「クイニ―アマン」
 フランスは、ブルターニュ地方の伝統菓子「クイニーアマン(Kouign-aman)」は、少し前に日本でもはやりましたが、その名前はブルターニュ地方の古いことばで、お菓子をさす「クイニー」と、バターをさす「アマン」が結びついたものです。
 そして、このお菓子は、失敗からできた偶然の成果でした。とある港町のパン屋のおかみさんが、パン生地の切れ端の上に、うっかりバターをのせたまま放置して、バターを溶かしてしまいました。おかみさんは生地とおいしいバターをムダにしたくはなかったので生地を一生懸命くり返し折り、のして砂糖を加え生地を焼いたところ、おいしいクイニーアマンができあがったのです。「失敗は成功の母」おいしいお菓子をもたらしてくれました。
 クイニーアマンは、バターとグラニュー糖をたっぷりイースト生地に折り込んで焼き、さらに表面にキャラメルをコーティングして焼くので、噛むとカリッとする軽い食感がたまりません。


思い出の「ミートパイ」
 
忘れられないミートパイの思い出は、1970年代、ところは花の銀座の真ん中にあるソニープラザ地下に、ユーハイムの出店だったはずの「ソーダファンテン」というお店に置いてあったのが、軽く温めたミートパイだったのです。お店で買って、家で温めるという考え方もありましたが、そこでいただくミートパイは、絶妙な温度で温められていて、パイは生地がたっていて、オトナの味がしたものでした。たいがい2つは、いただいておりました。懐かしい青春の味です。

(食文家)

参考文献
名前が語るお菓子の歴史 ニナ・バルビエ/エマニュエル・ペレ 白水社
イタリアの地方菓子 須山雄子 料理王国社

株式会社アンデルセン「ブレッドストーリー」
http://www.andersen.co.jp/others/bstory

山崎製パン株式会社「パンの来た道」
http://www.yamazakipan.co.jp/special/history/index.html


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