小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「そうめん」と「ひやむぎ」

ひらの あさか

元禄に書かれた「そうめん」のお作法
 江戸中期、そうめんの食べ方についての記述が、元禄5年(1692年)女性向けの絵つきの教訓本『女重宝記(おんなちょうほうき)』にあります。その内容は、次のようなものでした。
 一、索麺(そうめん)くふ事 汁をおきながら一はし二箸そうめんを椀よりすくひ入て、さて汁をとりあげてくふべし。そのゝちは汁を手にもちすくひ入、くひてもくるしからず。汁をかへ候はゞ、はじめはいくたびも汁を下にをきすくひ入、とり上くふべし。饂飩(うどん)もくひやうおなじ事也。蕎麦切など男のやうに、汁をかけくふ事有べからず。索麺のごとくくふべし。
 要約すると、そうめんを食べるときは、汁の器を置いてそうめんをひと箸、ふた箸すくって汁の中に入れ、器を取り上げて、つまりは口もとまで近づけて食べればよい。うどんも同じような食べ方で。男の人が食べるような、そばに汁をかけて食べることがないように。これはいわゆる「ぶっかけ」といって、そばの上に汁をぶっかけ食べるので、その名があり、あまり品がよくない大雑把な食べものと考えられていました。
 それにしても、懇切丁寧な教訓がこの時代にあったのは、驚きです。


江戸川柳に歌われた贈答「そうめん」
 江戸川柳、誹風『柳多留(やなぎだる)』にそうめんに関する句は多くありますが、まずは、今も昔も変わらない夏の贈り物として、そうめんを用いているものに「三輪素麺を箱へ入れ暑気見舞」(一一八・39)、字のごとく三輪そうめんを箱に包んで暑気見舞いにしているものもあれば、「そうめんをくばるをみれば御用也」(同柳多留十二・18)、「素麺にたのんましやうで御用来る」(川傍柳二・29)酒屋の小僧さんがそうめんを配っていると思ったら、御用聞きか。夏のご挨拶をしつつ、御用聞き、つまり注文を取りにきているという、ちゃっかりとした商売が見え隠れしていながら、なんとも季節を感じさせる句になっているものがあります。


文献にあらわれた「ひやむぎ」
 室町時代中期、文明12(1480)年、一条兼良が書いたといわれている往来物(教科書)に『尺素往来(せきそおうらい)』がありますがその中に、「索麺は熱蒸、截麦(きりむぎ)は冷濯(ひやしあらい)」とあり、そうめんは蒸して熱いうちに食べる。截麦は冷たくして食べるものと書かれています。
 「截」とは、「切ってつくる」つくり方を意味し、「冷」は「冷濯」など、「冷たくして食べる」食べ方をあらわしていて、うどんとは区別されています。
 また、乾めんの項(「製粉振興」2004.7)でもふれましたが、16世紀頃、宮中に仕える女官たちの独特の言いまわしである女房詞を記した書物『大上臈御名之事(おおじょうろうおんなのこと)』の中に「そば あをい。そばのかゆ うすずみ。さうめん ぞろ。ひやむぎ つめたいぞろ。きりむぎ きりぞろ。」とあり、そうめんのことを「ぞろ」といい、「切り麦」つまり、極細のうどんを「きりぞろ」、ひやむぎのことは「つめたいぞろ」と呼び、きりぞろをゆでて冷やしたものをいいました。
   


提供:兵庫県手延素麺協同組合

提供:兵庫県手延素麺協同組合
   
夏の到来をつげる味
 夏になると、行きつけの蕎麦屋の店頭では「ひやむぎ始めました」の張り紙を見かけます。これを見るにつけ、涼しげな桶に入った、ひやむぎを思い出し、ほかのものとは、少しお値段の張る「ひやむぎ」にひきつけられてしまいます。
 最近店頭では「そうめん」を多くみかけますが、その昔は、夏といえば家で食べるのは「ひやむぎ」。20年以上前頃は、人気のひやむぎの中には、ピンクや緑色をしたひやむぎが隠れていて、ゆで上がったものをしっかり流水で洗って、ぬめりをとり、氷水にひたしてから、ガラスの大きな器にうつすとそれからは、色のついためんを競い合って食べたものです。
  現在、ひやむぎとそうめんを分けるのは、面の太さによる違いです。JASの品質表示基準で直径1.3mm以上1.7mm未満、短径1.0mm以上1.7mm未満に成形したものを「ひやむぎ」。長径および短径を1.3 mm未満に成型したものを「そうめん」といいます。


「そうめん」と「ひやむぎ」のレシピ

 「高菜と蒸し鶏のかけひやむぎ」高菜漬けの細かく切ったものは、にんにくみじん切りと、鷹の爪細切りとともにごま油で炒めて粗熱を取る。鶏むね肉は、フォークで何ヵ所か刺してから、塩と酒ふってラップフィルムをかけて電子レンジで加熱し、熱いうちに細くさく。これも粗熱をとって高菜とともに冷蔵庫で冷やす。ひやむぎは、たっぷりの湯でゆでたあと、氷水でしめて水気をとり、上に蒸し鶏、高菜漬け、長ねぎのみじん切りをのせ冷やしためんつゆをかけて、かき混ぜながらいただく。
  「卵とトマトのそうめん汁」なべにかつおでとっただし汁、本みりん、うすくちしょうゆを合わせたつゆを煮立て、トマトの乱切りに溶いた卵を入れ、ゆで上げたそうめんは冷水でよく洗ってから、氷でしめてトマトと卵の汁をかけ、みょうがのみじん切りを添える。つゆを冷やして食べる「冷そうめん」もよい。

(食文家)

参考文献
蕎麦屋の系図 岩﨑信也 光文社
江戸川柳飲食事典 渡辺信一郎 東京堂出版
つるつる物語 伊藤 汎 築地書館

(社)日本麺類業団体連合会ホームページ
http://www.nichimen.or.jp/zatsugaku/




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