小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「ベーグル」

ひらの あさか

「ユダヤ人のパン」
 17世紀後半、オスマン・トルコ軍に包囲されたウィーンは、援軍の到着によって戦いに勝利しました。この援軍であったポーランドの王様にお礼として献上されたのが、ウィーンの名もないユダヤ人のパン職人が焼いたかたいパンでした。
 そのパンは、ポーランド王様の好んだ乗馬にちなんで、馬の鐙(あぶみ)をかたどったものでした。ドイツ語で「buegel(ビューゲル)」つまり馬の鐙を意味する「ベーグル」。
 諸説ありますが、これが「ベーグル」の発祥だといわれています。
 ベーグルの基本的なつくり方は、小麦粉生地をこねたあとに、形を整え、ゆでてから焼くという工程です。これによって、独特の噛みごたえと、ずっしりと重い中身をもっています。
 16世紀頃のいい伝えによると、ベーグルは「終わることのない人生の輪」ということばを意味していることから、安産のお守りとして妊婦に贈られたり、その生地のかたさから赤ん坊の歯がため「歯が丈夫になるように」噛ませたともいわれています。
 その後、19世紀後半に東ヨーロッパ各国(ポーランド、ロシア、ドイツ、ルーマニアなど)から、ユダヤ系移民が多く移り住んだニューヨークには「コーシャ(Kosher)つまり、ヘブライ語で「ふさわしい」とか「適正な」を意味する、ユダヤ教の戒律にのっとった処理をされた食材を扱った店「デリカテッセン」が数多く出現します。ベーグルは、この「コーシャ」の代表的な食材のひとつとして栄えてきました。やがてローカロリーの健康食として、ユダヤ教以外の人々の間でもベーグルの人気は高まり、ヘルシーブームにのって、アメリカ全土はもとより、各地に広がっていきました。また、1960年代に冷凍ベーグルが開発されたことによって、広範囲でベーグルが食べられるようになりました。
 近年、日本においても比較的「ローカロリー」で「低脂肪」「ノンコレステロール」と、ヘルシー感覚でおしゃれなベーグルは、人気のパンとなりました。


「ニューヨークのデリカテッセン」
 1970年代後半、初めてニューヨークを訪れた時のこと、友人宅でいただいた朝ごはんは、デリカテッセンで買い揃えたというニシンの酢漬け、甘くないディルピクルス、そしてパストラミを挟んだベーグルでした。相いの手に白ワインでもほしいようなおいしさだったことを記憶しています。
 また、ベーグルを焼いているデリカテッセンでは「ビアリ」といって、ベーグル生地をゆでずに焼いた朝食用のパンもありました。


思い出の「ベーグル」
 数年前、仕事場近くにあったのが、その頃はめずらしかったベーグル専門店でした。
 ここでは、全粒粉を使った生地や、通常の強力粉を使った生地にシナモンとレーズン、チーズ、ウォルナッツ(くるみ)を混ぜ込んだもの、生地にポピーシードや黒ごま、白ごまをのせたものなどがあって、日替わりベーグルとお気に入りのクリームチーズを選んでベーグルに挟んだベーグルサンドが忘れられません。とくにおいしかったのは、ブラックセサミベーグルにクリームチーズサーモンチップをたっぷりぬって挟んだベーグルサンドです。


ベーグルサンドいろいろ
 正統派「サーモンとクリームチーズのベーグルサンド」黒か白ごまのついたセサミベーグルを横半分に切ってトーストし、内側にレモンの絞り汁を少し加え、ホイップしたクリームチーズをよくぬり、スモークサーモン、ケイパーをのせ、スライスオニオン、ディルをのせ、上にたっぷりクリームチーズをぬった片方のベーグルをのせる。
 ちょっとイタリアンな「アンチョビとセミドライトマト・モッツァレラチーズのサンド」アンチョビフィレは小さくちぎっておく。市販のセミドライトマト油漬けを用意し、全粒粉のベーグルは横半分に切ってトーストして上下に、にんにくをこすりつけ、下半分に洗ってちぎったルッコラを敷いて、モッツァレラチーズのうす切り、セミドライトマト、ちぎったアンチョビをのせ、片方のベーグルをのせる。しみ出してくるセミドライトマトの甘ずっぱいオイルエキスとアンチョビがマッチして、たまらなくおいしい。
 ボリュームたっぷり「コンビーフポテトサンド」じゃがいもは皮のままゆでて、熱いうちに皮をむいて、つぶして牛乳少々と塩、コショウをふり、コンビーフをほぐし、これと合わせ、マヨネーズと粒マスタードを少々加える。ガーリック味のベーグルは、横半分に切ってトーストして、ベビーリーフを下半分に敷いて、コンビーフポテトをたっぷり挟んで、上にベーグルをのせいただきます。
 シンプルな「サワークリームとアプリコットジャムサンド」プレーンベーグルは、横半分に切ってトーストします。切り目の両方にサワークリームをぬり、下のベーグルの上にアプリコットジャムをうすくぬって挟みます。
 究極のスイーツベーグルサンドは「いもパフェサンド」まずは、市販のいもようかんを用意します。これをさいの目に切って、生クリームで和え、きな粉を混ぜ込んだベーグルをふたつに切って軽くトーストし、いもパフェをのせ、その上に黒みつをかけ、上にベーグルをのせます。

(食文家)
参考文献
オーヴンからの手紙 明坂英二 青土社
ベーグル・マジック ウォーラー・マーティン&ちづ子 文化出版局
@ベーグル・カフェ    
http://homepage3.nifty.com/bagel/japan/bagelbagel.htm
製粉振興会2000年コナちゃんカレンダー
「世界の味・小麦粉」4月ベーグル 平野朝香


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。