小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

『お好み焼き』の仲間・関東編

ひらの あさか

江戸川柳の「文字焼」
 ご存じ江戸川柳『俳風柳多留』には、何点か「文字焼」に関するものが出てきます。
 「文字焼屋杓子( しゃくし)で飯をくっている(一二四105)」文字焼屋は、毎日杓子を使って商売している。そんなに簡単にできるならばということで、うちでためしにつくってみると「焙烙( ほうろく)で文字焼をして大困り(一三九9)」焙烙に生地がくっついてしまい、往生しているようすがうかがえます。また「杓子程筆では書けぬ文字焼屋(九四28)」杓子では文字を書くように生地をうまく焼けるのに、筆ではさっぱり書けない。などと皮肉たっぷりに表現しています。

屋台の味「どんどん焼き」
 昭和6(1931)年頃に東京で評判となった「どんどん焼き」は、太鼓を打ち鳴らしながらやってくる屋台、また縁日の味でした。つくるそばからどんどん売れるところから、その名があるという説もあるようです。
 また、池田弥三郎さんの著書「私の食物誌」には<屋台の、子ども相手の、二銭三銭五銭といったどんどん焼きが、出世して、いつしか「お好み焼き」になった>とあるように、現在の「お好み焼き」の基礎となる食べ物だったようです。今は東北の一部にその名を残す屋台の食べ物があります。
 山形の「どんどん焼き」は、小麦粉に水を加えた生地に揚げ玉を加え、長ねぎと紅しょうがのみじん切りを生地と混ぜて、鉄板またはフライパンにサラダ油をひいて、生地を薄くのばし、輪切りにした魚肉ソーセージを端にのせ、紅しょうがも飾り用でのせ、裏返してから魚肉ソーセージ面を上にして、割り箸にくるくると巻きつけて表面にお好み焼きソースを塗り、青のりをかける、スティック状のスナックです。
 仙台の「どんどん焼き」は、小麦粉に水を加えた生地を薄くまるくクレープ状にのばして焼き、その上に揚げ玉、長ねぎ、桜えび、紅しょうがなどをのせて焼き、片面が焼けたら裏に返し、火が通ったところで、半分に折ってお好み焼きソース、またはしょうゆを塗ればできあがりです。

お店の味「もんじゃ」「お好み焼き」
  何といっても強烈だったのが、浅草の「お好み道場」です。のっけから「今日がこの店は初めて?」とご店主に聞かれ、すなおに初めてと伝えると、まず「もんじゃ」のつくり方を伝授いただきました。こちらは、月島で経験を積み(それほど大仰な問題ではありませんが)もちろん、つくり方は知っていましたが、同席した友人は東京にいながら、山の手育ちで下町庶民の食べ物には縁のない人たちでしたので、最初は彼らに「もんじゃ」の工程を経験していただくべく生地の入った器を渡し、つくってもらいました。まずは、どぼっと流れてしまいそうな生地に「ストップ」の声がかかり、ご店主自らが生地をとどめ、コテで芸術的に薄くのばされた「せんべい」をつくり、続いてビギナーである友人の手をとり、コテの按配を伝授。見事まではいかないものの、薄く長くのばした「せんべい」を感動しつついただく。次いで、「もんじゃ」のキャベツほか具材のみを鉄板に運び、焼けたところで土手をつくってゆき、小麦粉と水ベースの生地に自分でソースを加え味をつけてから、中央にジュワーっと流し込み、ご指示通りに軽く混ぜて、食べたい、でもダメといわれ待つこと少しでしたが、永遠とも思われるこの待ち時間にたえ、OKサインが出てやっとのこと食べることを許されたのでした。
 そして、もっともハードだったのが「お好み焼き」でした。生地は混ぜ過ぎない、厚みを残して生地を鉄板に流し、コテで押さえつけない、時間は片面確か3〜2分で2回半裏返しという工程でした。もちろんこの間は、鬼軍曹のような店主がストップウォッチを片手に時を告げ、指導してくれるというものでした。テーブルの上の麦酒はぬるくなっていましたが「お好み焼き」をおいしくいただくためには通らなければならない関門でした。
 これとまるで正反対だったのが、人形町の路地裏に静かに佇むお店。ほかではあまり味わえない具材は、三つ葉、かまぼこ、小柱を入れたもの。あさりと長ねぎを合わせたもの。牛そぼろにキャベツ、卵の組み合わせにいずれも小麦粉ベースの生地を具材に合わせて焼くものです。ソースをたっぷりつけていただくのではなく、しょうゆの似合うあっさりとした「お好み焼き」です。甘党にうれしい、「あんこ巻き」「あんず巻き」は、ほんのりやさしいこころに残る味です。

ベスト・オブ「お好み焼き」
 シンプルでしかも、あっさりとした「お好み焼き」を紹介します。
 まずは、生地づくり。長芋は、皮をむいて摺り鉢で摺る。これにだし汁、卵を加え、小麦粉と合わせる。ここへ、揚げ玉、キャベツを粗めに刻んだものを入れたものを基本ベースに(1)切りいかに、長ねぎ、紅しょうがを加え、両面をつぶさずにふんわりと焼く。基本ベース生地に(2)牛豚合いびき肉、桜えび、長ねぎの青い部分を細かく刻みこちらもふんわりと焼く。(3)にらは4cm、長ねぎは小口切りにしてベース生地と合わせる。豚バラ肉は2枚くらいを軽く焼いて、ベース生地を流し、好みで紅しょうがをのせ、両面をふっくら焼く。いずれも好みでしょうゆかソースをかけ、青のり、おかかをかける。

(食文家)
参考文献    

江戸川柳飲食事典
私の食物誌
たべもの噺

渡辺信一郎
池田弥三郎
鈴木晋一
東京堂出版
新潮社
小学館


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の
項目に入っていますので、ご覧ください。