小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「うどん」夏の陣
                       ひらの あさか
「料理物語」のうどん
 
江戸時代初期寛永20年(1643年)に刊行された料理書「料理物語」は、わが国で最初の本格的な料理書です。その第17後段の部に、うどんの項があります。
 つくり方をひも解くと「粉をどれほど打つといっても、塩加減は夏は塩一升に水三升、冬は塩一升に水五升の割合で入れる。この塩水でちょうどいい加減にこね、臼でよくつき、よくつけたら、ひびが出ないようによく丸めてお櫃に入れ、布を湿らせてふたをして、(生地が)かぜをひかないようにしておく。これをひとつずつ取り出して打てばよい。ゆで加減は食べてみればよい。汁は煮貫き、または垂れ味噌がよい。胡椒、梅などを添えるとよい」とあります。
 煮貫き、垂れ味噌は、しょうゆがまだ庶民の味になる前の調味料で「垂れ味噌」とは、味噌を数倍の水でのばして煮出したのち、布袋に入れ垂れてきた液を集めたものです。同じように味噌を数倍の水でのばしたあとに、削りかつおを加えて煮立て、何度か漉したものが「煮貫き」です。いま考えてみればかなり手のかかった調味料を用いていたことがわかります。


はんげしょう
半夏生には「うどん」
 半夏生は、夏至や大暑などの二十四節気、七夕などの五節句以外の雑説のひとつですが、
この日は「うどんの日」と呼ばれています。
 その昔、半夏生の日に農家の人が、田植えや小麦の収穫など農作業を手伝ってくれた人たちに、その年にとれた小麦でうどんをつくってふるまったということが、その由来といわれています。
 また、関西地方では「たこ」を食べる習慣があります。やはり田植えに関して、稲がたこの足のように吸いつくように、しっかりと大地に根をはり、豊作になるようにとの願いからたこを食べたという説があります。


土用の「う」の字
 「土用の丑の日」といえば、梅雨が終わる頃でもあり、1年の中でもいちばん暑く、体調も変化する時期なので、真夏に向かって栄養のあるものを食べて暑さをしのぎます。
食べものの中でもこの時期には「うなぎ」を浮かべる方が多いと思いますが、実はうなぎのほかにも丑の「う」の字に合わせて「う」のつくものを食べ、夏に負けないようにする風習があります。
 「う」のつく食べ物の例をあげますと、まずは、この時期に出盛りの「瓜」。きゅうり、すいか、とうがんなどの瓜類です。これらの瓜類には利尿作用があり、体内の毒素排出の手助けをし、むくみを防いだり、体内の余分な熱を冷ましてくれたりします。

 「梅干し」は食欲のないこの時期にエネルギー代謝を高めるはたらきもあるので、バテ気味のからだの回復に役立ちます。

 そして、どん尻に控えしは「うどん」。食欲のない時に、つるつるっと食べやすく、しかも消化吸収にすぐれています。梅干しとうどんを一緒に食べれば、最強の夏バテ食になることでしょう。「梅うどん」市販の昆布ベースのめんつゆに、細いうどんを合わせて煮立て、器に移してから、とろろ昆布と梅干しをのせて、青ねぎの小口切りを添えます。



「かみなりうどん」とは

 雷というと季節を問わずですが、夏場の雷は農作物や草木に恵みの雨をもたらして、熱い地面を潤してくれます。
 さて本題の「かみなりうどん」ですが、『料理物語』から下ること約
180年の文政年間に刊行された『素人庖丁』3篇(文政3・1820年)に出てくる料理です。
 「かみなりうどん」の名前の由来は、現代訳も多く出版されている豆腐料理とそのつくり方を説明している『豆腐百珍』(天明1782年)に出てくる「雷豆腐」です。ごま油で豆腐を炒めた時に、雷のような大きな音がするのでその名があります。
 つくり方は、木綿豆腐は水気をしっかりと切り、鍋にたっぷりのごま油を熱して、ここへ水気を切った木綿豆腐を手でくずしながら入れて炒める。しょうゆを加えて味を調えて、火を止める前にねぎを入れ、大根おろし、わさびをせん切りにして添える。汁をはったうどんの上に「雷豆腐」をのせたものが「かみなりうどん」です。さすがに江戸もこの頃になるとしっかり調味料には、しょうゆ名がのっていました。


夏うどん2種
 「冷やしおろしきつね」油揚げは、両面を焼いて軽くしょうゆをふり、食べやすい大きさに切り粗熱をとる。半生うどんはゆでて氷水に放ち、水気を切る。深めの器にうどんをよそい、冷やしためんつゆをかけ、油揚げ、大根おろし、小口切りした青ねぎをのせ、すだちをたっぷり絞り、よく混ぜながらいただく。
 
「鶏肉の梅風味うどん」鶏むね肉は、皮の部分にフォークで穴をあけて、耐熱皿にのせ清酒をよくまぶして、電子レンジで加熱して粗熱がとれたら手でこまかくさく。梅干しは種を除いて、かつおだしベースのだしでのばし、めんつゆを加えてよく冷やしておく。きゅうりとみょうがは細切りに、細めのうどん(乾めん)はゆでて氷水に放ち、よくしめてから水気をよく切ってからガラス器などに移して、きゅうり、鶏むね肉、みょうがをのせて、冷やしたつゆをかけ、好みで白ごまをふる。梅の入ったつゆが疲れた胃袋を休ませてくれるやさしい味です。
(食文家)
参考文献    

江戸料理読本
豆腐百珍
原本現代訳『料理物語』

松下幸子
福田浩ほか
平野雅章
柴田書店
新潮社
小学館


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