小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

から揚げ」の仲間たち
                       ひらの あさか
「から揚げ」とは?
 「から揚げ」は本来、魚介類や肉類などの素材に何もつけずに、そのまま揚げたもの、小麦粉や片栗粉を薄くまぶして揚げたり、「鶏のから揚げ」のように、しょうゆや酒などで下味をつけたものに、粉をまぶして揚げたものなどもこれに含まれており、漢字では「空揚げ」「唐揚げ」などと表わします。
 「から揚げ」その名が日本の書物に登場するのは『普茶(ふちゃ)料理抄』(1772)といわれていますが、普茶料理は中国式の精進料理だけに、現在の「から揚げ」とは違い、豆腐を小さく切って揚げたものにしょうゆ、酒などの調味料を使い、煮た物だったようです。
 また『料理通』三編(1829)の卓袱料理大菜の項に「唐揚(とうあげ)」の文字は、確かに記されていますが、残念ながら調理法の詳細についてはふれていません。
 中国料理の「から揚げ」は「炸子鶏(ヂャーヅヂー)」鶏肉に卵、調味料、片栗粉で下味をつけ、薄力粉、片栗粉を合わせ衣をつけてからっと揚げたもので、これにスープに調味料、レモン果汁を加えたあんをかけたものが「檸檬鶏片(ニンモンヂーピェン)」。しょうゆ、甘酢、おろししょうが、ねぎのみじん切り、ごま油をあわせたソースを揚げ立ての鶏の唐揚げにかけた「油淋鶏(ユーリンヂー)」など、どちらかというと揚げてから、あんやたれをかけていただく「あとかけ」派が多くみられます。


業平の歌に詠まれた!?
 「千早ぶる 神代もきかず龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」これは、在原業平のあまりにも有名な歌です。
 昔から紅葉の名所として知られている龍田川ですが、奈良県の北西部を流れる生駒川から南下して大和川に合流するまでの流れをいいます。この龍田川の流れと、水面に散った紅葉が流れていくようすは古くから「龍田川文様」として、陶磁器やお椀などに描かれています。
 さて本題の料理の「龍(竜)田揚げ
」ですが、本来は肉や魚などの素材を酒としょうゆを合わせた調味料にくぐらせ、小麦粉をつけて油で揚げたものです。材料にからめたしょうゆの色が、揚げることによって、赤褐色に色づいていくようすを紅葉に見立て、名所である龍田川から、その名をいただいたといいます。
 「竜田揚げ」と「から揚げ」の違いについては、なななか線引きは難しいようです。どちらかというと香りの強い素材を使う場合は下味をつけた「竜田揚げ」が。淡白な味わいで素材そのものの味をいかして使いたい場合は「から揚げ」など、素材の特徴に合わせて使い分けてみてはいかがでしょうか。


から揚げ、竜田揚げ3種
 
「鶏レバーから揚げ」にんにくはすりおろし、ねぎはみじん切り、これにしょうゆと甘酢を合わせてたれをつくる。鶏レバーは水気をふいて小麦粉と片栗粉を合わせたものをまぶして油で揚げ、揚げ立てにたれをかけて味をしみこませ、好みで香菜を上に散らす。
 「さばの竜田揚げ」さばは骨を注意してとり除き、ひと口大に切る。しょうゆ、酒、みりん、おろししょうがを合わせてさばにからめる。さばの汁気をきって薄力粉、片栗粉を合わせ、まぶして揚げ、揚げ立てに好みで甘酢をかけ、白髪ねぎを上にのせて熱いうちにいただく。
 「鶏マヨ揚げ」鶏むね肉は食べやすい大きさに切り、塩とこしょうをふっておく。マヨネーズとみりん、しょうゆを合わせて鶏肉にもみこみ少し置く。これに薄力粉、片栗粉を合わせたものを材料にまぶして揚げ、青ねぎの小口切りを散らす。


英国製「から揚げ」といえば
 日本でもよく知られている「フィッシュ・アンド・チップス」は、ご存じのように「フィッシュ」たらやおひょうなどの白身魚に、ビールを加えた独特の衣をつけて揚げたものと、「チップス」じゃがいもをからっと揚げたフレンチ・フライド・ポテトを添えたものです。イギリスでは「テイクアウェイ(お持ち帰り)」の食べ物で、いってみればファーストフードの元祖的な存在です。
 その歴史は、イギリスでじゃがいもの普及と魚の供給量が安定し、鉄道での流通が確立された19世紀半ば以降といわれています。
 基本的な作り方は、まず衣はボウルに薄力粉をふるい、塩を加えて、ビールと溶き卵を合わせ、なめらかになるまで泡立て器でよく混ぜる。白身魚は食べやすい大きさに切って、水気をふきとり、塩とこしょうをふっておく。白身魚に薄力粉をうっすらとつけてから、衣をつけて揚げる。じゃがいもは、皮をむいてくし切りにしてこんがりと色がつくまで揚げる。素材自体に味がついてないので、本国ではモルトビネガー(麦芽酢)、塩をかけて食べます。
 日本で少し前から増えつつある「アイリッシュパブ」でのこと、黒ビールを飲みつつ、かの「フィッシュ・アンド・チップス」ができあがるのを待っていましたが、大きいサイズの黒ビールをふたつばかり飲んでも一向に料理が出てくる気配がなく焦がれていると、3杯目にさしかかってから出てきた「フィッシュ・アンド・チップス」は、まるで子供の顔ほどもある大きな揚げ物でした。くだんのモルトビネガーをじゃばじゃばかけていただきましたが、なかなかいい味をしていました。しかし、ひとりで食べるには、あまりにつらい量だったことは忘れられません。



(食文家)
参考文献    

日本料理技術選集「料理通」
南蛮から来た食文化
料理名由来考
世界の食文化Pイギリス

阿部孤柳 解説   柴田書店
江後迪子       弦書房
志の島忠・浪川寛治 三一書房
川北 稔       農文協



*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。