小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

温かい「種物」東西
                       ひらの あさか
「種物」とは
 
そば屋で「種物」というと、そば、うどんの上にとりどりの具材をあしらったものです。
 江戸の頃からそば屋の「お品書き」にのぼっているものは「あんかけ」「しっぽく」「霰(あられ)」「天ぷら」「花巻」「玉子とじ」「鴨南蛮」「おかめ」などがあります。


郷愁の「カレー南蛮」
 「南蛮」というと、ポルトガルなど南欧諸国経由で渡来した食材「ねぎ」や「唐辛子」などを指しますが、そば屋で「南蛮」とは、ねぎを使った種物をいいます。一説には、渡来した人びとがねぎをよく食べたところから、南蛮人が好む食材ねぎを「南蛮」と呼ぶようになったとか。
 また、江戸時代に現在の大阪難波が「ねぎ」の一大生産地だったため、今でも関西方面のそば屋、うどん屋のお品書きには「なんば」と呼ばれるねぎを使った種物が存在します。
 さて本題の「カレー南蛮」は明治40年代、東京のそば屋主人の角田酉之助さんが、関西で「江戸前のそば」つくりたいと大阪に移り住み、大阪谷町で「東京そば」という名の店を開店。しかし、関西では東京風のそばはなかなか受け入れられず営業不振が続いていたという。そんな時に発案したのが、その頃盛んになりつつあった洋食の味と、そばをかけ合わせた「カレー南蛮」でした。これが浪花っ子の評判を呼び、この成果を東京へ持って帰り、関東でも「カレー南蛮」を売り出しましたが、意外に保守的な東京では苦戦を強いられ、大正3~4年頃にやっと認知されるようになり、そば屋のお品書きに「カレー南蛮」の文字が現れる。
 現在は、通常「カレー南蛮(そば)」は長ねぎを用い、「カレーうどん」は玉ねぎが使われることが多いようですが、お店によって若干考え方が異なるようです。


元祖は京都「にしんそば」
 関東でも味わえる「にしんそば」は、明治15年(1882)、京都のそば屋「松葉」の二代目が発案したといわれています。
 
材料に使われる「身欠きにしん」は、保存食で、もともとは北前船で京都へ運ばれたもので、鮮魚が手に入らなかった時代に「棒だら」とならんで「身欠きにしん」は貴重なたんぱく源として好まれたようです。
 調理にたいへん手間がかかる食材にもかかわらず、京都の人びとは乾燥した「身欠きにしん」を米のとぎ汁でもどし、ていねいにやわらかくなるまで甘辛く煮て食べました。そんな京都の日常のおかずをヒントにつくられたのが、「にしんそば」です。煮上がったにしんを丼の底に入れ、その上にそばを加えて汁を張る。こうすることで、にしんからしみ出る味とつゆが相まって、絶妙のバランスとなるのです。
 京都の暮、年越しそばに欠かせないのが「にしんそば」。その昔、小雪舞い散る大晦日、凍てつく四条通りを歩いた時にいただいた「にしんそば」の味は忘れられません。


不思議な「コロッケそば」
 
「カレー南蛮」以上に洋食と純和風のそばとの融合なのが「コロッケそば」です。
 
明治31年(1898)、斉藤緑雨の随筆「ひかえ帳」に「コロケット蕎麦といへるを、花屋敷吉田にて出したり」とコロッケそばを紹介しています。花屋敷とは、現在の東京日本橋浜町あたりにあった吉田というそば屋のことで、残念ながらこの店は、第二次大戦中疎開したまま廃業となりましたが、銀座のそば屋「よし田」がこの流れをついで現在も「コロッケそば」をいただくことができます。コロッケといっても、よし田の「コロッケそば」のコロッケは、ベースは鶏ひき肉と卵、山芋を合わせて練り込み、低温の油で揚げたもので、温かいそばの上に揚げたコロッケ、たっぷりの長ねぎをのせたもので、御酒のアテにもぴったりな、呑み助にもうれしいそばなのです。


東の「玉子とじ」西の「けいらん」
 「玉子とじ」は江戸の末期にはあったお品書きです。その頃の文献には、二八そばが一六文に対して「玉子とじ」は何と三二文で、「天ぷらそば」と同じ値段だったようです。いかにこの時代に卵が貴重品だったかをあらわしています。
 基本的なつくり方は、かけそばのつゆは温めて、卵を片口に割り入れて溶く、この時あまりむやみに混ぜ合わせることのないようにする。つゆが沸騰してきたら、なべを揺らしながら片口の溶き卵を糸のように注ぎ入れ、半熟のまま火からおろす。ゆであげたそばを丼に移し、さっとなべのつゆと卵を形を崩さないようにふわりと丼に注いで焼きのりを添える。そばの上に焼きのりを敷くこともあるようです。
 いっぽう「けいらん」は、関西の味です。
 こちらは主にうどんを用いる。つゆを煮立て、水で溶いた葛粉を加えてとろみをつける。ゆであげたうどんは温めた丼によそう。とろみのついたつゆに溶いた卵2個あまりを加えてふんわり半熟のまま火からおろして、うどんにかけ、すりおろしたしょうがを上にのせる。一面を黄身色におおわれたうどんをやけどをしないよう、かといって冷めるまで待たずに熱いうちにいただく。このタイプの「あんかけ」は具材の持ち味をのがしません。また、不思議としょうがとの相性がよく、寒い冬には体の芯から温まり、風邪の時にもおすすめです。




(食文家)
参考文献    

蕎麦の事典
蕎麦の世界
そば・うどんの百味百選
カレーライスの誕生

新島 繁        柴田書店
新島 繁・薩摩夘一   柴田書房
㈳日本麺類業団体連合会 柴田書房
小菅桂子        講談社



*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。