小麦・小麦粉に係る話題

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「ビスケット」と「クッキー」
                       ひらの あさか
「ビスケット」とは?

 ビスケットの語源は、ラテン語のビスコクトゥム・パネム(biscotum panem)。これがのちにフランス語のビスキュイ(biscuit)bisはラテン語の「2」、cuitはフランス語で焼くという意味を表わし、「2度焼かれたパン」という名の通り、最初は保存食としてつくられた堅いパンでした。よく乾燥させてあり、軽くて保存が利いたので携行食として、また長い航海には欠かせない食料でした。
 日本にビスケットが登場するのは、19世紀半ばのこと。それまで長崎周辺で外国人向けにつくられていたビスケットでしたが、水戸藩がビスケットの「保存に利く食糧」という点に着目し、水戸藩士の蘭方医、柴田方庵が長崎留学中にオランダ人からその製法を教わり、これを手紙にして水戸藩に送ったのが安政2年(1855年)2月28日といわれています。
 この日にちなんで全国ビスケット協会は昭和55年(1980年)から2月28日を「ビスケットの日」と呼ぶようになりました。



クッキーとビスケットの違いとは

 ビスケットとクッキーを細かく区別しているのは、世界中を見ても日本だけのようです。
 その呼び名もいろいろあって、フランスでは前記のように「ビスキュイ」、イギリスでは「ビスケット」、アメリカでは「クッキー」と呼ばれています。全国ビスケット協会によると、日本では、ビスケットを大きく分けてハードビスケットとソフトビスケットの2つに分けています。歯ごたえのしっかりとした針穴が特徴なものがハードビスケット。口当たりがさっくりとした柔らかいものをソフトビスケットと呼んでいます。
 ハードビスケットは、比較的グルテンが多い中力粉を使い、砂糖や油脂を控え、水分を多めに、時間をかけて練ることで、グルテンが形成されて腰の強い生地が仕上がります。これを薄く焼いて仕上げます。焼き上がりを割ってみると、全体がきめ細やかです。ガス抜きのために針穴があるのが特徴です。そしてパリッとした歯ざわりがあります。
 ソフトビスケットは、グルテンの少ない薄力粉を使います。砂糖や脂肪を多く、水分を少なめにして、短時間で練って生地を焼き上げます。柔らかく、サクサクした歯ざわりで、クッキーなどもこれに含まれます。



各国のクッキー、ビスケット

 アメリカでは、ビスケットやクッキーのようなサクサクしたお菓子はすべてクッキーと呼び、ビスケットは柔らかいパンのようなものをいいます。
 もっともポピュラーなクッキーは「チョコチップクッキー」。そのレシピが誕生したのは偶然のことでした。1930年、マサチューセッツ州の小さな町で夫とともにホテルを開業したルース・ウェークフィールドという女性が、ココア風味のクッキーをつくるため、棒状のチョコレートをクッキー生地に刻んで入れていたところ、うまくチョコレートが溶けずに粒々のチョコレートが残ってしまいました。この粒々チョコが入ったクッキーが評判を呼んで「チョコチップクッキー」と命名されました。
 イギリスではクッキーと呼ばずに、ほとんどがビスケットの名称で呼ばれています。
 代表的なバタービスケット「ショートブレッド」は、スコットランド生まれで紅茶のおともに最適です。
 ドイツの「レープクーヘン」は、小麦粉にスパイシーな香辛料を加え、はちみつを入れて練り上げたクッキー生地に、さまざまな形の型を使って抜き、細かい模様や文字を入れて焼き上げたものです。おなじみのグリム童話「ヘンゼルとグレーテル」に出てくるお菓子の家はこのレープクーヘンの生地を使ってつくられ、チョコレートや飴を使って飾りつけをしたものです。
 フランスでビスキュイの仲間に入る「サブレ」は、日本でいうクッキーのこと。サブレは、ビスキュイに比べて、小麦粉に対してバターまたは、ショートニングの量が多く、さっくりした食感を持つものをいいます。もともとは、フランスの町の名前にちなんで、そこでつくられたクッキーをサブレと呼んだそうです。また、サブレとは、フランス語で「砂」という意味を表わし、サクッとした歯ごたえがあり、「砂」という名の通り、口の中に含むと砂のようにホロリと崩れていく食感が特徴です。



日本生まれの「サブレ」といえば

 日本でサブレといえば、やはり鎌倉の「鳩サブレー」は外せません。
 明治時代末期の発売当初には、このサブレーは「鳩三郎」とも呼ばれていました。その名は、この菓子を発案した初代店主がまだなじみの少ない「サブレー」という言葉を「三郎」と「サブレー」こついは語呂がいい、と発想したところからはじまるようで、外来語の「サブレー」よりも「鳩三郎」の方が通りがよかったそうです。
 鳩の形となったのは、初代が鶴岡八幡宮を崇敬していて、本宮の掲額の八の字が鳩の九と向き合わせであり、八幡さまの境内にたくさんいる鳩が子どもたちに親しまれているところから、かねてから「鳩」をモチーフに何かをつくろうと考えていたところ、鳩・サブレー・三郎の発想から生まれたのが「鳩サブレー」で現在に至っても、愛される鎌倉銘菓なのです。ミルクティーや牛乳などと一緒にいただく「鳩サブレー」は格別においしい。

 
  (食文家)
参考文献
万国お菓子物語 吉田菊次郎 晶文社
古きよきアメリカンスイーツ 岡部史 平凡社
(社)全国ビスケット協会ホームページ
豊島屋ホームページ


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。