小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

『ワンタン大好き』
                       ひらの あさか

まるで雲を呑むような

 中国の華北で生まれたワンタンは、北京語では「餛飩(ホントゥン)」。その字は食扁ですが、さんずいにかえると「混沌」になります。読み方は同じですが、文字が示すように何だかわからないものというような意味になります。
 また、日本に伝わった「雲呑(ワンタン)」は、広東から伝わったものだといわれています。その昔、広東から北京に留学したり、難しい官吏(かんり)いわゆる公務員の試験である中国でいえば、科挙(かきょ)を受けるために北京へやってきた人たちが、雲を呑むような気合いでワンタンを食べて縁起をかついだとか。定かではありませんが、そういう人たちによって広東へとワンタンが伝わり、そこから日本に伝わり、おなじみの「ワンタン麺」へと発展していきます。


ワンタンは冬至の食べ物?
 日本で冬至の食べ物といえば、かぼちゃやあずきを煮物などでいただく日ですが、中国ではワンタンを食べる習慣があるようです。
 清代の『燕京歳時記(北京年中行事記)』という書物の冬至の項目に「冬至には餛飩、夏至には麺」といった記述があり、北京では、冬至にワンタンを食べる習慣があったということが分かります。
 ワンタンは基本的には、小麦粉に水を加え、薄くのばした皮に、少量のひき肉、香味野菜などを挟んでゆでてスープで煮たものです。
 さまざまな点心があるなかで、形が最も小さく、皮がひらひらとして薄く、口に含むとするりとホロホロとすべり落ちていくようなので「雲を呑む」という名がついたのも無理がありません。


思い出のワンタン
 池袋の広東料理店にあった「揚げワンタン」は想像を絶する量でした。小麦粉生地のワンタンの皮に豚ひき肉と香味野菜が少量入っていて、それを揚げて大皿に移し、甘酢あんがかかっていました。一人前なのに見た目は完璧に三人前はありました。どかんと置かれた一升びんの白ワインは量り売りで、飲んだ分だけ自己申告するというものでした。少なくとも一皿でコップ三杯は飲めました。
 皮がいのちの「ワンタンメン」は、かつて本駒込にあった中国料理店にありました。その皮は、まるで雲のようにつかみどころがないほどホロリとやわらかく、少量のひき肉を感じられないほどでした。形としては、まるで金魚のように愛らしく、正調東京ラーメンのようなしょうゆベースの澄んだスープに細いめんとワンタンがふわふわと浮いていました。まさに「雲を呑む」感触の忘れられない味でした。


インスタントのワンタン
 日本初のワンタンメンが発売されたのは、1963年8月。つるっとしたラーメンと、もちもちっとしたワンタンの両方が楽しめる「即席ワンタンメン」を発売したのは、エースコックでした。次いで1965年8月には、日清食品が「ワンタンメン」を、1972年5月にはマルちゃんの東洋水産が、乾燥ワンタンをトレイに並べ、別添の薬味入スープが入った「トレーワンタン」を売り出しました。東洋水産は翌1973年11月にはカップ入りの「ホットワンタン」を発売しています。今は、お昼の定番になっているカップ入りの「ワンタンしょうゆ味」は1993年2月生まれで、コンビニでも必ず見かける愛らしい小さいサイズのカップワンタンです。


ワンタンつれづれ
 何といってもワンタンを手づくりする時に必要なのは、ふわっとした口当たりのワンタンの皮。製麺所で買ったそれは、薄く軽くお湯に浮かべるとまるで羽衣のような皮でした。
 製麺所の皮は、なかなか入手は難しいですが、そんな方々には1950年からワンタンの皮をつくっている「東京ワンタン本舗」の皮がおすすめです。


 「レタスたっぷり汁ワンタン」
 豚ひき肉と長ねぎの青い部分、しょうがのみじん切りを合わせて、オイスターソース、しょうゆを加えて練り、ワンタンの皮に包む。水と市販の鶏ガラスープを使い、酒を加えたスープをつくる。レタスは食べやすい大きさにちぎって、さっとスープにくぐらせる程度に火を通す。ワンタンはゆでて水気をきり、器に移してスープ、レタス、好みで白髪ねぎをのせて、粗びき黒こしょうをふる。レタスはシャリッとした感触が残るくらいがおいしい。


 「サクサクワンタンサラダ」
 長ねぎは白髪ねぎにしておく。四角いワンタンの皮は半分に三角に切る。ベーコンは細かく切って、カリッと炒めておく。ワンタンは、サラダ油で揚げて、白髪ねぎ、ベーコンと合わせて、酢としょうゆを合わせた調味料をかけて好みで七味唐辛子をふって、全体をよくかき混ぜて温かいうちに食べる。


 「ごまだれワンタン」
 豚ひき肉にしょうが、長ねぎのみじん切りを合わせ、ごま油、しょうゆを加えてたねをつくる。ワンタンの皮にたねを挟んで包む。芝麻醤または練りごま白にしょうゆ、酢、砂糖、ラー油、だし汁少々を合わせたごまだれをつくり、ゆで上げたワンタンは汁気をきり、器に移してごまだれをかけて針しょうがをのせる。


 「えびワンタン」
 むきえびは背わたを取って粗く刻む。しょうが、香菜はみじん切りにしてえびと合わせて、うすくちしょうゆ、あれば紹興酒を加えて粘りが出るまでこねて、片栗粉を加えてさらにこね、ワンタンの皮で包む。市販の鶏ガラスープと水としょうゆとぉ合わせて煮立て、ゆで上げたワンタンは汁気をきってから器に移し、スープに浮かべて好みで黒酢をかけ、香菜をたっぷりのせる。
 
  (食文家)
参考文献
「点心の知恵・点心のこころ」中村時子・木村春子  NHK出版
「燕京歳時記」敦崇 著 小野勝年 訳         平凡社


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