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小麦粉のある風景

愛しのバウムクーヘン
                       ひらの あさか

特別な日の贈り物に

 日本で愛され続けているバウムクーヘン。
ドイツ語で木や樹木をさすバウム(Baum)とケーキや焼き菓子を意味するクーヘン(Kuchen)、つまりバウムクーヘンとは「木のケーキ」という名前のお菓子なのです。
 バウムクーヘンは、焼き上がった層が木の年輪を思わせるところから、日本ではおめでたい日の贈答品として好まれ、結婚式や祝い事の引き出物として使われることが多くあります。


バウムクーヘン日本へ
 バウムクーヘンを日本で最初に売り出したのは「ユーハイム」の創始者カール・ユーハイム(Karl Juchheim)です。彼はドイツの菓子職人でしたが、22歳の時に一旗揚げようと当時ドイツの租借地だった中国の青島(チンタオ)で菓子店と喫茶店を兼ねた店を開きました。
 しかし、6年後の1914年に第1次大戦が開戦。その頃の青島は、ドイツと対抗する三国(イギリス、フランス、ロシア)についた日本の進軍によって占領され、多くのドイツ人が捕虜となり、青島にいたカールも強制連行されて日本の地を踏むことになりました。
 広島似島に落ち着いたカールに転機が訪れたのは1919年のこと、広島物産陳列館で開かれた似島収容所俘虜製作品展覧会で、カールがバウムクーヘンを出品。樫の木を芯棒にし、手動でゆっくりまわしながら生地をかけていくというとても手間と時間のかかる製法でバウムクーヘンを焼き上げました。会場を訪れた人々は、そのしっとりとしたおいしさに魅了され、あっという間に売り切れたといいます。これが日本で最初に焼かれたバウムクーヘンです。
 その後の1921年、カールは横浜の山下町でドイツ菓子の店「ユーハイム」を創業しました。当時バウムクーヘンは「ピラミッドケーキ」と呼ばれ、カールはお客様の注文にあわせて、ピラミッドケーキを切り分けて売っていました。しかし、2年後の1923年9月1日に関東大震災が横浜を襲い、この影響により横浜の店を失い、やっとの思いで神戸へ移住。再びカールは神戸の地で「ユーハイム」を開業しました。ドイツの菓子職人カールの店はたちまち評判になり、バウムクーヘンが知れ渡ったといいます。


ほっとバウムクーヘン
 ホットケーキミックスを使ったちょっと手間はかかりますが手づくり「バウムクーヘン」を紹介します。
 無塩バターは電子レンジで加熱して溶かす。ボウルに卵、牛乳、砂糖または、はちみつを合わせて泡だて器でよく混ぜて、ホットケーキミックス、溶かした無塩バターを加えて生地をつくる。卵焼き器にサラダ油を軽くひいて生地を薄く流し入れて全体に広げて、生地にぷつぷつと穴が開いたら、裏返して焼き色がついたら取り出す。残りの生地を同様に入れて伸ばし、生地の上が固まらないうちに取り出した生地をの せて焼き、取り出す。再び生地を伸ばして、重ねた生地をもどしてのせるという作業を繰り返して厚みをつくり、最後に表面に焼き色をつけたら取り出して冷ます。粗熱を取って、少し休ませてから食べやすい大きさに切り分ける。


今どきのバウムクーヘン
 はやりの「バウムクーヘンのブリュレ」はメープルシロップが効いているバウムクーヘンにカリカリとしたキャラメリゼ(焦がし砂糖)がかかっていて、見た目はプリンバウムクーヘンのようです。さすがに一気には食べきれないので、何回かに分けていただきましたが、最初はキャラメリゼ部分がパリッと硬く香ばしい味に、段々とバウムクーヘンにキャラメリゼ部分がしっとりとなじみ、最初の味とは違ったおいしさに変身しました。
 本家ユーハイムでは、究極のバウムクーヘンをふたつ。限りなく和菓子に近い限定「黒豆入りのバウムリンデ」。リンデとは、ドイツ語で「木の皮」を表すものです。卵とバターをリッチに使って重ね焼きしたバウムクーヘン生地の間に、蜜煮にした黒豆が挟まっていて、てっぺんにもたっぷりの黒豆煮を寒天で固めてのせ、通常のバウムクーヘンと違い、四角に切り分けられた、おだやかな味の和風バウムです。このほか、生地に抹茶を加えて一層一層焼いていき、ホワイトチョコレートなどをコーティングしている「抹茶のバウムクーヘン」技術はそのままに、味は和風なテイストのたいへん手間のかかるおいしいひと品です。
 ホレンディッシュ・カカオシュトゥーベは1895年創業のドイツの老舗。こちらの「バウムリンデ」は、マジパンのクリーミーペーストが挟まった薄い層が細やかに重なったバウムクーヘンの上にチョコレートがのったラム酒の効いたオトナのバウムクーヘンです。


思い出のバウムクーヘン
 1960年代頃にまだ高嶺の花だったユーハイムのバウムクーヘンは、四角い缶に入って売られていました。誕生日とクリスマスが近かった師走生まれの私の記憶に残るバースデーケーキは、ユーハイムのバウムクーヘンでした。波形にナイフで削いだ2~3切れの上に、生クリームにグラニュー糖を加えて泡立てたホイップクリームをのせたものでした。当時はことのほかおいしいものでした。


 
  (食文家)
参考文献
ユーハイムグループホームページ
ユーハイム社史


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。