小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

おいしい小麦粉物語1
                       ひらの あさか
 今回は童話や昔読んだ絵本から物語をひもといてみました。イメージする小麦粉のレシピも一緒にお楽しみください。


風にのってやってきた不思議な乳母
メアリー・ポピンズ

 東風が吹く日に、桜町通り十七番地のバンクス一家の家に、じゅうたんみたいに大きなかばんと傘を持って、まるで風にのってきたかのようなメアリー・ポピンズ。
 子どもにいわせると「まるで木のオランダ人形みたい」。痩せっぽちで、手や足が大きく、キラキラとした青い目をした彼女は、バンクス家の子どもたちの世話をするためにやってきました。子どもたちは、その日から魔法のような不思議な光景を目にします。
 空っぽのように見えたかばんの中からは、まっ白なエプロンから、せっけん、歯ブラシ、香水びん、果ては折りたたみのひじ掛けイスから、せき止めのドロップまで今の時代でいえばさながら「ドラえもんのポケット」のように、いろいろな物が出てきたのでした。
 そんなメアリー・ポピンズの物語に登場するのが「ジンジャー・パン(クッキー)」。小麦粉にベーキングパウダー少々、ナツメグ、クローブ、シナモンを合わせたミックススパイスに、ジンジャーパウダー、ブラウンシュガー、はちみつ、卵、バターなどを合わせて、全体が均一にまとまったら生地を休ませ、平らにして星形で抜き、温めたオーブンで焼きます。
 物語の中では「桜町通りを下っていった丘にはしごを地面に立てて、空に立て掛けるようにして、はしごのてっぺんに登ったメアリー・ポピンズがジンジャー・パンの星を、空にはりつけているのでした。星はキラキラと金色に輝き、勢いよく光り出すのでした」。


終の棲家にたどりついた老動物たち
ブレーメンの音楽隊

 長年粉ひき場を重い袋を背負って往復する年老いたロバ。さすがに力尽きて、仕事に支障が出るようになり、飼い主はロバに餌をあげないようにしようと考えるのでした。その気配を感じたロバは、逃げ出してブレーメンへ。そこなら、おかかえの音楽隊になれるかもしれないという期待があったからです。途中でこれまたはたらきすぎてヘトヘトになっている猟犬が道に転がっていましたが、この犬をはじめ、年老いた猫、雄鶏の3匹を誘ったロバはブレーメンへと向かいます。しかし、ブレーメンには1日では行けません。日が暮れたので、森に入って夜を過ごそうとしますが、灯りのついている家を雄鶏が見つけ、皆揃って出かけてみると、そこは泥棒たちの家で、ちょうど夕餉の最中でした。これをねらって泥棒たちを追い払い、ごちそうをいただこうと皆一斉に行動を起こし、動物たちの大きな音に驚いた泥棒たちは、化け物と勘違いして森へ逃げ去りました。が、合点がいかぬ泥棒たちは、使いを出して再び家へ。暗闇の中で猫には引っかかれ、犬にはかまれ、ロバには後ろ足で蹴られ、雄鶏には悲鳴のような鳴き声で叫ばれ、使いの者は一目散に逃げ帰り「あの家には妖婆、怪物がいる!」という報告を聞き、以来、泥棒たちは家に戻ってきませんでした。その後4匹は皆で仲よくここで暮らしたのでした。
 グリム兄弟の故郷ドイツといえば「ライ麦パン」。ライ麦パンは、ライ麦粉と小麦粉を合わせたものをヴァイツェンミッシュブロートといい、ライ麦粉の方が多いものをロッゲンミッシュブロート、小麦粉の量が多いものをヴァイツェンブロート、最もライ麦粉の多いものをロッゲンブロートなどと呼びます。ライ麦粉の割合が多いほどしっとりとしてずっしり重たく、独特の酸味があります。薄く切ってクリームチーズなどをぬり、ザワークラウトをのせ、ビアシンケン(薄切りソーセージ)を挟んで食べると格別です。


パスタをしあわせそうに食べる2匹
わんわん物語
 その昔、コッカー・スパニエルを飼っていたせいもあって、かなり親近感があったこの物語は絵本でも映画でも印象に残るものでした。
 アメリカ北東部ニューイングランドの家にクリスマス・プレゼントとしてやってきたコッカー・スパニエルのレディ。ジム夫妻の愛情を受けて育っていきますが、夫妻に子どもが生まれ、愛情は子どもにそそがれていき、レディは複雑な心境ではありましたが、赤ちゃんをやさしく見守ります。
 ある時、夫妻の旅行中に猫好きで犬嫌いのベビーシッターセーラおばさんがやってきて、いたたまれず家を飛び出してしまったレディは、野良犬のトランプに助けられます。
 血統書つきのレディ、野良犬のトランプと生まれも育ちも異なる2匹が、やがて互いを愛するようになります。途中、レディが保健所に捕まったりと、いろいろと波乱はありますが、結局2匹は結ばれ、トランプはジム家の飼い犬になります。
 この作品で思い出すのはレディとトランプが仲よくしあわせそうにスパゲッティを食べるシーンです。トマトベースの「ミートボールスパゲッティ」。玉ねぎ、にんじん、にんにくはみじん切りにして炒め、塩をふり玉ねぎが透き通ったら火から下ろし、粗熱を取る。合いびき肉に塩、こしょうをふり、小麦粉を合わせ、炒めた野菜を加えて練り、ボール状に丸める。これをフライパンにオリーブオイルを引いて火を通し、カットトマトを加えて煮込み、トマトケチャップで味を調え、ゆでて水気をよくきったスパゲッティを加えて和え、好みでパルメザンチーズをふる。



 
  (食文家)
参考文献
「風にのってやってきたメアリー・ポピンズ」   
P.L.トラヴァース 林容吉訳 岩波書店
 完訳グリム童話集1  田鬼一訳 岩波書店
「ブレーメンのおかかえ楽隊」   


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