小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「そば」よもやまばなし2
                       ひらの あさか
 
「そば」の掟

 『そばの三たて』この三たてとは、うまいそばは「ひきたて」「打ちたて」「ゆでたて」が肝心という意味で「ひきたて」は、そばの実はひいたばかりのものを用い、「打ちたて」ひいたそば粉と小麦粉を合わせてもみ込み(こね)、のばして切り揃えて、「ゆでたて」さっとゆで上げて水きりをする。これこそが、そばにとって大事ということを表わしていますが、実際は切り揃えたそばは、ちょっと間を置いてからゆでる方がよいとされています。切りたてのそばをそのまま湯に放つと、そばが浮いてしまい、よくゆだらない。こねた粉と水がうまくなじまないともいわれています。
 『一鉢二延し三包丁』手打ちそばのつくり方について重要な工程を説明していることばです。同じように「包丁三日、延し三月、木鉢三年」ということばもあります。そば打ち工程で、「木鉢」つまりそば粉(小麦粉を合わせ)と水を加え(水まわし)、フレーク状にしてからまとめていく「木鉢三年」。まとめた生地をめん棒で延していく工程「延し三月」。包丁で切る「包丁三日」と難しい工程を順を追って説明しているもので、修行を重ねても木鉢には3年を要し、延しには3月、包丁で切るには3日もあればできるといったような意味になります。


「天ぷらそば」三景
 「天ぷらそば」は店によっても異なりますが、通常かけそばの上に中くらいから大きなえびの天ぷらが2尾はのっていて、三つ葉やほうれん草などの青物が添えられています。今のご時世では、そのお店の中でも最高額になりうる贅沢な一品で、下手をすると2千円を超えることもあります。同様に「天ざる」は、中くらいのえび天2尾と、うまくすると季節の野菜天ぷらが添えてあり、酒飲みにはうれしいセパレート方式が通用する食べものなのです。「ざるそばお声がかり」。つまりは、天つゆ、塩で天ぷらをいただきつつ、お銚子の1本も飲めようかという按配なのです。もちろん、若干天ぷらを残しつつ店に声をかけ、ざるそばは「さくら」(少量の意)でお腹がいっぱいにならない程度にいたします。
 「かき揚げそば」は、天ぷらそばよりひょっとするとさらに高額なもので、天ぷらのころもをまとわせた小えび、小柱、三つ葉などを丸くなるように仕上げる。結構手のかかる職人泣かせな一品を、かけそばの上にのせてほろほろところもをくずしながらいただく。呑み助の友には「天ぬき」。かき揚げそばからそばを抜いたもの。「天だね」かき揚げのみを天つゆ、もしくは塩をつけながらいただくものです。気のきいた店では、かき揚げそばのかき揚げ部分を先に通して、シメにかけそばを出してくれる何てこともあります。
 「天南ばん」は、かけそばに細身な芝えびのえび天を3本程度のせ、ねぎの短冊切りを添えます。天ぷらと、ねぎのことを指す「南ばん」がその名の由縁です。この天南ばんはえび天が3本ものっているというのに、先の天ぷらそばの半分くらいの価格という、何とも庶民派なありがたいそばです。


「そば」のことわざ三題
 
『江戸は蕎麦、大阪はうどん』いわずと知れた江戸の頃、関東圏ではめんといえば「そば」が好まれていました。のどごしがよく、つるっとして、早く食べられることが、江戸っ子の気質に合っていたのでしょう。いっぽう大阪は「うどん」。夜鳴きうどんをはじめ、屋台のうどんは、遅くまではたらく商人の味方でした。現在に至るまで、関東はそば、関西はうどんというのは、かなり定着しているのです。
 『そばとお化けはこわいもの』割り粉が少ない、つまり小麦粉の割合が少ないそばは「強(こわ)い」とお化けの怖いをかけた語呂合わせです。
 『三日とろろに晦日そば』その昔、毎月3日にとろろ汁を食べて、月末には必ずそばを食べる風習があったそうな。福島の伝承「三日とろろ」は、正月3日にとろろを食べるとその年に風邪を引かないといわれているようです。


「そば」あれこれ
 日本でそば食の原点ともいわれる「そばがき」。文字通り、そば粉を水またはお湯で練り、かき混ぜていくという原始的なつくり方です。でき上がりを一部の店では、四角い塗り物にそば湯をはって、木の葉のような形にまとめ上げたそばがきを浮かべ、食べやすい大きさに箸ですくい、つゆをつけつついただくもの。それこそかき混ぜたものを、ほとんどそのままで、つゆをかけて食べるものなど様々ですが、軍配を上げたいのは後者の方で、かき混ぜたままのものを、スプーンでそのまますくって、何もかけないで食べると、そば本来の甘みと味をお楽しみいただけると思います。
 「地獄そば」何ともおぞましいネーミングですが、平たくいえば「釜揚げそば」のことです。ゆで上げたそばをゆで汁とともに出して、つけ汁とともに熱いうちにいただきます。
 「縁切りそば」そばは切れやすいことからその年の厄災や苦労などをきっぱり切り捨てる意味で、年の瀬に食べる「年越しそば」がこれにあたります。
 いっぽう「縁結びそば」細く長く、末永くという縁起を担いだもので、嫁方から仲人さんを介して婿方へそばを持参するという風習があったようで、別名「結納(ゆいのう)そば」ともいわれています。
  (食文家)
参考文献
たべものことわざ辞典           西谷裕子      東京堂出版 
そば・うどん百味百題      日本麺類業団体連合会      柴田書店
蕎麦の世界              新島繁・薩摩夘一    柴田書店 
蕎麦の辞典             新島繁     柴田書店 


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