小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「そば」よもやまばなし3
                       ひらの あさか

そば酒のよろこび

 そば屋でそばを食す前に飲む酒を「そば前」と称していましたが、今ではその酒と一緒に楽しむ「肴」のことを「そば前」と呼んで「品書き」にもその名を用いていたりします。
 名はともあれ、そばができあがるまでを待つひとときの格別な酒とごちそうです。
 店によって異なりますが、代表的なものには「焼のり」「板わさ」「卵焼き」「焼きとり」から「茶碗蒸し」あたりまではみられますが、「親子煮」親子丼の抜き、つまり親子丼のご飯なし、「かつ煮」かつ丼の抜きは卵を若干多めにして、そばつゆを使った汁気も多いジューシーなごちそうです。


 また「そばがき」に小麦粉をまとわせ、油で揚げた「そばがきの揚げ出し」は、大根おろしとそばつゆをだしで割ってかけたもの、同様にそばつゆをだしで割って、野菜を細かく刻み、つゆでさっと火を通し、あんかけ状にしたものをそばがきにかけたものなど、そばつゆをフルに活用したものが多い。
 

 やはりそば前に欠かせないのが「天ぷら」。
天ぷら専門の店とは違って、ふわっところもが花が咲いたように艶やかなつくりにもなっています。これは小麦粉でできたころもが、そばつゆでできた温かい天つゆによく絡みやすくするためともいわれています。
 王道「えび天」車えびは、頭の部分はカリっと素揚げ、えびの中心部分は小麦粉で溶いたころもをつけて揚げる。しっぽまでおいしいえび天を頭部分は塩で、中心部分は軽く天つゆをつけて食べます。


揚げそば三種

 おつまみ「揚げそば」。
打ち上げって残った生そばを4~5㎝に切って、油でからっと揚げて塩、好みで抹茶や青のりを絡めます。


「揚げそばクリームチーズ」
1㎝×5㎝と都こんぶくらいのサイズくらいに切り、揚げたそばをクリームチーズにそばつゆ、糸削りのかつおぶしを合わせたもの、明太子とクリームチーズのディップをつけながら食べる。


「巣ごもりそば」
そばを鳥の巣状にこんもりと揚げて、長ねぎ、しいたけ、えび、鶏むね肉、うずら卵、さやえんどうなどをそばつゆで味つけてあんかけ仕立てにして、揚げそばにかけ、好みで酢をかけたり、辛子をつけて食べる。中華でいうあんかけ焼そばの和風版で、そばつゆの味が生きています。


続・そば屋の符丁

 そば屋には「通し言葉」という独特な符丁(合言葉)があります。客の注文をつくり手に伝える言葉で、客の人数から注文を内容、出す順序などの段取りがすべて含まれている合理的な仕組みになっています。


 「さくら」は、そばの量を少なめに盛って出すことをいいます。対して「きん」は、そばの量を少し増やして盛ることをいいます。
 例えば「もりお代わり、台はさくらで」、もりのお代わりは量を少なめにということになります。「台」は、そば本体のことをいいます。


 「つき」は、1個を意味する言葉です。「天つき3杯のかけ」は、天ぷらそば1杯にかけそば2杯を意味していて「つき」は後の杯数が注文の総数、後からいわれる出し物の数は注文の総数「3」から「1」を引いて数えます。


 「まじり」は、2個の意味で「ざるまじり5枚もり」は、ざるが2枚にもり3枚のことをいいます。「枚」はせいろを数える単位で、「杯」はおかめ(かけそばにかまぼこ、卵焼き、しいたけ煮などの具をのせたもの)、花巻(かけそばに焼きのりをちらしてあるもの)など種物のそばを数える時に使います。


 「おか」は、岡に上がるように種物の具をそばやうどんの上にのせないで、別の器に盛りつけて出すこと。「岡で天ぷら」といえば、天ぷらは独立して出され、別立て盛りで供されます。


そば湯までしっかり飲む

 そば湯は、そばを食べ終わったあとにつゆとともに飲むものですが、この風習は遠く元禄(1688~1703)の頃からあるようです。元禄に書かれた『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』元禄10年刊に「蕎麦切の煮湯を呼て、蕎麦湯と称して言ふ。蕎麦切を喫して後、此の湯を飲まざれば必ず中傷せらる。若し多く食し飽脹すと雖も、此の湯を飲むときは則害なし」とあります。かいつまんでいうと「そばをゆでた汁をそば湯と呼んでいる。そばを食べた後にこの湯を飲まねば、病にかかるともいわれる。たとえ食べ過ぎて満腹になったとしても、この湯を飲むと害はない」とでもいいましょうか。
 

 そば湯にはそばの栄養成分が溶け込んでいて、とくにビタミンB類、そばのうま味成分のたんぱく質も味わえるところから、飲みやすいし、そばを余すことなくいただくことになる。


 店によって出し方も異なります。ゆで汁をそのまま使うところも多くありますが、ゆで汁にそばの切れはし、打ち粉を合わせて煮立て、とろっとしたそば湯を出すところもあります。このそば湯は、まるでそばのポタージュスープのようで、そのままそば湯のみをいただくのもおいしい。

 
 そば湯を入れる器「湯桶(ゆとう)」は、うるし塗りの木製のもので、たいがいは正方形か丸形でかどに注ぎ口がついています。この注ぎ口の位置から転じて、他人の話に横から口を挟むうるさい人物のことを指していたりします。
 
  (食文家)
参考文献     
蕎麦の辞典   新島 繁  柴田書店
 


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