小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

「おみやげ」小麦粉お菓子
                       ひらの あさか
「おみやげ」の始まり

 「おみやげ」は、平たくいえば「旅先で買い求め、持ち帰るその土地の産物」「人の家を訪問する際に持参する贈物」んど辞書にはあります。
 「宮笥(みやけ)」は、神社にお参りする際に持っていく神饌(しんせん)神様にお供えする飲食物を入れる器を意味したり、「屯倉(みやけ)」大和朝廷の直轄の穀物の倉、転じて地方の産物を都に運ぶことを意味するなど諸説あります。突き詰めれば、神仏などにささげる献上品やもてなしの意味が込められています。それが民衆に伝わったところで、現在でいう「手みやげ」となり、受け取ったおみやげは一旦神棚や仏壇にお供えしたといいます。


 江戸時代、落語にも登場する「お伊勢参り」。その頃の旅というと、かなり命がけの旅もあったり、村を代表としてお参りに出かけた旅もあったようで、送り出す人たちは、旅立つ人に路銭(旅のための費用の一部)を渡したという。このお返しとして、旅をした人はおみやげを買って帰るといった構図になっており、たとえ路銭をいただかなかったとしても手ぶらでは帰れなかったといいます。


北海道・札幌「山親爺」

 大正10(1921)年、北海道札幌でにぎわっている駅前通りと狸小路の交差点のある場所に開店した千秋庵。当初はスイートポテトやシュークリームなど洋菓子を販売していました。下って昭和5(1930)年に発売されたのが、現在でも人気の「山親爺(やまおやじ)」。小麦粉に、バター、ミルク、卵を加え、水を一切加えない生地を焼いた小麦粉煎餅です。


 山親爺とは、昔から北海道の山野をわが物顔で闊歩していた熊の愛称で、人びとは熊を恐れながらも親しみを込めてそう呼んでいたようです。
 山親爺の表面にはスキーをはいた熊が、鮭を背負っている姿が浮き彫りになっています。昭和40年代のわが家には、どなたかのおみやげかと思いますが、筒状の黒缶入りの山親爺があり、のちにその缶は茶筒となり、ほうじ茶を入れて使うにはぴったりの大きさでした。
 

宮城・松島「カステラ」

 松華堂の創業は明治時代。菓子店、洋食店ほか、時代ごとにスタイルを変えて、平成22(2010)年に現在の宮城県松島町に松華堂菓子店として、リニューアルオープンしています。
 松華堂の「カステラ」は、小麦粉、地元松島の卵、盛岡のアカシアはちみつと、実にシンプルな材料を使ってオーブンで焼いたもので、ふわっとやわらかく、それでいて何となく懐かしい味のするカステラです。稀に百貨店に出る以外は、現地で求めるしかないのですが、唯一無二のおみやげです。
 
 
三重・伊勢市「絲印煎餅」


 江戸末期、伊勢神宮の門前町として栄えた商人の町、河崎に参拝客をおもてなしする茶店として始まった播田屋の名物は「絲印煎餅(いといんせんべい)」。明治38(1905)年、天皇陛下の伊勢神宮ご参拝の際に、献上菓子として考案されたといわれています。


 絲印煎餅は、小麦粉、鶏卵、砂糖を合わせた生地を薄く焼き上げた小さな煎餅の表面に、絲印という印影を焼きつけています。
 絲印とは、室町時代頃に中国から日本に輸入された生糸の取引証明に使われた銅印のことで、判読できないようなデザイン化された文字や絵など、風雅な模様でできています。
 絲印煎餅には、1枚1枚に違った模様が焼きつけられていて、これを見るのも楽しみのひとつです。


九州・博多「ひよ子」

 ひよ子は、大正元(1912)年に福岡県飯塚市の吉野堂で生まれました。
 筑豊飯塚は、長崎街道を通って本州へ運ばれる砂糖を容易に入手できる環境であったため、菓子づくりが盛んだったことと、炭坑ではたらく人のエネルギー源として、甘いものが好まれることなどから菓子店が多く、繁盛していたといいます。また、東京や大阪方面への取引も活発だったので、甘いお菓子は手土産としてもよろこばれていたそうです。


 空を見上げているような、ふっくらとしたひよこの形をした「ひよ子」の中身は、隠元豆をさらしたあんに、砂糖や卵黄を加えてさらに練り上げたコクのある黄身あんと、表面は小麦粉と卵、糖みつをあわせてこねた生地をまとわせて、独特の香ばしい皮に仕上げています。


東京・浅草「カステーラ焼」

 浅草の紀文堂総本店は、明治23(1890)年、初代が学生時代に見た内国博覧会で、神戸から出品されていた瓦煎餅に感動してお店を始める。屋号は昔、豪商紀ノ國屋文左衛門が仮住まいしていたとされているこの地から紀文堂と命名。明治29(1896)年、浅草雷門に支店を出し、後に紀文堂総本店となる。
 「松竹梅カステーラ焼」小麦粉、砂糖、卵、はちみつ生地を松竹梅の型に入れてこんがり焼いたあんの入らない人形焼で、ほんのり甘くて、軽いのでいくらでも食べてしまいそうです。
  (食文家)
<参考文献>     
おみやげ 贈答と旅の日本文化 神崎宣武 青弓社
 


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