小麦・小麦粉に係る話題

小麦粉のある風景

いつでも「そうめん」
                       ひらの あさか
江戸の料理本『素人庖丁』

『素人庖丁』には「葛にうめん」に関する記述があります。

「此仕やう極上のそうめんを常のごとく湯煮し水にうつし直ぐに手を入れず最初は箸でかきまはしそ水をとり捨てその後手にてよくよくもみあらひ 幾度も水をかえていかきに置きて こんぶ豆の出しに椎たけの漬け水をまじへ 醤油酒しほかげんよく合わし 葛をよき程にのばし せり みつば ねぎ きくな かいわり ほうれん草 椎茸 松茸 しめぢ やき栗 ぎんなん くわい 長芋 麺の類 こふたけ 岩たけ ゆば 刻みゆば これ等の中ににて三種か五種取合せ加益(かやく)に用ふ 此余は好みにまかせつかふべし さて器にそうめんを盛り上にかやくを置き右のうす葛をかけて出す 葛は少し濃きかたもつともよし 菓子碗又太平梅碗などによし 但し吸口はせうが こせう きのめ さんせう 花柚 柚の皮 とうがらし わさびこのうちにて見合わせ用ふべし」とあります。


 かいつまんでいえば、そうめんはゆでて、もみ洗いして水に取って水を何度もかえて、ざるに上げて昆布と(干し)しいたけもどし汁を合わせて、しょうゆ、酒、塩で味を調えて、葛を加えて汁を合わせる。平らな太平碗などにゆで上げたそうめんを移して、好みの野菜やきのこ、ゆばなどを3~5種類上にのせて、葛を含んだつゆをかけて、しょうが、木の芽、山椒などの薬味を添える。


各地のそうめん

 宮城県白石市の「白石温麺(うーめん)」は約400年近く前、伊達藩白石城下に鈴木味右衛門という人がおり、父親が胃を患い、何日も絶食しなければならなかった時、味右衛門は父に何かよい食べ物はないかと思案していたところに、旅をしている僧から油を一切使わない麺があることを知らされ、この麺をつくって温めて父にすすめてみたところ、胃の病は快方に向かったという。この孝行話を聞いた白石城の片倉小十郎公は、味右衛門の「温かい思いやりのこころ」をたたえ「温麺」と名づけたということです。白石温麺の特徴は何といっても長さ9cmでちょっと太めで短いこと、干した乾麺は、小麦粉と塩を用い、極めて自然な材料でつくられています。短いので小さな鍋でも楽にゆでることができ、しかもつゆがはねないので食べやすいというのも好まれる理由です。


 富山県砺波市の「大門(おおかど)そうめん」は、1848年(嘉永元年)に、越中の国砺波郡大門村(現在の富山県砺波市大門)の田守三右衛門という売薬行商人が能登を巡っていた時に、加賀前田藩の御用素麺を製造している蛸島の栗田次兵衛を知り、前田藩がそうめんづくりで豊かな生活を送っていることを耳にした。田守が地元に帰ってから、そのことを村の有志に伝えたところ、有志の何人かが蛸島に直接出向いて、そうめんの製法を習得して、冬場の農家の副業として、そうめんづくりを始めたという。そんな「大門そうめん」は、よくある棒状ではなく、半乾きの細く長いそうめんを丸めて和紙で包むことから「丸まげ(日本髪にあるまげの一種)そうめん」とか「島田そうめん」と呼ばれているめずらしい手延べそうめんです。ゆでる前に、丸まげ状のめんを2つに割ることがポイントです。


 岩手県江刺市の「卵(らん)めん」は、江戸時代に長崎からこの地に逃れてきたキリシタンの松屋重蔵が、カステラの製法を参考にして小麦粉に卵を混ぜてつくったものが、その始まりだといわれています。製法は、新鮮な鶏卵と小麦粉を混ぜて生地をつくり、国産の塩と少量の水で延ばしたそうめんです。細いそうめんですが、ゆで上げるまでには約5分近くかかります。


 熊本県南関町の「南関そうめん」の歴史は、300年とか250年前ともいわれており、一説には、中国で修行した小豆島そうめんの職人が、旅の途中で現在の南関町に立ち寄った時のこと、上質の小麦粉や食用油がこの土地でつくられていて、そうめんづくりに適していたため、その製法を地元の人に伝えたことから始まったといわれています。


お盆に供えるそうめん
 香川県小豆島では、各家々で生のそうめんを編んで仏壇の前にかける「負い縄そうめん」がある。生のそうめんは、乾燥しないように1時間以内くらいに、家族や近所の親しい人々と一緒にまるで暖簾(のれん)のように編まれ、仏壇の前にかけられる。このそうめんでご先祖さまをお迎えし、お帰りになる時はお供えしている果物などの供物をお渡しするために、そうめんを縄に見立てて、何重にも縄をかけて供物を縛って持って帰ってもらうという役割があります。


 京都では、ご先祖さまをお迎えするためにお盆の期間13~16日にお供え御膳を毎日用意する風習があり、碗の一部にはそうめんにつゆをはった「冷やそうめん」などもみられる。五山の送り火の日には、表の扉を少し開けて、ご先祖さまにお帰りいただくという。


 京都五山の送り火は、ご存じのようにご先祖の霊をお送りする、精霊送りを意味するお盆の行事です。この送り火には、このほかに護摩木に自分の名前と病名を書いて焚くと、その病が癒えると考えられていたり、焚いた消炭を持ち帰り、奉書紙に巻いて水引をかけて家につるしておくと、魔除け、厄除け、盗難除けのお守りになるといいます。毎年8月16日に京都市内を囲む5つの山に「大文字」「妙法」「船形」「左大文字」「鳥居型」の順に点火されます。
  (食文家)


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