小麦・小麦粉に係る話題

第114回 小麦粉のある風景

酒場と人気のおかず
                       ひらの あさか
江戸の酒場「煮売酒屋」

 居酒屋という名は、江戸の風俗に精通していた三田村鳶魚(えんぎょ)によると「元禄頃(1688-1704)でも居酒屋というのは、まだなかった。 寛政頃(1789-1801)には居酒屋は『煮売酒屋』と呼ばれ、なかなか繁盛していた」といっています。
 煮売(にうり)酒屋には、鍋や七輪(土製のコンロ)、食器などを担いで商いをする人、屋台を引いて売り歩く人、また店を開いて商う人がいたといいますが、この後17世紀後半には、火を持ち歩く商いについて、幕府からの禁令があり「うどん、そば、そのほか火を持ち歩く商売はいっさいしてはならない」というおふれが出てだんだん衰退していく。 
 文字通りこれは火事がおこるのを避けるためのもので「居ながらの煮売りは支障ない」とつけ加えています。
 居ながらの煮売り、つまり簡単にいうと腰かけて酒を商いすることを「居酒」。 この煮売酒屋で居酒させるのが、居酒屋のルーツとみられています。 おかずには、おもに煮しめ、おでん、煮豆などが供され、看板には「すいもの、煮魚、鍋焼き」の文字が表されていたようです。 その時分の居酒屋のルールは長居をしないのが鉄則で「祭りの酒は底つきるまで、ふだんの酒は正二合」祭りの時は酒がなくなるまで、いつもは徳利2本という意味ですが、昨今、長居する人が多い居酒屋に耳が痛いかもしれませんが、原点を思い起こさせてくれることわざです。



今時の居酒屋人気おかず

 居酒屋でなんといっても食べたくなるのは揚げ物です。
 「ささ身梅かつ」ささ身は筋を取って厚い部分を切って開き、市販のねり梅をぬって挟んで、小麦粉、溶き卵、パン粉の順にころもをつけて、中温でころがしながら揚げ、油をきって食べやすく切る。
 「チーズ揚げ」ワンタンの皮を用意して、皮で包める大きさにプロセスチーズを棒状に切って、ワンタンの皮に包んで端を水でとめる。 中温の揚げ油で軽く色が変わるまで揚げて油をきり、軽く塩、粗びきこしょうをふる。
 「明太子の天ぷら」まず天ぷらのころもは、ボウルに卵を割り入れて、冷水を加えて全体をよく混ぜ合わせ、薄力粉を加えてささっとつつくように混ぜ合わせる。 明太子にころもをつけて高温の揚げ油でからっと揚げる。
 「ちくわの磯辺揚げ」ちくわは食べやすい大きさの斜め切りに。 薄力粉と水を合わせてころもをつくり、青のりを加えて、ちくわに絡ませて、高温の揚げ油で短時間で揚げて、油気をしっかりときる。



立ち飲みの始まり「角打ち」とは
 もうひとつ、いま若者の間でも流行している立ち飲み屋のルーツといえる「角打(かくう)ち」は、四角い升の角に口をつけて酒を飲むこと、居酒屋の片隅で升で酒を直接飲むこと、酒屋の店の一角を仕切って立ち飲みコーナーをつくり、そこで飲ませることをいいます。 もちろん酒屋買った酒をその場で飲むことができます。
 角打ちの大半は、酒屋の一角にカウンターテーブルを置いて、そこで飲ませるのですが、つまみは、魚(オイルサーディン、魚の煮つけや蒲焼き)、肉類(コンビーフ、大和煮)の缶詰や、魚肉ソーセージ、乾き物(いかの燻製、ナッツ類、塩豆などの豆類)、チーズなどで、火を通したり、燗酒にするようなサービスはほとんどなく、店で売っている酒とつまみを店の販売価格で提供しています。 この角打ちから、居酒屋に転進している店も多くあります。



日本の「ビアホール」
 日本にビアホールができたのは1899(明治32)年のこと、現在の銀座8丁目「恵比寿ビール」が日本初といわれています。 当初はビールを宣伝することが目的で、工場直送のおいしい生ビールを味わってもらい、その良さを知ってもらうためのものだったそうです。

 東京のビアホールの名物メニュー「紙かつ」。 豚肉を薄くたたいて、下味をつけ小麦粉をまぶして、卵、パン粉などをつけてきつね色に揚げたものです。 ドレッシングでよく和えたせん切りキャベツの上に食べやすい大きさに切った紙かつをのせる。
 「ラビオリ」強力粉、薄力粉、卵、塩、オリーブオイルなどを合わせてからねかせて、めん棒で生地をのばし、牛豚合いびき肉、玉ねぎみじん切り、ホールトマトなどと炒めて塩、こしょうで味を調えた種を生地にのせて、ギザギザのラビオリカッターで四角に切る。 中温の揚げ油でカリッと揚げて油気をよくきる。
 「メンチかつ」牛豚合いびき肉に玉ねぎのみじん切り、卵を練り込み、塩、こしょう、ナツメグなどで下味をつけて種をねかせて、小麦粉、卵、パン粉の順でころもをつけて揚げる。 好みでウスターソース、ケチャップを合わせて、マスタードを少々加え、フライパンで火を通した簡単ソースをたっぷりかける。
 もちろん、ウスターソースだけをかけてもおいしい。


                                (食文家)


参考文献
『落語にみる 江戸の酒文化』 旅の文化研究所編 河出書房新社
『三田村鳶魚 江戸生活辞典』 稲村史生編 青蛙房


*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。