小麦・小麦粉に係る話題

第117回 小麦粉のある風景

精進揚げと天ぷらの仲間
                             ひらの あさか
精進揚げとは

 精進揚げ(しょうじんあげ)は、ご存じのように、仏事の時などに食べる精進料理の中のひとつで、おもに野菜など、植物性の食材に、ころもをつけて、油で揚げた物をさします。
 普通の天ぷらと違うのは、魚介類などを含む動物性の食材を使わないというところが特徴です。 細かくいえば、天ぷらのころもには卵を用いますが、精進揚げのころもは、小麦粉と水だけを使います。
 さらに天ぷらには、だし汁としょうゆ、みりん、酒などの調味料を合わせた天つゆを添えますが、精進料理の中の精進揚げに使う天つゆには、かつおだしが使えないので、だしには昆布を用います。
 精進揚げに用いる食材には、なす、しし唐、さつまいも、かぼちゃ、れんこん、オクラなどをはじめ、季節のきのこ、しいたけ、まいたけなども好まれます。
 よく物事に「精進する」といいますが、精進とは、本来は仏道の修行に励むことをいい、精進料理とは、その修行に励む僧にとっては大切な食べ物で、食べることも修行の一部と考えられています。 菜食(植物性の食べ物)をして、肉食(動物性の食べ物)や五葷(ごくん)つまり、香りの強いにんにく、ねぎ、にら、らっきょう、玉ねぎなど部類の食材を禁忌とする考え方で、煩悩を刺激する食材を避けるという意味があります。 ここに山椒やしょうがなどは含まれない場合もあり、地域によって、また時代によって、精進料理のかたちも異なっているようです。



精進落としとは

 精進落としは、葬儀にまつわる料理のひとつで、かつては忌明けの食事を意味していました。 今では形態も変わってきています。
 その昔、親族が亡くなった時には、仏教の教えにより、肉や魚などの動物性の食べ物を断って、植物性の精進料理をとっていました。 精進落としは、忌明けにあたる四十九日に、通常の食べ物に戻す区切りにあたる日だといわれていました。 しかし、かつての意味はだんだん薄れていき、初七日法要の時に僧侶や参列者にふるまわれる食事と変わっていきました。 今では初七日の法要も、忙しい家族や参列者のために葬儀、火葬の後に行われるようになり、その後に酒や食べ物をふるまうことを精進落としと呼ぶようになっているようです。 地域によって異なりますが、精進落としは、故人の供養と、参列者へのお礼、お清めの意味が込められています。



江戸前の魚といえば

 「ぎんぽう」は江戸前の天ぷらの種として欠かせない魚です。 ぎんぽうの名の由来は、その形状が江戸時代の銀貨「丁銀」に似ているところから「銀宝」と呼ばれるようになったとか。 また硬直した姿が棒のような形状になることから「銀棒」という説もあります。
 最近、天ぷら専門店でもなかなか見かけなくなった「ぎんぽうの天ぷら」は、身は白く、ふわっとした食感と濃厚なうま味がたまらないおいしさです。
 関東以外では、残念なことに雑魚として扱われ、煮つけやてり焼きにして食べられているようです。 春から夏まで市場には出まわっているようで、味は確かなのですが、見た目はちょっとグロテスクな感じです。 体の表面は独特のヌメリがあって、そのヌメリの部分が透明なものがよいそうです。



好きな天ぷらは?

 好きな天ぷらは何?と聞かれるとやはり、えびの天ぷらや、いか、かき揚げと魚介物がすぐ浮かびます。
 時は暮れの時期になりますが、関西を旅した時に町の商店やデパートで年越しそばと一緒に売られていたのは、えびの天ぷらでした。 関西でもえび天なの?と驚いてしまいましたが、にしんの甘露煮が添えられた「にしんそば」もしっかり横に並んでいました。
 関東でももちろん、えび天ぷらは通常時でもそば店の人気のお品書きです。
 「えび天そば」揚げたえびの天ぷらがのっているかけそば。 「天ざる」えびの天ぷらのほかに青じそ、しし唐など野菜が添えられている場合もあるざるそば。 「天南そば」お店によりますが、天ぷらそばのえびよりもひと回り以上小ぶりなえびの天ぷらが数尾のっていて火を通したねぎがのったかけそば。 「天とじそば」天ぷらそばを卵でとじたかけそば。 かき揚げ天ぷらに温かいつゆをはった「天ぬき」やかき揚げ天ぷらだけの「天種(てんだね)」にはえび、貝柱などが入っていて、魚介の人気の高さがうかがえます。



人気の「とり天」とは

 「とり天」とは、主に鶏肉のむね肉を使い、小麦粉ベースのころもをつけて揚げた天ぷらのことです。 その発祥は諸説ありますが、大分県といわれていて、同県ではから揚げと同じように一般的に食べられているようです。 最近では関東でもよく見かけるようになりました。
 「とり天」は、ぽんずをつけて食べるため、から揚げに比べるとさっぱりしているので、気持ちヘルシーで、地元大分の居酒屋や定食屋などのお店には必ずといっていいほど置いてあるといいます。 家族でも好んで食べられているという大分の人びとにとって、ソウルフードなのです。
                                (食文家)

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