小麦・小麦粉に係る話題

第119回 小麦粉のある風景

おいしい欧州菓子
                             ひらの あさか
フランスの「フラン」
 フラン(Flan)は、フランスの定番お菓子。 中世の頃よりつくられたというもっとも古いお菓子のひとつといわれています。 フランは、もともとはラテン語の「フランド」、丸い形状をした金属を意味する古語「フラド(Flado)」などが、その名の由来と考えられているようです。
 小麦粉ベースの甘味のないブリゼ(タルト)生地に卵、牛乳やバター、小麦粉などを合わせて混ぜたアパレイユ(appareil)をブリゼ生地に流して焼いたお菓子です。 ちなみにアパレイユとは、フランス語で「混ぜ合わせたもの」を意味します。
 このほか、ブルターニュ地方の「ファーブルトン」。 リムーザン地方の「クラフティ」などもフランの仲間に含まれるようです。
 ファーブルトン「ファー」は、牛乳で煮たおかゆのこと。 「ブルトン」は、ブルターニュ風の意味。 つまり「ブルターニュ風の牛乳がゆ」は、名前とは違って、じっくりと焼き上げて仕上げています。 小麦粉、砂糖、牛乳、卵を合わせて混ぜたところに、種を取った乾燥プルーンを加えて、オーブンで焼きます。
 クラフティは、タルト生地にさくらんぼをちらして、キルシュワッサー(さくらんぼを発酵させた蒸留酒)を加えたアパレイユを流し、オーブンで焼いたものです。



ドイツの「シュトロイゼル」
 ドイツのお菓子「シュトロイゼルクーヘン」。 シュトロイゼルとは、上から「ふりかける」という意味があり、小麦粉、バター、砂糖を合わせてそぼろ状にしたもので、「シュトロイゼルクーヘン」は、アップルケーキの上にシュトロイゼルをのせて焼いたものです。
 まずはアップルケーキ。 生地には、薄力粉とベーキングパウダー、バター、砂糖、塩、卵、牛乳などを合わせて寝かせ、生地をのばして、タルト型に敷いて、薄く切ったりんごをちりばめます。
 一方シュトロイゼルは、ボウルにふるった薄力粉、砂糖を合わせ、冷たいバターを細かく刻んで加える。 両手指先を使い、粉に含まれているバターを小豆大になるように手早くほぐす。 全体を混ぜながら、さらさらになるようにして、好みでシナモンパウダーを加え、しっとり感が出てきたら、アップルケーキの上にシュトロイゼルをパラパラとふりかけてオーブンで焼く。 切り分けて粉砂糖をかけるか、泡立てた生クリームを添える。
 また英語では、シュトロイゼルのことを「クランブル」と呼んでいます。 イギリス風「アップルスクランブル」のつくり方は、りんごは皮をむいて、好みの厚さに切る。 フライパンにバターを溶かし、りんご、レモン汁、砂糖、シナモンパウダーを入れ、中火でソテーする。 ドイツのシュトロイゼルと同様にそぼろ状のクランブルをつくる。 ソテーしたりんごは、耐熱容器に移して、上にクランブルに刻んだアーモンドを加えて合わせてのせて、オーブンできつね色になるまで焼き上げ、お皿に移して、卵黄、牛乳、砂糖、薄力粉でつくった熱々のカスタードクリームをかける。



ポルトガルの「パステル・デ・ナタ」
 数年前に日本で大流行した「エッグタルト」。 カスタード好きには、たまらないあのお菓子はマカオ生まれですが、本家はポルトガルの「パステル・デ・ナタ(Pastel de Nata)」。 かつてはポルトガルに統治されていたマカオにパステル・デ・ナタが伝わったといわれています。 マカオのエッグ・タルトは、ポルトガルからイギリスに伝わり、アレンジされたものだといいます。
 ポルトガルの「パステル・デ・ナタ」は、200年以上前にリスボン西部のジェロニモス修道院の修道女たちが考案したものといわれています。
 つくり方は、小麦粉ベースのパイ生地を薄く伸ばし、ロール状にして、輪切りにカットし、型に敷いて広げ、その上にカスタードを流して高温で焼くという、シンプルなお菓子です。 パイ生地はサクサク、カスタード部分はトロトロに仕上がっておいしい。



イギリスの「メイズ・オブ・オナー」
 「メイズ・オブ・オナー(Maids of Honour)」は、名誉ある女官という名前をもつお菓子です。 諸説ありますが、16世紀のイングランド王ヘンリー8世が愛したお菓子として知られています。 きっかけはヘンリーが住むハンプトンコートの宮殿で、メイドたちが食べていた菓子を彼が食べてみたところ、あまりにもおいしくて気に入ってしまい、この菓子をつくったメイドを宮殿内に幽閉して、レシピを門外不出とし、生涯つくり続けさせたとか。
 生地には薄力粉、強力粉とバター、塩、水を使ったサクサクのパイ生地は、冷蔵庫で何度も休ませながらを繰り返して、丸型にぬいて、マフィン型に生地を敷いておく。 しっとりとしたフィリングには、カッテージチーズ、アーモンドパウダー、砂糖、卵、レモンの皮のすりおろし、レモン汁、牛乳を使って合わせ、型に流してオーブンできつね色になるまで焼きます。 サクサクのパイ生地に甘さ控えめのチーズのフィリングとの相性は最高。 見た目は「パステル・デ・ナタ」に少し似ていますが、さわやかなレモンの風味が効いた上品な味わいに仕上がっています。
                                (食文家)

参考文献
パリのスイーツ手帖 大森由紀子 世界文化社
イギリスの菓子物語 砂古玉緒 マイナビ
旅するパティシエの世界のおやつ 鈴木文 ワニ・プラス

*今までに、掲載したものは「メニューリスト」の「バックナンバー」の項目に入っていますので、ご覧ください。