小麦・小麦粉に係る話題

第124回 小麦粉のある風景

国産パスタあらわる
                             ひらの あさか
日本のパスタ元年
 日本にパスタが伝えられたのは幕末、横浜にあった外国人居留地でした。 その時分の人たちは、見たことも味わったこともない食べ物に「まるでうどんのようだ」といったとか。
 下って明治中頃、フランス人宣教師が、長崎にマカロニ工場を建設し、製造したのが日本で最初のパスタといわれています。
 そして、国産パスタがつくられたのは大正時代、新潟で製麺業を営んでいた会社に、横浜の貿易商がマカロニの製造を依頼したのが始まりといわれています。
 昭和初期から国産化はすすんできたものの、当時の機会は小型だったため、生産される分量も少なく、ごく限られたレストランで食べることができる程度だったようです。
 国産パスタが定着していったのは、第二次世界大戦後、材料の配合から乾燥までを行える本格的な製造機が輸入されるようになった1995(昭和30)年以降のこと。 この時が日本における「パスタ元年」といわれています。 その頃の国産パスタは、日本人の味覚に合わせて、複数の小麦粉をブレンドして、つくられていたようです。
 その後、海外に旅行する人が増えたり、バブル期頃のイタリアンレストラン(イタメシ)ブームなどにより、日本人のパスタの好みも変わった1986(昭和61)年に、デュラム・セモリナ100%の国産パスタが家庭でも食べられるようになりました。 今やパスタは、日本人の家庭料理に欠かすことのできない食材になっています。



デュラム小麦からつくるパスタ
 乾燥パスタの原料となるデュラム・セモリナは、デュラム小麦の胚乳部を粗く挽いたもので、たんぱく質を多く含み、こねると生地にすぐれた弾力が生まれ、ゆでてもコシが強く、形がくずれしにくいことから、最もパスタに適した小麦粉といえます。 ちなみに「デュラム」とは「堅い」を意味する言葉です。
 乾燥パスタのつくり方は、ごく簡単にいえば粗挽きにしたデュラム・セモリナに、水を加えてこね、真空ミキサーで生地内にある空気を抜いてから、高圧で押し出して成形、乾燥させた後に冷却、裁断するといった工程です。
 パスタのゆで上がりの目安とされている「アル・デンテ」は、ご存じのように「歯応えのある」といった意味になりますが、この言葉があるのは、乾燥パスタがあったおかげともいえます。



イタメシ以前のパスタ
 昭和30年代、パスタはマカロニから始まったとお伝えしましたが、その頃はパスタとは呼ばずにスパゲッティでした。 そのスパゲッティといえば、やはり昭和40年代に学校給食で出されていたスパゲッティミートソースが思い出に残っています。 ミートソースは確か給食室でつくられたもので、スパゲッティとは似て非なる学校給食用に開発された「ソフトめん」が添えられていました。
 ソフトめんは、やわらかいうどん状の細めんで、その正式名称は「ソフトスパゲッティ式麺」。 食べた感触は、うどんそのものですが、洋物おかずにも対応しためんです。 製法は小麦粉、塩、水を混ぜてこねた小麦粉生地を何度ものばしてから切り、これを蒸してからゆでて、流水で洗い、水切りをしてから1人分をポリ袋に詰めたものです。 これを取り出して、ミートソースをかけてまぶしたのが、スパゲッティミートソースでした。 このソフトめんは、カレー汁をかけてカレーうどん、野菜や肉を加えた汁物に加えてスープうどんなど、給食に幅広い和、洋アイテムを増やしてくれた魅力のごちそうめんでした。



シンプルなパスタ2種
「カルチョ・エ・ペペ」
 カルチョはチーズ、ペペはこしょうを意味する、ローマで生まれたスパゲッティです。 ここで使うチーズ、ペコリーノ・ロマーノチーズは羊のミルクでつくった硬質タイプのチーズですが、おなじみ硬質タイプのパルミジャーノ・レッジャーノに比べてクリーミーなのが特徴です。
 スパゲッティはゆで、ゆで汁を取っておく。 ボウルなどにペコリーノ・ロマーノチーズをすりおろしておいて、ゆで汁を加えてチーズを溶かす。 フランスパンにゆで汁、黒こしょうを加えて煮立て、火から下ろしたら、ゆでたてスパゲッティを入れてよく混ぜ、塩で味を調え、器に移して、さらにすりおろしたペコリーノ・ロマーノチーズ、黒こしょうをふって仕上げる。


「絶望のスパゲッティ」
 絶望というのは材料が何もなくて絶望するということからその名があるようです。 冷蔵庫や台所など手元にあるわずかな材料でつくるこのスパゲッティは空腹を十分満たしてくれることでしょう。
 乾燥スパゲッティはゆではじめて、同時進行でフライパンにオリーブオイル、つぶしたにんにくを入れて弱火にかけ、にんにくからプツプツと泡が出てきたら、種を取った黒オリーブを加えて炒め、香りが出てきたら、スパゲッティのゆで汁を加え、乳化してきたら、好みでイタリアンパセリを入れて、ゆで上がったスパゲッティを加えて和え、すりおろしたペコリーノ・ロマーノチーズを加えて混ぜ、オリーブオイルをかけて器に移す。 これは残り物総動員のオイル系スパゲッティといえそうです。


 参考文献
パスタの歴史                      日本パスタ協会
イタリア「地パスタ」完全レシピ 小池教之・池田愛美   世界文化社
                                (食文家)

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