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小麦粉の科学

 小麦粉の特性などについて、より詳細に説明をした「小麦粉の魅力」(改訂版)をご覧ください。また令和4年4月頃に再改訂版を発行する予定でおります。

小麦の植物学的分類

小麦は、多様な気候や風土に適応し、世界で最も広く栽培されており、稲、トウモロコシとともに世界の3大穀物といわれます。
 小麦はイネ科(Gramineae)コムギ属(Triticum)の植物で、栽培されている小麦の主なものの植物学的な分類は、[表1]のとおりです。最も原始的な一粒系は小アジアから黒海沿岸地方に至る地域を原産地としています。
 小麦には、基本的な生命現象を営むのに必要な遺伝子が7本1組の染色体に分かれて座乗しています(この7本の遺伝子の組合せを「ゲノム」といいます)。小麦はこのゲノムのタイプ(A,B,C,D,Gで表します)、数、および組合せによって4つに大別されます。
小麦の穂軸には波状に約20の節があり、それぞれの節に小穂(しょうすい)が付きます。1小穂に1粒稔実するのが「一粒系」で、Aゲノムを2つ(AA)持つので、2倍体といいます。2粒稔実するタイプが「二粒系」で、AとBゲノムを2つずつ(AABB)持つので4倍体です。3粒以上稔実するタイプが「普通系」で、A、B、Dゲノムを2つずつ(AABBDD)持つので6倍体です。これらの他に、木原均博士が発見したチモフェービ系(AAGG)というのがありますが、現在は栽培されていません。小麦の体細胞の染色体数は、一粒系では7×2=14、二粒系とチモフェービ系では7×4=28、普通系では7×6=42です。
 現在広く栽培されているパン小麦(普通小麦)は6倍体、パスタに用いられるデュラム小麦は4倍体で、各ゲノムの遺伝子の組合せは風味やグルテン、でんぷんなどの性質に影響を与えます。
資料:(図1~3)令和2年度製粉講習会 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 池田達哉上級研究員講演資料より

(その他の小麦の分類方法について)

1. 栽培時期や小麦粒の性状による分類

① 冬小麦、春小麦
 小麦を栽培する時期によって分けるもので、秋に播いて翌年の初夏に収穫するのを「冬(ウインター)小麦」、春に播いてその年の夏の終わりから秋にかけて収穫するのを「春(スプリング)小麦」と呼んでいます。穂をつくるために冬の低温が必要な小麦(春化要求性が強い小麦)は秋播きされ、この性質の弱い小麦は春播きされます。小麦が生育できない極寒の地や逆に冬でも十分寒くならない暖地では春小麦が栽培されます。
② 赤小麦、白小麦
 小麦粒の外皮の色合いによって、褐色のものを「赤(レッド)小麦」、淡い白黄色系統のものを「白(ホワイト)小麦」と呼び分けています。また、それらの濃淡の程度を合わす言葉として、褐色の程度が濃いいものに「ダーク」、その程度が薄いものに「イエロー」、琥珀色に近いものに「アンバー」などを付けて色合いを表すこともあります。
③ 硝子(しょうし)質小麦、粉状質小麦
 小麦粒をカッターなどで切断したときに、横断面の組織が密で、半透明状に見えるものを「硝子質小麦」、組織がそれほど密でなく、白っぽく見えるものを「粉状質小麦」といいます。なお、小麦試料中に含まれる硝子質粒の割合を測定するのが「硝子率」で、この値が高い小麦ほど粒が硬くて、たんぱく質含有量が多く、逆に、硝子率が低い(粉状質粒が多い)ものほど、たんぱく質含有量が少ない傾向があります。
④ 硬質小麦、軟質小麦
 粒が硬いものを「硬質(ハード)小麦」、軟らかいものを「軟質(ソフト)小麦」と呼びます。一般的に、硬質小麦はパンへの適性があり、軟質小麦は日本めんや菓子が主用途です。また、硬質小麦は硝子率が高く、軟質小麦は硝子率が低い傾向があります。両者の中間的なものを「中間質小麦」と呼ぶこともあります。
2. 銘柄と等級

 市場に出回る小麦には、多くの場合に「銘柄」が付けられています。銘柄は、一定の地域で生産され、品質的な特徴がある範囲に入る品種の小麦の集合体に付けられる名称です。それによって、どういう品質特性の小麦か、どういう用途に向くのかが、おおよそわかります。
 小麦輸出国では、植物学的な分類、生産や品質上の特徴、生産地域名などを示す単語の中から2~3語を組合せて、銘柄にしています。例えば、アメリカ産ハード・レッド・スプリング小麦、カナダ産ウエスタン・レッド・スプリング小麦、オーストラリア産スタンダード・ホワイト小麦、カナダ産ウエスタン・アンバー・デュラム小麦などです。
 また、多くの小麦生産国では、粒の外観や小麦以外の物質の混入量によって、小麦をいくつかの「等級」に分けるか、一定の基準値以上か以下かに分けています。これによって、その小麦の品位を知ることができます。

小麦粒の内部構造

 小麦粒は、[図4]のように、数層の「外皮」で覆われています。外皮は小麦粒の約13.5%を占め、製粉した場合に「ふすま」になる部分です。その内側にあって、小麦粒全体の約84%を占めるのが「胚乳」で、小麦粉になる部分です。このほか、先端部には「胚芽」があり、小麦粒の約2.5%を占めています。これらの割合は、小麦の種類、品種、粒の充実度などによって、多少の差があります。
 製粉の際に、胚乳と外皮を完全に分離することはできません。このため、胚乳の割合は前述のように約84%ですが、純度が高い小麦粉を得ようとすると、外皮と接する部分の胚乳は外皮とともに除去され、小麦粉の歩留りはせいぜい75~78%になります。
 
 小麦粒の各部位の標準的な組成は、[表2]のとおりです。

小麦粉の成分と栄養素

小麦粉に含まれる栄養素

 小麦粉には3大栄養素の炭水化物、たんぱく質、脂質が含まれており、主成分はでん粉とたんぱく質です。食物繊維、ミネラル類、ビタミン類も量は多くありませんが含まれています。主食としてだけでなく、様々な加工食品として食べられますので、栄養上で占める役割が大きい食品素材です([表3] 小麦、小麦粉、小麦粉加工品、関連食品の標準的な成分を参照)。

小麦粉に含まれる栄養素

Ⅰ.炭水化物
 炭水化物はエネルギー源です。小麦粉中の炭水化物の大部分は「でん粉」ですが、「少糖類」もわずかに含まれています。これらの量を合計すると70%台になり、エネルギー源として重要な役割を果たします。

Ⅱ.たんぱく質
 たんぱく質は生命や活動を維持し、成長や生殖を行うために絶えず摂取する必要があります。小麦粉中にはたんぱく質が6~14%含まれて立派な植物性たんぱく質源であると言えましょう。
 ただし、[表4]に示すように、小麦粉のたんぱく質は他の穀物の場合と同様に、それを構成するアミノ酸のうち、必須アミノ酸(人体内では合成することができず、外部から補給しなければ生命を維持できないアミノ酸)の1つである「リジン」が少なめです。リジンを多く含む動物性たんぱく質食品や大豆製品などとともに小麦粉加工品を摂取すれば、アミノ酸バランスが良くなり、栄養価を高めることができます。パンといっしょに牛乳を飲んだり、めん類を肉や卵といっしょに食べることは、栄養面から見て合理的といえます。
Ⅲ.脂 質
 小麦粉の脂質含有量は2%程度で、主として胚芽に含まれます。小麦胚芽中の脂肪酸は「必須脂肪酸」(栄養上不可欠な不飽和脂肪酸)を多く含みますので、体内で特有の機能を果たし、栄養上有効です。一般に、脂質は炭水化物やたんぱく質に比べて高エネルギーで、食品の風味を高め、ビタミンを運搬する働きもあります。

Ⅳ.無機質(ミネラル
 無機質(ミネラル)の代表としては、人体の骨格を形づくるカルシウムやリンおよび血中ヘモグロビンの鉄があげられますが、その他に、微量でも生体機能の調節(pHや浸透圧の調節、神経や筋肉の働きの調節、各種酵素の構成成分など)に重要な働きをしています。また血液や体内の各種の腺や機能に密接な関係を持ち、ビタミンなどの栄養素の吸収にも大事な役割を持つものがあります。
一般的に、小麦は外皮と胚芽に無機質を多く含みますが、胚乳には少量しかありません。そのため、上級粉ほど無機質は少ない傾向です。無機質の中で、栄養上必要ですが日常の食事で不足しがちなのは、「カルシウム」です。小麦粉100グラム中のカルシウム含有量は、1等粉で20~23ミリグラム、2等粉では25~28ミリグラムです。小麦全粒粉には26ミリグラムくらい含まれていますが、外皮中の「フィチン酸」がカルシウム、鉄、その他の無機質の一部と結合して不溶物を形成し、体内で吸収されずに排泄する作用をしますので、無機質の一部は栄養にならないことになります。そのため、小麦全粒粉でつくった食品を食べるときには、カルシウムを多く含む食品といっしょに食べることが望ましく、あらかじめカルシウムを添加しておくのも一つの方法です。胚乳にはフィチン酸は少ないので、小麦粉ではこのような心配はほとんどありませんが、無機質そのものがあまり多くないため、バランスのとれた食事が望ましいといえます。

Ⅴ.ビタミン類
 小麦粉に含まれるビタミンは、B1、B2、ナイアシン、B6、パントテン酸、およびEですが、それらの量は十分とはいえません。また、A、C、およびDはほとんど含まれていません。小麦粒中ではビタミン類が外皮や胚芽に偏在していますので、全粒粉には多く含まれます。
 小麦粉の主成分であるでん粉がエネルギー源として十分に活用されるためには、ビタミンB群、とくにB1が不足しないことが必要です。しかし、小麦粉にはこれらが十分に含まれていませんので、他の食品から摂取する必要があります。

カロリー源としての小麦粉

 前述のとおり、小麦粉の約70%以上が炭水化物(主にでん粉)から構成されており、小麦粉はエネルギー源として重要な食材です。小麦粉に含まれる「3大栄養素」といわれる炭水化物、たんぱく質、および脂質は、体内でゆるやかに燃焼してエネルギーになり、体内のいろいろな器官を活動させ、体温を維持し、仕事や運動などに必要なエネルギーを供給する働きをします。
これら3成分の栄養価をエネルギーの視点から見るときは、それらの含有量(グラム)にそれぞれの「エネルギー換算係数」を乗じて、エネルギーを算出します。文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」では、「FAO(国連食糧農業機関)/INFOODS」のエネルギー換算係数 [表5] を用いて計算したキロジュールとキロカロリーが併記されています([表3] 小麦、小麦粉、小麦粉加工品、関連食品の標準的な成分を参照)。
 小麦粉100グラムのエネルギーは約340キロカロリーで、精白米のエネルギー(342キロカロリー)とほぼ同じです。しかし、エネルギーだけでなく、栄養成分の量や質などが重要であることは、言うまでもありません。


食物繊維源としての小麦粉

 小麦の外皮の主体である細胞壁や胚乳の柔組織の細胞膜を構成している繊維質は、植物体構成の骨組み的な役割を果たしており、セルロース(「繊維素」ともいいます)、ヘミセルロース(ペントサンなど)、およびリグニン(前記2成分の接着剤の役をします)から成っています。
 「セルロース」は酸やアルカリに不溶性で、化学的には「粗繊維」として定義されており、小麦粉中にも少量含まれています。人体内では分解されませんので、栄養にはならず、エネルギー源にもなりません。「ヘミセルロース」と「リグニン」も体内では分解されにくいため、約50年位前までは、繊維質は栄養面では無用の組成物と考えられていました。
 しかし、1972年ごろから、繊維質の摂取が不足すると、消化器系統に障害が出て、憩室(けいしつ)病、結腸がん、冠状動脈硬化症などにかかりやすいことが明らかになりました。また、繊維質は胆汁(たんじゅう)酸の排泄を進め、血管にコレステロールが沈着するのを減らし、血圧を下げる作用もあることがわかりました。これによって、穀粒の外皮の繊維質は見直されて、「食物繊維(ダイエタリー・ファイバー)」と呼ばれるようになりました。食物繊維は、「植物の細胞壁を構成するもので、人の消化酵素では分解されない多糖類とリグニンのほか、細胞内に存在し、同じく消化されない多糖類を含める」と定義されて、「ペクチン質」、「ガム質」、および「粘質物」も含まれます。
 小麦粉中には食物繊維が2.5~2.8%含まれており、そのうち、不溶性のものは1.3~1.6%、コレステロールの状態を改善する効果があるとされる水溶性のものは1.2%ほどです。日本人は平均で1日に約90グラムの小麦粉を食べていますので、小麦粉から約2.4グラムの食物繊維(うち水溶性のものは約1グラム)を摂取していることになります。
 食物繊維の効果の一つは、便秘の解消で、古代ギリシャの医学者ヒポクラテスの頃から、小麦ふすまは緩下(かんげ)剤として使われていたようです。日ごろから、野菜、海藻、穀物、小麦全粒粉、小麦ふすま、きのこ類のような食物繊維を多く含むものを適量食べていると、便通が良くなり、満腹感を増しますので、肥満を防げます。ダイエット食にも食物繊維は欠かせないものです。また、毒性がある金属類と結合して排せつする作用もあります。
 しかし、食物繊維には、大事な栄養成分の吸収を妨げる性質や、必須無機質と結合して排泄する作用もないとはいえませんので、食物繊維が良いからといって、多く摂れば摂るほど良いというものではありません。食物繊維のこれらの性質を上手に利用するには、自分の栄養や健康状態をよく把握し、体調に合わせて適量を摂取したいものです。

小麦粉のエンリッチについて

 小麦粉は細かい粉体ですから、食生活で不足しがちな微量栄養素を添加して、栄養的により完璧なものに近づけることが容易です。これを「エンリッチ(栄養強化)」といい、諸外国では、それぞれの国民の栄養ニーズに合わせたエンリッチが広く行われており、規格がある国もあります。日本でも、一部の学校給食用小麦粉でエンリッチが行われています。
 小麦粉はこのように微量栄養素をエンリッチできるだけでなく、栄養成分を多く含む大豆粉、大豆たんぱく質、卵粉などを均一に添加するのにも好都合です。

小麦胚芽は栄養の宝庫

 小麦中に占める胚芽の割合は約2.5%です。胚芽は次世代の小麦をつくる芽、茎、および根になる部分で、たんぱく質、脂質を多量に含み、ビタミン類(B群、Eなど)や微量成分も多く、栄養の宝庫といわれています。
 小麦粉の製粉工程で生じる胚芽を多く含む部分は以前から飼料用に高く評価されましたが、これを精選、分離し、焙焼加工したものが栄養・健康食品として賞用されています。特に、胚芽から抽出した「小麦胚芽油」には、ビタミンE(トコフェロールとも呼ばれます)、中でも生理活性が高いα-トコフェロールが多く含まれているほか、油を構成する脂肪酸には不飽和の必須脂肪酸(リノール酸、リノレン酸)が多いため、カプセル加工して健康補助食品として市販されています。

日本人の栄養摂取に占める小麦粉の役割

 日本人の栄養摂取の状況は、厚生労働省発表の「令和元(2019)年国民健康・栄養調査」によれば、栄養素の摂取量では、カルシウムが平均栄養所要量をやや下回っている以外は、たんぱく質、鉄、ビタミン類など、所要量を上回っています([表6] 日本人の摂取栄養量の推移を参照)。
 農林水産省の食料需給表[表7]は、FAO作成の手引きに準拠して作成され、供給された純食料の国民1人1日当たりの熱量および栄養量を表にまとめたものです。必ずしも実際に個人が摂取した熱量および栄養量ではありませんが、昭和60(1985)年以降の供給栄養量は十分なものと言えます。
 現代日本人の零歳平均寿命の長さの背景には、このような食生活によるところも大きいと考えられます。
 しかし、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」をみますと、近年、炭水化物の摂取は適正量を下回る傾向が続いている一方で、脂質は摂取過多の傾向にあり、生活習慣病の増加などが懸念される状況がみられます。日本では、主食だけをみても、長年食べてきた米飯とともに、世界のいろいろな地域に起源を持つさまざまな小麦粉食品がいろいろな場面で多様な食べ方をされています。炭水化物が主成分のこれらの小麦粉食品をもう少し多く、上手に食べ、脂質を多く含む食品を減らすことで、楽しみながら栄養バランスを保つようにしたいものです。なお、適正な栄養バランスの実現をねらって「食生活指針」が平成12(2000)年に定められ(平成28(2016)年に改正)、これを具体的な行動に結びつけるために、平成17(2005)年に厚生労働省と農林水産省が「食事バランスガイド」を策定し、その普及が図られています。
 欧米では、「パンは栄養のキャリアー(運搬者)」といわれています。これはパンといっしょに他の食品類を摂取し、総合的に栄養を摂ることを意味しており、小麦粉食品のこういう利点を上手に活用したいものです。

小麦粉特有のたんぱく質グルテンと小麦でんぷんについて

グルテンを形成するグルテニンとグリアジン

 小麦粉中にはたんぱく質がおよそ6~14%程度含まれており、その約80%は「グルテニン」と「グリアジン」(両者の割合は小麦の品種などで差があり、グルテニン55~70に対し、グリアジンは45~30)です。小麦粉に適量の水を加えてこねると、このグルテニンとグリアジンが絡み合って「グルテン」ができます。いろいろな穀物の中で小麦だけがグルテニンとグリアジンの両方を成分として持ち、グルテンを形成できるという特性に恵まれています。例えば、ライ麦にはグリアジンはありますが、グルテニンがないため、その粉からは小麦粉のような生地をつくることができません。
[図5] のように、グルテニン(a)は、弾力に富みますが伸びにくい性質のたんぱく質で、一方、グリアジン(b)は、弾力は弱いですが粘着力が強くて伸びやすい性質を持っています。このような性質が異なる2つのたんぱく質が水を加えてこねることによって結びつくと、両方の性質(弾性と粘着性)を併せ持ったグルテン(c)が形成されます。小麦を粉にして利用することで、この2つのたんぱく質が結びついてグルテンを形成しやすくなるのです。
 原料の小麦の種類や品質、加える水の量、副材料や添加物の種類と量、およびこね方によって、できるグルテンの量、力、および粘弾性のバランスが微妙に異なります。硬質小麦は軟質小麦より一般的にたんぱく質を多く含みますから、形成されるグルテンの量が多くなります。グルテニンとグリアジンの比率や分子構造によって、グルテンは粘着力が強かったり、弾力が強かったりします。適した量の水を加えてよくこねると、グルテンがしっかり形成されますが、水が足りない場合やこね方が不十分だと、もろくて弱いグルテンしか得られません。

グルテンの性質

 小麦粉に加える水の量によって、パンづくりに適した弾力があって軟らかめの生地、うどん用のまとまっていないそぼろ状の生地、てんぷらやケーキに使うどろどろした状態のバッター、薄い糊状など、小麦粉はさまざまな状態に変化します。
 パンをつくる場合、小麦粉にイースト、油脂、砂糖、塩などの材料と水(他の材料の種類や量によって変わりますが、粉100に対してほぼ60~70)を加えてこねますと、軟らかいのに弾力がある生地になります。[図6]は他の材料が入っていない小麦粉だけの生地を染色して写した電子顕微鏡写真で、大小の丸いでん粉の粒(緑色に染色されている部分)の間にグルテン(赤色に染色されている部分)が形成されています。生地中に形成されたグルテン(aの状態)は、さらによくこねると薄い膜状になり、小麦粉中のでん粉粒や抱き込まれた気泡を包み込みながら、bの状態を経て、さらに細い繊維状の網目が広がってゆきます。
 時間が経つと生地中に混ぜたイーストが働いて発酵が進み、二酸化炭素とアルコールを発生します。二酸化炭素はたくさんの小さな気泡になって生地組織中に入り込み、全体を押し広げ、大きな体積ときめが細かいすだちをつくっていきます。アルコールは生地を伸びやすくし、風味や香りづけに役立ちます。発酵の終わりころまでに二酸化炭素を蓄えて伸びた生地は、オーブンで熱が加わると最後のガスを発生し、膨張して体積がさらに大きくなって、良く伸びたパンに仕上がっていきます。生地の中心温度は95~97℃に上がりますので、グルテンの網目状組織は熱で変性して固くなり、パン中にしっかりした骨組みができて、冷えてもその形を保てます。建物の鉄筋コンクリートに例えますと、でん粉がコンクリート、グルテンが鉄筋の役割を果たしています。
 製パンでは、たんぱく質含有量が多くて、その質が良い小麦粉が必要ですので、パン用粉の原料小麦には、たんぱく質の量が多くて、粘弾性のバランスが良いグルテンを形成できる特性を持つことが要求されます。同じアメリカ産の硬質小麦でも、ダーク・ノーザン・スプリング小麦の方がハード・レッド・ウインター小麦よりパン用として優れているのは、グルテンの粘弾性の微妙なバランスがパンづくりに向いているからです。
 軟らかいのに適度のコシがあるうどんをつくれるのも、グルテンが形成されるからです。うどんには、たんぱく質含有量が中程度の小麦粉を使います。小麦粉100に対して水を30~33くらい加えてめん用ミキサーで混ぜますと、そぼろ状の生地になり、これを2本のロールに挟んで圧しながら伸ばし、出来ためん帯を2枚合わせてロールを通すなどを数回繰り返すことによって、グルテンがある程度形成されます。たんぱく質含有量が多くありませんし、水の量や混ぜ方が少ないので、パン生地のような弾力があるグルテンにはなりません。形成されるグルテンの量が多くて弾力があり過ぎたら、硬いうどんになってしまいます。
 手打ちうどんはコシがあります。ロールで圧しながら伸ばした生地ではグルテンが一定方向に伸びる傾向がありますが、手打ちでは少し多めの水を加えてよくこねますので、複雑に絡まり合った網目状のグルテンになり、グルテンの量は少ないですが、適度の弾力(こし)が出ます。技術の進歩で、小麦粉に多めの水を加えて特殊なミキサーでこねることによって、機械でも手打ちに似た食感のうどんをつくれるようになっています。
 ケーキがふっくら膨らみ、花が咲いたようなてんぷらに仕上がるのも、小麦粉の主成分のでん粉と量が少なくて力が弱いグルテンの共同作業の結果です。たんぱく質含有量が少なく、グルテンの質が軟らかい小麦粉を使い、グルテンができ過ぎないように軽く混ぜるのがコツです。グルテンができ過ぎてぼとぼとの生地になりますと、おいしいケーキやてんぷらに仕上がりません。

でんぷんの働き

 小麦粉の成分中の約70%はでん粉で、生のときは電子顕微鏡写真[図7](a)のような状態です。小麦粉を水に溶いてよく混ぜ、加熱して温度を上げていくと、でん粉粒が水を吸って膨潤して糊化が始まり、(b)から(c)のような状態を経て、(d)のようにほぼ完全に構造が破壊されて糊になります。
 おいしいゆでうどんの軟らかいのに適度の弾力がある食感の形成には、適度の量のグルテンと共に糊化した小麦でん粉の優れた性質が大きく貢献しています。食パンが冷えてもその形を保つことができ、かなり長時間、内部を軟らかい状態に維持できるのは、グルテンが形成した網目構造の中に小麦粉の糊化したでん粉がしっかり入り込んでいるからです。
 ケーキがよく膨らみ、口の中で溶けるような食感になるのにも、糊化したでん粉が大きな役割を果たしています。ケーキの構造を形づくっている一つ一つの気泡膜は、主として糊化したでん粉でできています。このように、でん粉の糊化性状は小麦粉の加工でとても重要です。
 以上から、ケーキ作りに適した小麦粉はたんぱく質の量が少なくて質がソフト、でんぷんの糊化性状が適当ででんぷん分解酵素のα-アミラーゼの活性が強すぎないものとなりますが、現状ではアメリカ産のウェスタン・ホワイト小麦が概ねその特性を備えています。
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